93 ダニエルに質問
私は疑問を抱えながら、家に帰宅した。結婚しても気をつけろと言われた以上、人妻の何が魅力的なのかを正しく理解し、男性からアプローチされる前に気付いて避けれるようにしなければいけないと思った。
デーヴィ様にはお母様に聞くように言われたが、男性側の意見を聞く方がいいんじゃないかしら?お父様は絶対だめ。お兄様も恥ずかしい。あっ!私は良いことを思いついた。
「ダニエルーっ!どこ?」
「お嬢様、お呼びですか?どうなさいましたか」
彼は私が赤ちゃんの頃からずっと仕えてくれている執事だ。大人で優しい三十代後半のお兄さん的存在だ。彼は私にとって家族だから問題ない。
「お願い、ダニエルにしか頼めないの!」
「もちろん。私がお嬢様にできることであれば、なんなりとお申し付けください」
「とりあえず、秘密だから、二人きりになりたいの」
「私は男ですから、お嬢様と二人きりはいけません」
「……私とダニエルの仲じゃない。いいから!」
私はぐいぐいとダニエルを自室に連れて行く。彼は呆れつつも、私が言う事を聞かない事を知っているので「お嬢様が秘密で私に用があるそうなので、ユリアは扉前にいてください」と指示を出していた。
「で、何でございますか?」
「あのね。デーヴィ様に結婚して人妻になっても、狙ってくる男性がいるから気をつけないといけないよって言われたの」
「……急になんの話でございますか?でも、デーヴィド様の言う通りでございます」
「人妻だから狙う人とか……人妻が好きな人がいるって」
「まあ、そのような下衆な男も一定数いるのは事実です」
「ねぇ男性は……どうして人妻がいいの?誰のものでもない女性の方が魅力的じゃない?」
「何が魅力的かは……人によるかと思います」
「デーヴィ様に聞いたら、人妻の方が旦那様がいる分色っぽいからだって」
「その通りですね」
「なんで人妻だと色っぽいの?旦那様がいると色っぽいってどう言う事?」
ダニエルはゴホゴホとむせた後、珍しく無表情を崩して頬を染めた。
「お嬢様!それは男の私に聞くことではござません。奥様かユリアにお聞きになってください」
「なんでよ!男性がそう思うんだから、男のダニエルに聞いてるのに。ねぇ!教えて!お嫁に行く前にわかっておかなきゃ」
ダニエルはとても嫌そうな顔をした。そして覚悟を決めたように身を正し、真顔に戻りゴホンと咳払いをした。
「では、申し上げます。ご結婚されるということは……旦那様と閨を共にされるということです。そういう男女のご経験のある夫人をあえて好んで求める男が一定数いるということでございます」
閨……私は恥ずかしくてぶわっと頬が赤くなる。
「じゃ……じゃあその、結婚してから声をかけてくる殿方は……か、身体の関係を求めているということ?」
「十中八九そうでございます」
「そ、そんなこと想像したこともなかったわ……そういう話だと思っていなくて。ごめんなさい、ダニエルにこんなこと聞いてしまって」
「いえ、大丈夫です。お嬢様、私はもう下がってもよろしゅうございますか」
「待って!その……恥ずかしいついでに言うけれど、自分の初夜のことも不安なの。ねぇ!ダニエル……アドバイスをくれない?」
ガタンッ
ダニエルは私の部屋の本棚に足を強くぶつけた。いつも完璧な彼がそのようなミスは珍しい。
「大丈夫?」
「申し訳ありません。私からはこれ以上は申し上げられませんので失礼します」
そう言って彼は足早に部屋を出て行った。