89 幸せを祈ってる
「あ!これプレゼントです……寒いから手袋必要かなと思いまして」
私は、ラッピングした袋をヘンリーさんに渡す。
「俺に……?」
ガサガサと袋を開け、イニシャルの入った手袋を取り出している。
「手袋です。寒いからこれであったかいでしょう?」
「あとねぇ……あとねー……なんだっけ。そう!ヘンリーさんがご飯寂しくないように、私がジャムとかサラミとか保存食も作ったので……あれ?ああ……重たいから居酒屋に置いて来ちゃったんですけど、とにかく作ったので迷惑じゃなければ持って行って欲しいんですぅ……」
ありゃ、酔いが回って上手く話せない。伝わっただろうか。
「ごめんなさ……酔っ……て……上手く伝えられな……」
私はヘンリーさんにぎゅっと抱きしめられた。
「大丈夫、君の優しさはちゃんと伝わってるよ。俺なんかのために、そんなに作ってくれたの?」
「俺なんかじゃありません。ヘンリーさんが大切だからするんです」
「いつも俺の欲しい言葉くれて、励ましてくれてありがとう」
「ヘンリーさんならどこへ行ってもきっと大丈……夫。私が保証し……ま……スースー……」
「ふっ、寝ちゃったか」
さらにギュッと抱きしめ直す。
「可愛い顔して無防備に寝てたら、襲うぞ」
うーん……ヘンリーさんが何か言いながら、私の頬をつんつんしている。けど……眠たくて反応できない。
「このまま北まで攫って行こうかな」
「……デーヴ……さ……ま」
私は夢の中でデーヴィ様のことを呼んだ。彼とちゃんと話して……勝手に怒ってごめんなさいと言わなくては。
「……悔しいけど、俺じゃだめなんだよな」
「遠くから幸せを祈ってる」
私の頬に温かいものがそっと触れ、すぐに離れた。
♢♢♢
明るい日差しに気が付き目が覚めた。
「っー……頭痛い」
はっ、私は昨日送別会に行ってお兄様のお酒を飲んだんだわ。その後デーヴィ様も来られて、ヘンリーさんと話した……あれは夢じゃないわよね。
「お嬢様、お目覚めですか?昨日は酔い潰れいらっしゃって驚きましたよ」
「ユリア!私、昨日はどうやって帰ってきたの?」
「昨日はルーカス様が抱えて帰ってこられました。旦那様お怒りでしたから、あとできっとお説教ですよ」
「うわぁ……最悪だわ。しかも頭が痛い」
「でしょうね。弱いのにウィスキーのロックを一気に飲まれたそうですから。今日がお休みでよかったですね、食べやすいスープお持ちします」
「ありがとう」
ユリアと話していると、お兄様が来られた。
「お、起きたか問題児」
「何ですかその呼び方……」
「昨日大変だったんだぞ?団長に酔って抱きつくは、ヘンリーさんには泣きつくは……引き離して担いで抱えて帰ってきた俺に感謝しろよ」
「うう……お兄様、ご迷惑をおかけしました」
私は頭を下げて誠心誠意謝った。
「ヘンリーさんと話せて良かったな。あの人も嬉しそうだった……お前が作ってたジャムとかも渡しといたから」
「何から何までありがとうございます」
「父上も怒ってたけど、勝手に送別会来て酔っ払ってたこと団長もかなり怒ってたから覚悟しとけよ」
「ええっ!」
私は顔面蒼白になる。お兄様は「骨は拾ってやるからな」と、くっくっくと笑いながら部屋を出て行った。
そして私はその夜お父様からこってり怒られ、お母様は「みんな貴方が大事なのだから気をつけなさい」と頭を撫でてくれた。