16 ヘンリーの告白①
私が休憩室にちゃんと戻ってきたことに彼は安心した様子だった。
「待ってて下さい、今作りますからね」
ジュージュー
チキンを焼いてるうちにスープとパンを温める。いつもは口数の多いヘンリーだが、今日は黙っている。やはり元気がないようだ。
カリカリに焼いたチキンのトマトソースがけ
オニオンたっぷりのスープ
パリパリのフランスパンにバター
「さあ、ヘンリーさん。熱いうちに食べましょう。いただきます」
彼は熱々のご飯を見て自然と嬉しそうな顔になった。美味しい御飯って心が癒されるものね。
「いただきます」
ぱくぱくと食べながら、横から小声で「美味い」と呟く声が聞こえ、彼の口に合ったのだと安心した。
「ねぇ、俺のとミシェルちゃんのチキンなんか違うよね?」
「さすが!気付きました?ヘンリーさんが元気なかったからチーズもかけたんです……貴方にだけ特別ですからみんなには内緒よ」
その言葉にヘンリーさんは目を見開き驚いたような表情をしたあと、フッと笑顔になった。
「ありがと、本当に君は優しいよね」
彼は目頭をぐっと抑え、少し掠れた涙声でそう言った。
「あはは、チーズで優しいなんて大袈裟ですよ」
「大袈裟じゃないよ。今まで見返りなしに俺のことを考えて何かをしてくれる人なんていなかったから」
「そんなこと……」
「俺ね、バーグ伯爵家の三男とか言われてるけど、実は妾腹なんだ。父が下級貴族だった美しい母を半ば無理矢理愛人にした。そのストレスもあったのか、実の母親は早くに死んだよ。俺は親父に五歳で引き取られた後は義母や義兄達に冷遇されてた。なんてったって俺の顔は愛人である母の生写しだったから憎かったんだろう。親父は仕事でほとんど家にいなかったから関わりがなかった」
「そうだったんですか」
「幼い頃から毎日、毎日、自室で冷たい飯を一人きりで食べた」
「それで一人のご飯が苦手なのですね」
「うん。トラウマ的な?普段も周りに人がいないと不安になるから、なるべくいつも誰かを傍に置いてる。女の子とかね」
ああ、毎日違う御令嬢達と一緒にいるのはただ寂しさを紛らわせるためだったのかと納得した。
遊び人と言われているわりに、可愛らしい御令嬢達と過ごす彼は、偽の笑顔を貼りつけて楽しそうな演技をしているだけに見えていたからだ。
「それにほら?俺って器用でなんでもできるし、運動神経も良いから正妻の子どもの兄達より優秀だし、母譲りのこの顔もあるし目立つわけ」
「それでさらに虐められた。愛人の子が出しゃばるなって。心の中でふざけんな、お前らの力が足りないだけだろって思う反面、俺が軽薄に生きた方が波風たたずに楽かなって思っちゃって色々諦めてた」
「勿体ないです」
「え?」
「ヘンリーさんがそんな風に自分を偽って生きるのすごく勿体ないです!!」