新婚旅行③
店を出て大通りに出ると、周囲から私達へ視線が集まる。ヒューっと指笛を鳴らされ「お姉さん美人だね」とか「こっちでみんなで遊ぼうよ」とか声をかけられる。
海賊?船乗りなのだろうか?みんな大きな体の男性ばかりだ。デーヴィには負けるけれど。
「旦那……あんたも色男だが、こんな綺麗な女独り占めなんてずるいじゃないか。この辺じゃ良い女はみんなで共有するもんだぜ」
リーダーのような男がそう言いながら大声で近付いてくる。周りからハハハ、そーだ!そーだ!と不愉快な笑い声が聞こえる。私はデーヴィの服をギュッと握ると「ミミ、大丈夫だ」と囁きながら肩を抱きしめてくれた。
「大事な妻を他人と共有するような趣味はないんでね。できれば手荒な真似はしたくないんだが……」
彼は周囲の男をギロリと睨み牽制するが、それだけで怯む男達ではないらしい。
「旦那は随分と力に自信あるんだね。へぇ?人妻なら今夜は楽しめそうだ」
ペロリといやらしく舌を舐めた瞬間、デーヴィはチッと舌打ちをし「下衆が」と言った後、目にも止まらぬ早さで男の腹部を殴った。みんなが気がついた時には男はドサッと倒れていた。
「な、なんだこいつは?」
デーヴィのあまりの強さに今まで周囲で冷やかしていた男達が青ざめている。彼は剣を持たなくても体術もかなりの腕前なのだ。
「彼女が欲しいならかかってこい。俺がいくらでも相手になってやる」
怒っている彼は指を上に向けてクイクイと手招きをし挑発している。しかし、あの強さをみて向かって来る男はいなかった。
「じ、冗談だ。許してくれ」
そう言ってわーっとみんな逃げていった。デーヴィは逃げていく男達を睨みつけふんっと鼻を鳴らしたあと「ミミに声を掛けようなどと百万年早い」と怒りの声をあげた。
そして、怒りを鎮めた彼は私の方を向いて微笑んだ。
「ごめんね、怖かったね」
そう言って私の頭を愛しそうにゆっくり撫でた。
「大丈夫です。デーヴィが守ってくれると信じてましたから」
するとさっきの様子を怖々と見ていた人たちからわーっと歓声が上がる。
「アイツかなり強いのに簡単にやっつけるとは!」
「お兄さん強いねーっ」
「カッコいい!お姉さんも美人だし美男美女とはあんたらのことだね」
デーヴィと私は沢山の人に囲まれる。
「ごめんね、あんな奴らばかりじゃないからこの街嫌いにならないでね」
「ほら、これうちのおすすめ!持っていって」
「久々にスカッとしたな」
私達はあっという間にお菓子やらお花やらで両手いっぱいになる。
「あ、ありがとうございます」
「お姉さん甘いの好き?はい、これこの街で一番有名なスイーツなの。お兄さんも一緒にどうぞ」
アイスみたいな物を渡される。せっかくだからいただこうと二人でベンチに座って食べる。
ペロリ
「んんーっ、冷たくて甘くて美味しい」
バニラに塩の味がする。シーソルトのジェラートみたいだ。
「美味いな。甘いのと塩が合うって意外だな」
「本当ですよね」
デーヴィはあっという間に食べ終わった。私も一生懸命食べるが、どんどん溶けてきて口の周りにジェラートがついてしまう。ああ、どうして私はこんな子どもっぽいんだろう?
彼は困っている私を何故か嬉しそうにジッと眺め、口の周りについたジェラートをペロリと直接舐め取った。
「甘いな」
固まった私を横目に「ミミ、さらに溶けるよ」と冷静に突っこまれて慌ててパクパクとの食べて飲み込んだ。
彼は私のその様子を見て「焦っちゃって……可愛いね」と微笑んだ。さあ、そろそろ帰ろうと二人で手をつないでホテルに戻る。
「戻りました」
「お二人ともおかえりなさいませ。まあ、奥様素敵なお召し物ですね。しかしどうしてこんな大荷物なんですか?」
ホテルに待機しているユリアが出迎えてくれたが、荷物の多さに驚いている。
「お洋服はデーヴィに買ってもらったの。このお花やお菓子は、色々あっていただいたのよ」
「お預かり致します」
そのあと部屋で少し休憩し、晩御飯の前に温泉に入ることになった。