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13 異端な令嬢

「私、ずっとデーヴィド様にきちんとお伝えしたいことがありまして」


 私は背筋を伸ばし、真面目な顔になる。


「なんだい?急に改まって」


「私と貴方の間に子どもができても、その子が治癒魔法(ヒール)を受け継ぐかは不明なのです」


「なっ、何故……急にこ、子どもの話など。まだ婚約もしていないのにさすがにその話は早くないか?」


 彼は頬を染め狼狽えながら、口元に手を当てている。


「でも……その、君も望んでくれるならもちろん……私も子どもが欲しいと思うよ」


 何故か彼は照れているようだ。この話に照れる要素などあるだろうか?と不思議に思ったが、私は気にせずに話を続けた。


「そうですよね。公爵家にとって後継は大事ですもの」


「それは間違いないが……でももっと大事なことがあるだろう?」


「あのっ!私は治癒士(ヒーラー)ですが、異端児なので子にきちんと能力が引き継ぐかは不明です。それに私は社交も得意ではないし、戦場に行って血だらけになるような女ですから結婚相手には向いていません。だから……婚約は考え直してください。公爵家にとってメリットが全くないで……」


 私が言い終わる前に、いきなり団長にギュッと強く抱きしめられた。私は驚いて身動きが取れない。


「誰だ?君を異端などと酷いことを言ったのは」


 団長の声が怒りで震えている。


「安心してくれ。これからは君を傷付ける者全てから私が守るよ」


 私の頭を優しくよしよしと撫でてくれる。


「俺はミシェルが治癒士(ヒーラー)だから好きになったのではない。君が君だから好きなんだ。だから私は誰が何を言おうが婚約するの諦めないよ?」


 (本当に私自身を好きになってくれたの?)


「子どもにミシェルの能力が引き継がれるかどうかなど……私にとってはどうでもいいことだ」


 昔から私は周囲に異端児と言われ、友達と仲良くなってもやっぱりみんなと私の間には壁があった。珍しい女の治癒士(ヒーラー)と常に一目置かれ、注目を浴びて過ごした。


 能力があるばかりに伯爵令嬢なのに隊服に着替えて訓練を受け、戦場にも行く。しかし、完全に男性として過ごせるわけもなく、最低限の令嬢としてのマナーや社交等も覚える必要があり私のしんどさは通常の二倍だった。


 それに治癒士(ヒーラー)の私は男としても女としても中途半端だった。いくら頑張っても男性と同じようには働けないし、一人で戦場には行けない。しかし伯爵令嬢としての私も女として完璧ではない。


 もちろん、意地悪をされたりしていたわけではなく周囲からは私に対して好意的な意見も多かったが、結局どちらの場所でも私はどっちつかずで辛かったのだ。


 まさか、団長……デーヴィド様が治癒士(ヒーラー)でないそのままの私を肯定してくださるとは思わなかった。


 ひっく…ひっく……


 私はそのままデーヴィド様の胸で泣いてしまった。彼はそのまま優しく私を宥めてくれる。


「君はいつも頑張り過ぎている。私の前では頑張らなくていいから。大丈夫だよ」


 彼に婚約を諦めてもらうためにこの話をしたのに。こんなことを言われたら私も好きになってしまいそうだ。

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