14 離したくない
「すみません、取り乱してしまって」
私はしばらく泣いて落ち着いてきた。正気に戻るとデーヴィド様の胸の中にいることが急に恥ずかしくなり、離れようと胸を手で押すがびくともしない。
「困ったな。君をこのまま離したくない」
彼は背中に回している手にさらに力を入れ、ギュッと強く抱きしめ直した。彼と私の体がぴたっと密着してしまっている。
「ええっ?」
「嘘だよ、ごめん」
ゆっくりと二人の体が離れ体温がスッと下がる。
私はデーヴィド様に泣いて腫れた目を見られるのも恥ずかしく、視線を合わせられない。
「すみません、団長の服が濡れちゃいましたね」
「そんなこと気にするな、君の涙ならいつでも受け止めるよ」
デーヴィド様は私に穏やかな優しい笑顔をむけてくれる。
「私と婚約する気になったかい?」
デーヴィド様はわざとイタズラっぽく聞いてくる。私に気を遣ってきっと軽い態度でいてくれている。
「まだ……なってません」
「まだね。でも以前より脈はありそうで安心したよ。私は手強い相手のほうが燃える質だから覚悟してて」
♢♢♢
「ミシェルちゃん、なんかあったの。目が腫れてない?」
「ヘンリーさんよくわかりますね」
「そりゃ、ミシェルちゃんの変化ならすぐにわかるさ」
さすが女たらし!女性の変化にすぐに気がつくのね。でも泣いていたって知られたくなかったな。
「誰かに意地悪されたなら言いなよ?傷付けるやつは俺がやっつけてあげるから」
彼はいつになく真剣な顔でそう言ってくれる。
「あはは、優しいですね。ヘンリーさんって私のお兄様みたい」
その言葉に彼はとても微妙な顔をして、不機嫌そうにしている。
「おいおい、こんな色男捕まえて兄はないだろ。そこは、ミシェルちゃんが『ヘンリーさん素敵、格好良いから惚れたわ。彼女にして!』ってなるところでしょ?俺を男扱いしてくれないのは君くらいだ」
彼は女性の真似なのか声色を高くして、体をくねくねしながらそんな冗談を言っている。
「うふふ。はいはい、私以外の女性達はみんな彼女にしてって言うんですね」
そのヘンリーさんのおどけた様子についつい笑ってしまった。
「あ!やっと笑ってくれた」
彼は私の頭をポンと撫でて、ニッコリと微笑む。中性的なお顔立ちなので、その笑顔はその辺の女性よりよっぽど素敵だ。
あえて軽口を言って私を励まそうとしてくれたなんてやっぱり優しい先輩だな。
「私は、いつもヘンリーさんのこと優しくて格好良いと思ってますよ」
私は素直な気持ちをサラッと口にした。
「君って本当に……いや、何でもない」
ヘンリーさんは何かを呟き、片手で口を押さえたまま頬を染めてその場を離れた。