【デーヴィド視点】本物の天使
今日は待ちに待った結婚式当日。俺はやっとミミを俺の妻にできるという喜びで体が震えていた。
いつもよりキッチリと髪を整え、燕尾服を着る。ミミのドレス姿楽しみだなと、彼女を想像しただけで頬が緩んでしまう。
そして、ドキドキしながら彼女の控え室に足を踏み入れた。
――そこには天使のようなミミが立っていた。
真っ白なAラインのドレスには、レースが沢山ついて羽根のようにふわふわになっている。オフショルダーになっている胸元は豊かだがいやらしくない清楚なデザインで美しい。総レースのグローブも細い腕によく似合っている。
俺は見惚れて声が出なかった。
彼女が俺を褒めてくれている。そのことで、フッと意識が戻ってきた。
「美しい……この世のものとは思えないほど美しい。本物の天使がいるのかと思った」
本当の気持ちをそのまま彼女に伝えたが、こんな言葉ではまだ足りない。これほどまでに美しく可愛いミミが、今日俺の妻になってくれる。こんなに幸せなことはない。
みんなに俺の妻だ!と言いたい気持ちと、綺麗な妻を誰にも見せずに隠したい気持ちが出てくる。
そして式が始まった。喜びと哀しみの両方を帯びた表情の彼女の父上から、俺へとエスコートが代わる。泣きそうな彼女に「これからは俺が支えるから、大丈夫」と伝えたくて腕に手を当て微笑んだ。
そして二人とも誓いの言葉を交わした。
キスをするため、そっとヴェールを上げる。君は少し照れたようにはにかむので、可愛くて目が離せない。
「世界で一番愛してるよ」
そう言って、優しく口付ける。本当はもっと深くしたいが……それは二人きりの時に。
最高に幸せな気持ちのまま、彼女と共に式場を歩く。フラワーシャワーと一緒にお祝いの言葉が沢山飛び交い、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
俺は参列者の中に、恐らく彼女の事を一方的に好きだったであろう男達の嫉妬の視線を感じていたが「俺のものだ」というように彼女を抱き寄せ、ニヤッと笑ってしっかり牽制をする。しかも、これが一人や二人ではないところが困ったところだ。
ずっと、ずっと好きだった彼女と結婚できるなど本当にこれ以上の幸せはない。夢のようだ。
♢♢♢
式の後の披露宴も楽しく盛り上がり、無事に終わった。酒が弱いのにお祝いだからとたくさん飲もうとする彼女に「今夜は大事な日だとわかってる?」と耳打ちしたら、真っ赤になって一滴も飲まなくなった。理解してくれたようで、嬉しい限りだ。
ニコラに「夜は優しくしろよ。暴走して嫌われるな」と揶揄われたことが頭の中をグルグル回っている。「当たり前だ」と怒りながら答えたが、実は俺は……不安だ。なんせ長く拗らせた恋なのだから、危険なことは自覚している。
二人で新居に帰ってきた。荷物は数日前に全て送っており暮らせるようになっている。ロレーヌ家から侍女のユリアだけは連れて行きたいとの要望があったので、その通りにしてもらった。
「おかえりなさいませ。若旦那様、若奥様ご結婚おめでとうございます」
玄関に沢山の使用人がお祝いを述べ、頭を下げてくれている。ミミは若奥様と言われ照れながら「ありがとう」とみんなにお辞儀をしながら歩いている。
「出迎えご苦労。今日から私がこの家の主人となり、ミシェルを妻として迎える。皆の手助けがあって初めて良い家になるのだ、協力を頼む。なお、妻の言葉は我が言葉と同等に思うように」
「はい、皆承知しております」
家令のジャン、そして今回女中頭になったライラを筆頭に頭を下げる。
ミミは「どうぞよろしくお願いします」とふんわり微笑み挨拶をした。