96 新居
ついに、式も披露宴も終わってしまった。どちらもとても楽しく、デーヴィ様の横にいられて幸せだった。本当に彼の奥様になったんだなぁ……その幸せを噛み締めながらウェディングドレスを脱がせてもらい、いつもの私に戻っていく。
そして、披露宴でお酒を飲もうとした時にデーヴィ様に言われた一言を思い出し赤面する。
「今夜は大事な日だとわかってる?」
もちろん、わかっている。わかっていますとも。しかし、実際考えると恥ずかしくなった。
その後、二人で馬車に乗り新居に向かった。馬車の中で彼は私がどれだけ美しかったかを熱弁しながら、ちゅっちゅと沢山口付けをしてくるので恥ずかしかった。
そして新しい家に着く。公爵家の別宅という形なのでそれほど大きくはないがとても素敵な家だ。使用人達がみんなお出迎えして、祝福の声をかけてくれた。
そして「若奥様」と呼ばれ照れてしまう。皆さんに挨拶をし、ライラに私の部屋まで案内してもらった。
「こちらが若奥様のお部屋、お隣はご夫婦の寝室、その向こうが若旦那様のお部屋と続き部屋になっております。間の扉でいつでも行き来はできますが、嫌な時は内側から鍵をかけてくださいね」
「嫌な時……?」
私はデーヴィ様が嫌になる場面などあるのかしら?と首を傾げる。
「たまにはお一人になりたい時もありますから」
ライラは穏やかに微笑み、ユリアも頷いている。
「基本的に、奥様の身の回りはユリアさんが主でお願いします。こちらからあと二人ほど若い侍女を奥様に付けますので、またご挨拶させますね。もちろん、公爵家に関わることは私も共にフォローさせていただきます」
「わかったわ、ありがとう」
「ライラ様、どうか色々とお教え下さい。よろしくお願い致します」
ユリアはライラに深々と頭を下げた。
「ええ。ユリアも奥様のことを私達に色々と教えてちょうだいね」
そう言って微笑み、ユリアはそのままライラさんに家や部屋の細かい事を聞くため連れて行かれた。
「若奥様、初めまして侍女のララです」
「私はポーラと申します」
その間に私の侍女になってくれるララとポーラが挨拶に来てくれた。私と同じ歳か少し下かなというような可愛らしさがある二人だ。
「若奥様、紅茶お入れしますね。お砂糖とミルクはどうされますか」
「なしで大丈夫よ」
ララは緊張しながらも丁寧に紅茶をいれて出してくれた。ポーラはお菓子の準備をしてくれている。
「紅茶もお菓子もとても美味しいわ、二人ともありがとう」
そう告げると、嬉しそうな様子でもじもじしているのがとても愛らしい。その時、ライラさんが戻って来たのを見て二人がピシッと姿勢を正す。
「ララ、ポーラご挨拶はできましたか?」
「はい」「はいっ!」
「奥様、まだ二人は若く至らぬ点もあるかと思いますがどうかご容赦くださいませ。何かあれば私が教育し直しますゆえ」
「問題ないわ。美味しい紅茶とお菓子を用意してくれて嬉しかったわ」
私がそう声をかけると二人は嬉しそうな顔をした。
「二人とも!奥様に喜んでいただくことは侍女にとって当たり前の仕事です。逆に奥様からのお声かけで貴方達が喜ぶのはおかしな話だとわかりますね?」
「わかります」「はい」
私はその光景を微笑ましくみていた。ライラは厳しいところはあれど、とても愛がある。二人のこともきちんと育てたいという気持ちが伝わってきた。
「では、私達は一旦失礼します。ユリア、頼みますね」
「お任せください」
そう言って部屋には私とユリアだけになった。