91 お仕置き
私は仕事終わりにデーヴィ様のお部屋に来ている。
「待ってたよ」
私が玄関に入った瞬間に、鍵を閉められいきなり口付けをされる。
「先週は全然ミミと話せなかったし、触れられなかったしずっと寂しかった」
ぎゅっと強く抱き締められる。
「ご、ごめんなさい」
「君はこの一週間ずっとヘンリーのことばかり考えてただろ?」
「だって、それは急にいらっしゃらなくなると聞いたから驚いてしまって」
「俺以外の男のこと考えてたなんて、妬ける」
デーヴィ様はさらにぎゅうぎゅう抱きしめて、軽いキスをちゅっ、ちゅとたくさんされる。
「こ、これからは貴方のことだけ考えますから」
「本当かなあ……?」
「はい」
少し機嫌が直ったのが、そのまま手を繋がれて部屋の中に入った。ソファーに座って待ってて、と言われたのでその通りにした。彼がティーセットを持って来たので、私がしますと言ったが「俺がしてあげたいんだよ」と美味しい紅茶とお菓子を出してくれた。
彼はとことん、尽くす人のようだ。私にもとても甘い。今までの彼女にもしてたのかなと思うと少し複雑な気分だが、しょうもない嫉妬はやめようと頭を振る。
話せていなかった一週間を埋めるように、二人で楽しい会話をして過ごした。やっぱりデーヴィ様がお仕置きなんて冗談だったんだわと油断していた。
「じゃあ、そろそろお仕置きの時間かな?」
「……えっ?」
もうそんなものはないと思っていたので、私は急に青ざめる。
「ミミ、何で俺がいない時に強い酒飲んだの?弱いことわかってるよね、しかも君は酒癖が悪い」
「ご、ごめんなさい。あの時はお酒の勢いを借りないと上手く話せないかなと思って……」
「俺以外に抱きついたりしたら、どうするつもり?」
「デーヴィ様以外に抱きついたりしません」
「ミミ、お酒飲んだ後の記憶ちゃんとあるの?」
「は、はは……ところどころ?」
「じゃあ、自分が何しててもわからないだろ?今回は許すけど、次はないと思いなよ」
彼は無表情のままかなり怒っている。デーヴィ様怒らせると怖いんだよね。
そしてデーヴィ様は私をひょいと抱き上げて、彼の膝の上にソファーと向かい合わせで座らせられた。顔がち、近くて恥ずかしい……なにこれ。こんな密着した体勢は初めてで、私は全身真っ赤になる。
「恥ずかしいので、おろしてください」
「嫌だ、お仕置きだって言っただろ?ミミが恥ずかしくないと意味がない。もっとすごいことしたいけど、君に嫌われたくないからこんな軽い罰に変えた俺に感謝して」
もっとすごいこととは何だろうか?恐ろしいので聞かないでおく。
「しばらくこのままね」
その体制のまま背中に手を回し、私の肩に顔を埋めてぎゅっと抱き締められる。私も彼の背中にそっと腕を回した。
「君に触れると癒される」
彼はそう呟いた後、少し体を離して私の頬に手を置いてキスをした。膝に乗っているため、私の方が目線が高く彼を見下ろしている。普段と違うので少しドキドキする。
何度も熱いキスを繰り返したあとに「今日は……ミミからもして」と強請られ私からそっと唇を合わせると「可愛いすぎて困る」と言って、結局彼から噛み付くように熱烈に口を吸われてしまった。
「その……こんなこと聞くべきじゃないとはわかってるんだが、どうしても気になるから確かめていい?」
私は何を言われているのか分からずきょとんとした顔をしてしまった。
「ファーストキスがヘンリーって本当?」
私は驚きで目を見開いた。な、なんでそれを知っているの?
「はぁ……その反応なら本当なんだね」
彼はため息をつき、顔を埋めたまま動かなくなった。
「あ、あの時は不意打ちで!キスされると全く思ってなかったから避けられなくて」
「あいつ!やっぱり殺す!」
彼の不機嫌な声が響く。
「団長ともうしてると思ってた、って謝られました」
「時間巻き戻して、当時の俺にさっさとキスしろって言いたい」
「いや、いや。恋人でもないのに、キスする人嫌です」
「……だよね。じゃあこれでよかったのか」
彼は相当凹んでいるようだった。