新婚旅行②
「これは……まさかブルーパール?」
「お目が高いですね。これは珍しいものですよ」
デーヴィはブルーパールを手に取りじっくり見つめている。
「初めて見たよ。これは染色ではなく天然物だな」
「その通りです。さすがでございますね」
デーヴィは普段はきらびやかな物に興味がなさそうだが、公爵家の令息らしく宝飾品や芸術品などにも詳しいらしい。
「これが欲しいな……彼女の瞳もブルーだし記念に丁度いい。そうだな、イヤリングにして欲しい」
「もちろんです」
「ミミ、デザインはどんなのがいい?」
「えっと、ずっと使えるシンプルなものがいいです」
「それならこれはいかがですか?少しお時間をいただければ作れますよ」
店員さんは短いチェーンが付いてパールが揺れるデザインをすすめてくれたので、私は頷く。
「ではこれで作ってくれ。あと、今の服に合うもう少し気軽な感じの髪留めはないか?」
「それであれば私にお任せいただけませんか」
店の奥から明るい元気な雰囲気の女性が出てきて声をかけてきた。
「マリア……急に声をかけては失礼ですよ。すみません、妻です」
「だってこんなにお美しい奥様なんですもの。私、我慢できずに声をかけてしまいましたわ」
私はマリアさんに褒められて恥ずかしくなる。デーヴィはその言葉に満足気に頷いている。
「さあ、奥で色々と試しましょう。私は髪の毛のアレンジも得意なんですよ」
「デーヴィ様……あのっ……」
私はオロオロと困って助けを求めるが、彼は「行っておいで」と微笑んだ。マリアさんは喜んで「ほら、旦那様もそうおっしゃっていますよ」と奥の部屋に連れて行かれた。
「妻の我儘を許していただき、ありがとうございます。彼女は普段は店に出ないのですが……美しい女性を着飾らせるのが好きなのです。申し訳ありません」
「私の妻は美しくなる、君の妻はそれで満足する、そしてこの店の売上にもなる……お互い良いことだらけではないか」
♢♢♢
「まあ、やっぱりお似合いです」
彼女はエメラルドグリーンの石にシェルが付いていてキラキラしているバレッタを私の髪に添えて眺めている。爽やかな色は美しい海のようだ。
「髪の毛はアップにしましょうか?」
マリアさんが私の髪に手をかけたところで、首のキスマークが消えていないことを思い出す。
「だ、だめです。髪の毛は下ろしておいてくださいっ」
「どうしてですか?アップも似合うと思いま……」
彼女はサッと髪の毛を持ち上げたが、首を見てすぐに察してくれたようでパッと下ろしてくれる。私は他人に気付かれたことに恥ずかしくなり、プルプルと震えて羞恥で頬を染め小さくなる。
「これは……私の気が利きませんでしたね。新婚さんですもの、恥ずかしいことではありませんわ。むしろ愛されている証拠です」
マリアさんは優しくそう言ってくださり、ハーフアップにしましょうとサイドを編み込み最後にバレッタを付けて可愛い髪型にしてくれた。
「さあ、できましたよ」
私はマリアさんにぐいっと押され、デーヴィの目の前に出る。
「ど、どうでしょうか」
「とっても似合ってる……どこの美しい人魚が現れたかと思ったよ」
彼は目の前に跪き、私の手の甲にキスを落とした。まぁ、とマリアさんから感嘆の声が聞こえる。
「ありがとうございます」
私は全身が真っ赤になる。人前でも彼の愛はフルスロットルだ。
「夫人、彼女に似合う物を選んでくれて礼を言う。さあ……ミミ、このままデートの続きをしよう」
「お二人ともありがとうございました」
「こちらこそありがとうございます。どうか、よい旅をお過ごし下さい」
「旦那様はお強そうなので大丈夫でしょうが、この辺の海の男どもは粗っぽいですからきちんと奥様をお守りくださいませ。こんな綺麗な御令嬢は目立ちますから」
そう言われて、一瞬きょとんとしたデーヴィは……フッと笑った。
「ああ、忠告ありがとう。気をつけよう」
「マリア!少し黙りなさい。メクレンブルグ様、大変失礼を。お許しください」
「なによ、本当のことでしょ?」
「ははっ、大事な奥さんを叱ってはいけないよ。よい、優しさからの心配だ。では世話になった」
名乗ってはいないが、旦那さんの方はデーヴィ様が騎士団長だと気付いているようだ。逆にマリアさんは全く気がついていない。
「良い人たちでしたね。あの……デーヴィ、たくさん買っていただいてありがとうございました」
「そうだな。気にしないでくれ、妻を美しくするのは夫として当たり前のことだよ」