99 幸せな結婚
もう一度目が覚めると、もう夕方になっておりユリアが部屋にいてくれた。
「奥様、お目覚めですか。大丈夫そうであれば、ゆっくり起き上がって着替えましょう」
私に構いすぎたデーヴィはジャンとライラに「こんな調子だとすぐに若奥様に嫌われますよ」と怒られ、晩ご飯まで私に接近禁止命令が下されたそうだ。
その様子を想像して、私はクスッと笑ってしまう。
「若旦那様の溺愛っぷりは相変わらずですね。お体は辛くはありませんか」
「だいぶ回復してきたわ。昨日は、その……とても驚いたし痛かったけれど、デーヴィに愛されてると感じたの」
ユリアは「それはようございました」と柔らかく微笑んでくれた。
私は着替えて、髪をくしでといでもらう。ドレスはキスマークが恥ずかしいので首が開いていない物を選んで貰った。
リビングに降りると、ライラが声をかけてくる。
「こんな遅くまで寝てしまって恥ずかしいわ。本当にごめんなさい」
私が顔を赤らめながら、ライラや使用人たちに謝罪した。
「若奥様は何も悪くありませんよ。悪いのは若旦那様です!加減というものを知らないんですよ」
私はキョトンとした顔をする。
「大丈夫です、みんな若奥様の味方ですからね」
そう言ってお菓子や紅茶を用意してくれて、侍女や執事達に至れり尽くせりしてもらい申し訳なかった。
そして、ディナーの時間になりデーヴィがリビングに顔を出す。
「ミミ、ベッドから出られたんだね。ああ、俺は君と数時間離れていただけで切なかったよ。会いたかった」
彼は嬉しそうに私に近付いて頬にキスをする。
「さ、さっきまで一緒にいたじゃないですか」
「まだ全然足りない」
デーヴィは私をぎゅうぎゅう抱きしめて、頬をすりすりしている。助けて欲しくて、ユリアやライラを見るが二人とも諦めたような顔でため息をついている。
その後は二人で楽しくディナーを取り、お風呂に入りまた寝室に戻る。今日もするのだろうかとドキドキしていると彼が部屋に入って来た。
私はまた緊張して、体が固くなる。そのカチカチの私を見て彼は苦笑いする。
「体がまだ辛いよね。今日は何もしないから安心して。でも抱きしめたまま寝てもいい?」
そう言って、彼は優しく私を抱き寄せ二人でベッドに横になる。
「そういえば、貸切温泉あったよ。馬車で三時間くらい離れた場所だが……明後日に一緒に行こうね」
「それは、楽しみです」
「一緒にお風呂入ろうね」
「デーヴィ、いやらしいです。いちいち言わないで下さい」
「俺がいやらしいのは君にだけだよ」
「こんな人だと思わなかったわ」と、冗談っぽく呆れてみせた。
「騙してごめんね。でも、もう君を離せないから覚悟して」
「私もデーヴィと離れる気はありませんから」
彼は嬉しそうに笑った後、急に艶っぽい顔をして甘えてくる。
「ねぇ……本当にだめかな?できれば今夜もミミを感じたいんだけど」
「えっ!今日は何もしないって……」
「優しくする」
そう言って彼は口付けを始め、そのまま私は彼の愛を受け入れることになった。そして優しく何度も求める彼のせいで翌日も私は遅くまで起きれず恥ずかしい思いをし、デーヴィはジャンとライラに睨まれ呆れられていたが……それも幸せだ。
♢♢♢
こんな甘い生活はさすがに新婚時代だけだと、私は思っていたがデーヴィの愛は何年経っても減ることはなく子どもが二人できた今でも幸せに暮らしている。いや、むしろさらに愛が増えているような気がしている。
この人と結婚して良かった。異端と呼ばれていた女性治癒士の私が仕事を続けながら、女性としても幸せな生活をできているのは間違いなく彼のおかげだ。
「ミミ、愛してる」
「私もデーヴィを愛してるわ」
この「愛してる」の言葉こそが私達の幸せの魔法のようだ。
――もてない私が騎士団長に好かれているのはなぜですか?
『君が君だから好きなんだ』
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
『社交界の華である私は、初対面の治癒士に溺愛されて困っています』ではミシェルの両親の出逢いのエピソードを書いています。もしよろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです。