2 お見合い
私は今なぜか騎士団長とお洒落なレストランで向かい合って食事を取っている。
――どうしてこうなった?
今日は仕事が休みなので、ゆっくりしようとしていたらお父様から出掛けるのでドレスに着替えるように言われた。
私が拒否する間もなく、準備万端だった侍女たちに美しく磨きあげられ私は一瞬で伯爵令嬢スタイルに変身した。
「お嬢様、とてもお美しいです。本当なら毎日ドレスをお選びして、髪を結って、お化粧させていただきたいですわ」
ユリアは私を飾り付けるのが好きなのだ。
「ミシェル、やはり私の娘は綺麗だ。そのドレスもとても良く似合ってるよ」
お父様が微笑みながら私を褒める。この人は昔から私を溺愛している。
そして、ずっと行きたいと思っていた高級レストランに連れてきてもらい「お父様、ありがとう」と喜んだのは一瞬のこと。
個室の部屋に入るとそこには私の現在の上司である第一騎士団の団長デーヴィッド・フォン・メクレンブルグが無表情で座っていた。
「あの……どうして団長がこちらに?」
「聞いていないのか?」
こちらが質問したのに、逆にじっと私を睨みつけながら不機嫌そうな声で聞き返される。この状況が理解できなさすぎてくるっと振り返りお父様の方を向く。
「ミシェルが逃げる可能性があったから、言わずに連れてきたんだよ。今日は……お見合いだよ」
お見合い?……団長と私がお見合い??
「はい?あの、お父様……どういう意味ですか」
「そのままの意味だよ。君とデーヴィドのお見合い。まあ、もうお互い挨拶しなくても名前も顔も知ってるだろうけど」
私はそれを聞いて唖然とした。デーヴィド団長は私の十歳年上の二十八歳。我が国の英雄としてこの若さで第一騎士団長になっていらっしゃる方だ。私は二ヶ月前からこの団長が率いる騎士団で治癒士として働いているので直属の上司にあたる。
騎士であるため、身長も高く筋肉質。見た目も甘いマスクで、剣の腕も申し分ない。性格は硬派で真面目。その上、彼は公爵家の長男なのである。
このパーフェクトな男の妻に誰がなるのか?それは適齢期の御令嬢たちの中で一番の話題であった。彼が舞踏会に行けば見目麗しい御令嬢方に一瞬で囲まれる。なのに、もてない私とお見合いなどと。これは何の冗談なのか。
「お父様!私とお見合いなど団長に失礼ですよ」
お父様は治癒士としてこの国で影響力がある。きっともてない私を心配して、団長に無理やり見合いを頼みここへ連れて来たのだろう。
「何を言う。可愛いミシェルと見合いができるなど、この国一番の幸せじゃないか?」
……これはだめだ。お父様とは話が通じない。
「お父様、少し団長と二人で話しをさせてください」
お父様は私の言葉に少し驚いた顔をしたが、あとは若い二人で食事をしなさいと席を立った。離れる前に「デーヴィド、娘に手を出すなよ」と釘をさして去っていった。
もてる団長が私なんかに手を出すはずがないではないか?お父様は不要な心配を口に出して……恥ずかしい。