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【ニコラ視点】恋は恐ろしい

 部屋をノックし、返事を聞いて扉を開ける。


「なんだ、ニコラか」


 ミシェル嬢じゃないことをあからさまに残念さを出す。こちらも仕事で仕方なく来ただけなのに、なんだとは失礼だ。


「残念なお知らせだが、ミシェル嬢は今日用事があって一緒に食べれないそうだ。彼女、急に行けなくなったこと謝ってた。ほら、この昼飯預かった」


 食事をデイヴの机に置いてやる。


「何の用事だよ」


「知らん」


「なんで聞かないんだよ!今まで彼女から断られたことなんてなかったのに」


 前髪をぐしゃぐしゃにしながら一人で悩んでいる。


「彼女にも用事くらいあるだろ。狭量な男は嫌われるぞ。黙って食え」


「うるさいな。食べるに決まってるだろ」


 怒りながらも、もぐもぐと食べている。デイヴは今まで仕事に集中すると食事を疎かにすることも多かったが、彼女が料理担当になってからきちんと食べるようになって良かった。


「今日も美味い……けどやっぱり一緒に食べたかったな。彼女と話すだけで俺は元気をもらえるんだ」


 デイヴは本当に彼女が好きなんだなと思う。


「後で自分で食器返しに行けば?彼女がまだ休憩室にいるなら少しは話せるだろ」


「そうする」


 彼女に会えることを想像したのか、デイヴは嬉しそうに微笑んだ。

 この男が一人の女性相手にこんなに本気になるなんて少し前の僕は信じられないだろうなと思った。



♢♢♢


 部下からデイヴが夕方になっても執務室から一歩も出てこないし、顔色が悪いと僕に報告がきた。


 しかも、仕事が進んでるわけでもなく話しかけても曖昧な返事をされ困っていると……体調が悪いのであればお休みいただきたいが、私達が言っても聞いていただけないので副団長どうにかして下さい――というわけで僕は仕方なくまた執務室に向かった。



「……おい。何でそんな状態になってる?」


 部屋の電気もつけず、暗い部屋で机に項垂れていたデイヴが、少しだけ僕の方をチラッと見た。

 そしてすぐにまた机に項垂れる。その様子に腹が立ち、俺は部屋の電気をパチンとつけた。


「休憩室に行ったら……しめられてた」


 掠れたような弱々しい声で何か呟いているが、小さ過ぎて聞き取れない。


「聞こえねぇ、休憩室が何だって?」


「抱きしめられてた」


「一体何の話だ?」


「ミシェルが……抱きしめられてた。しかも抱きしめ……返してるように見えた」


「誰に」


「ヘンリー……」


 はぁ、とため息をつく。二十八歳の大人がたった一人の少女の言動でこんな状態になる。恋とは恐ろしいものだなと改めて思う。


 でもデイヴは第一騎士団の団長だ。しっかりしてもらわなければ。


「何があったとしても、仕事はちゃんとしろ!こんな暗くてうじうじした男にミシェル嬢は絶対に振り向かないぞ」


「その言葉に心が傷付く」


「傷付いてる暇なんてないだろ。ショックかもしれないが、抱きしめていたくらい大したことじゃないだろ?なんか理由があったのかもしれないし。本当に取り返しがつかなくなる前に、お前が彼女を惚れされたらいいだけだろ」


 気合を入れるためにデイヴの背中をばしっと叩く。


「ああ、そうだな」


「お前の方がいい男だ、俺が保証してやる」


「ふっ……ニコラに言われてもな。でもありがとう。少し元気でた」

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