新婚旅行④
「ねえ?タオルって必要?」
「も、も、もちろん必要です」
デーヴィと一緒に外湯に来た。彼は二人きりなんだしタオルはいらないと不満気な様子だが、まだ明るいうちから肌を晒すなど……考えただけで倒れそうだ。
「まあ、いいけど。体洗ってあげる」
「大丈夫ですっ!自分で洗えます」
「酷い。せっかくの新婚旅行なのに……」
彼は唇を尖らせて拗ねているが、見て見ぬふりをして各自で体を洗い温泉に浸かる。
「ふぁー……気持ちいいですね」
「ああ、極楽だな。でもミミ、流石に俺から離れすぎじゃないか?」
彼がじっと横目で私を見ている。
「そ、そうですか?」
私は彼の裸体を直視できずに目線を逸らす。
「はぁ、もうだめだな」と彼はため息をついた。
それを聞いて私は胸がズキンと痛くなる。せっかく夫婦になったのにこんなに恥ずかしがって……嫌われちゃったらどうしよう。彼は大人だから、きっと一緒にお風呂に入るくらいどうってことないのだろう。
「ごめん、君の気持ち考えてなかった。結婚したばかりなのに俺と一緒に風呂とか嫌だよな。夫婦になったからって浮かれすぎてた」
彼はザバっと湯船から立ち上がり「先に出るからゆっくり入って」そう言って出て行こうとした。
だめ……このままだと私が嫌がっていると誤解されてしまう。
「やだ、行かないでっ」
私は彼の手を咄嗟に掴んだ。彼は……一瞬驚いた顔をしたがすぐに温泉に浸かり直して私の方を向き「どうした?」と顔を覗き込んだ。
「私も本当はデーヴィの傍にいたいの。でも近くにいるとドキドキしちゃって胸が……痛くて」
「えっ?」
「嬉しいのに恥ずかしくてどうしたらいいかわからなくて……だから離れてたの。幼稚でごめんなさい」
「じゃあ一緒に温泉入ってていいの?」
彼は頬を染めながら、おそるおそる聞いてくる。
「一緒にいたいです」
「ありがとう。嬉しい」
彼は私を膝にのせ、後ろからすっぽり抱きしめた。彼と体が密着することで満ち足りた気持ちになる。
「デーヴィ……私のこと嫌わないで」
「何言ってるの?俺がミミを嫌いになることなんてないよ」
「さっき、ため息つきながらもうだめだって言ってたから……嫌われちゃったかと思った」
私は思い出すと哀しくなり目が潤んでくる。
「え!ち、違う!あれはミミが嫌がってるのに無理矢理一緒に風呂に入った自分自身に呆れてたんだ。自分が抑えがきかなくてだめだなって意味だから」
「そうなの?」
「不安にさせたみたいで、こちらこそごめんね」
彼は後ろから私の頬にキスをする。私は彼の顔を見たくてくるっと向かい合わせになるように位置を変えた。
デーヴィの濡れて光っている髪、引き締まった体、私を見つめる熱い瞳……どれも素敵でドキドキする。
私はそっと彼の頬に手を伸ばし、ちゅっと唇にキスをした。
「大好き」
私はそう言って微笑んだ。彼の頬が一瞬で真っ赤に染まり「君のその不意打ちはやばい」と呟いた。
「俺も大好き」
そう言った彼は角度を変えて何度も私に口付けを落とす。
ちゅっ、ちゅっ
「口……開けて……」
「んっ」
「そう、上手だ……可愛い」
彼の舌が私の口の中に入ってくる。これは最近知った大人のキスだ。恥ずかしくてどうにかなりそうだけど……彼とするのは気持ちがいい。
それに、今はお互い裸。のぼせてしまいそう。
くたっと力が抜けて彼の肩に体重を預ける。彼はギュッと抱きしめ「これ以上は危険だね……俺も我慢できなくなりそうだから」と言って私を横抱きにして湯船から上がった。
その後、彼は体を拭いたり髪を乾かしたりと私の世話を焼き続け部屋に戻った。冷たいお水を飲むと、少しだけ気持ちが落ち着いてくる。
晩御飯は軽めにしてもらったが、ここでも美味しい海鮮料理の数々で素晴らしい味だった。彼と一緒だからと油断して三杯目のお酒を飲んだ後、とても楽しい気分になってきた。
「デーヴィ!旅行楽しいですねぇ……ふふふ」
「酔ってるね?」
私はふわふわとしたいい気分で彼に抱きついた。しかし……そこから先の記憶はところどころしかない。