92 人妻の魅力
「でも、デーヴィ様も私が初めてじゃないでしょう?随分と手慣れていらっしゃるもの」
私はプイッと顔を逸らした。
「それ以上のことも他の女性としてるくせにっ!私の方が何倍もショックですわ」
私は怒って彼の両頬をぎゅっとつねる。過去のことを責めてもしょうがないことは分かっているが、想像すると嫌な気持ちになるのだ。
頬をつねられているのに、彼はなんだか嬉しそうだ。怖い……
「なんで嬉しそうなんですか?」
「過去のことにまで、ミミが妬いてくれてるから嬉しい」
デーヴィ様はヘラヘラと笑っている。
「昔の俺が知ったら飛び上がって喜ぶだろうな。ミミが妬いてくれるくらい俺のこと好きなんて!って」
「私は怒ってるんですけど……」
「怒ってても可愛いよ」
ちゅっと頬にキスをされて微笑まれるので、私はすねて頬を膨らませる。
「なんか誤魔化されてる気がしますけど」
「誤魔化してなんかないよ。知ってるだろ?俺の心は、十八歳の時から君に囚われている。誰と付き合って、何をしていたとしても好きなのはずっと君だった」
「酷い男!昔の彼女さんが可哀想です。貴方は女の敵ですね」
彼の肩をポカっと叩く振りをする。
「ああ、最低だよな。でもそれくらい君しか好きじゃない」
彼は真っ直ぐ私を見つめてそう言った。
「もうお互い過去の話はやめましょう。じ、じゃあ私の最後のキスは貴方、貴方の最後のキスは私ということにしましょう?」
その瞬間、デーヴィ様の顔が急激に赤くなった。
「……ミミって時々すごいこと言うよね」
「え?なんか変なこと言いましたか?」
「いや、とっても嬉しい。そうだね、何十年先になるかはわからないけど俺の最後のキスはミミだ」
そう言って、とっても優しく口付けをくれた。
「でも、ミミはやっぱり気をつけて。色んな男が君を狙ってるから」
「またまた、そんな冗談を」
「ミミ、俺は本気で言ってるからね。ヘンリーといい、アルシャ帝国王といい、シャルル殿下といい……これだけでも三人だ」
「そんなこと言ったら、貴方なんて御令嬢達からもてもてじゃないですか。私よりデーヴィ様の方が気をつけてください」
私はついに言い返してやったぞ、という気持ちでふふんと自慢げに言った。
「君は全くわかってない!俺のはただ地位とか名誉とか金とかに群がってる女なだけ。君に群がるのは君の中身に惚れた本気の男ばっかだから、やっかいなんだろ?」
「で、でもその心配もあと少しですよ。もう結婚しますし」
「え?なんで結婚したら心配がなくなるんだい?」
「だって、みんな人妻に興味なんてないでしょう?」
彼はまた重いため息をつき、頭を抱えた。
「ミミ、聞いて。むしろ人妻だから狙うような下衆な男もいる。結婚したからと言って油断しないで……お願いだから」
「人妻を狙う……?どうしてですか?誰のものでもない女性の方が良いですよね?」
私は素直な疑問を彼にぶつける。
「ゔーん……その、人妻の方が楽というか、魅力的というか……」
「え!人妻の方が魅力的なんですか?デーヴィ様も?」
「俺はそんなこと思っていない!」
「よかったです。でも人妻の何が魅力的なんですか」
「人妻は……その……ほら、旦那がいるからむしろ色っぽいというか」
「むしろ……色っぽい?」
私には全くもって意味がわからない。
「もうこれ以上は勘弁して。その……どうしても知りたいなら家で君の母上に聞いてくれ。間違っても家族以外には聞かないように!」
「はい?」
よくわからないので、帰ったら聞いてみようと思った。