【デーヴィド視点】煙草
「くっくっく、だから吸うと嫌われるって言ったろ」
ニコラは俺たちのやりとりを見て笑っている。
「貴族や騎士は吸ってる男の方が多いじゃないか……まさかミミがあんなに煙草が嫌いとは思ってなかった」
俺は握り潰した煙草の箱を、ゴミ箱に投げ入れる。
「何であんなに嫌なんだろ」
「キスした時苦いからじゃないか?僕は付き合っていた頃の妻にそう言われてやめた」
「……ちょっと待て、そうなるとミミは煙草吸ってる男に口付けられたことがあるってことか?」
俺は顔面蒼白になり、ニコラに詰め寄る。
「知らん」
「はぁ……もう二度と煙草など吸わない!こんなことで嫌われたら後悔しても、しきれないからな」
「でもお前……くくくっ。ミシェル嬢に言われたらすぐやめるんだな」
「そんなの当たり前だろ」
「当たり前か?ミシェル嬢に言われてもやめれないこととかあんの?」
「ほぼない」
俺は即答する。ミミが嫌がることはしたくない。
「もし、騎士を辞めてって言われたら?」
「言われた日に、辞めるさ」
「本気で辞めんの?辞めて何すんだよ……」
「何とでもなるだろ。辞めたらミミと一緒にいる時間が増えるしそれも良いな」
「馬鹿か。じゃあ爵位返してとか言われたらどうする?」
ニコラは面白そうに色々質問してくる。
「公爵家は弟に譲る。ミミと小さな家で気ままに暮らせそうだ」
ニコラはその回答にドン引きしている。
「お前……筋金入りだな」
「知らなかったか?ミミのためなら何でもできる」
だが――一つだけできないことがあるな。
「唯一……彼女から別れてって言われたらそれだけは拒否するよ。もし、嫌われても離せそうにない」
ニコラは「さすが……重たい男」と笑っていた。
♢♢♢
俺は翌日の昼休みの食事の時に、何となく気になっていた事を聞く。
「ミミは、なんでそんなに煙草が嫌いなんだい?」
俺の質問にミミは困ったような顔をする。
「すみません、昨日私が煙草が嫌いと言ってしまったので気になさってますよね。私の我儘でしたわ、お好きに吸って下さいませ」
「い、いや!違うんだ。別に吸いたくない。たまに心を落ち着かせるために吸っていただけだから!でも何か理由があるのかなと思って」
俺は私は嫌いだが、嫌なら勝手に吸えばいいと言われているようで焦った。ミミが嫌いだと言っているのにそんなことできない。
「……長生きしてほしいから」
「え?」
「母方のお祖父様がベビースモーカーで、あとお酒も強かったんですけど若くに亡くなられて。その……因果関係はわかりませんけど。デーヴィ様は私より十歳上ですから……その……いらぬ心配をしてしまい、すみません」
「……つまり俺に長生きして欲しいから、煙草やめて欲しかったってこと?」
「はい」
もじもじしながら、少し恥ずかしそうに俯く。
「でも自分勝手でした。お好きなものを奪うのは良くないですもの……」
まさか、ミミが俺を心配してくれてるとは。しかも、長生きして欲しい……つまり長く俺といたいと言うこと。
「ミミ!わかった。もう完全に煙草やめるから」
「え?いいんですか」
「もちろんだ!ありがとう、俺の心配をしてくれて」
「はい。私より長く生きてください」
ミミは悪戯っぽく笑ったが、俺は真剣な顔をして彼女の手を握りしめる。
「さすがにそれは……どうかな。十歳って結構差があるし君は不安だよね。でも俺、できること全てするから。ミミと一日でも長く生きたい」
「はい」
俺はミミをギュッと抱きしめた。