88 まだ好きでいさせて
「ミシェルちゃん、行こう」
ヘンリーさんは私と手を繋いで、入口に向かう。彼を射殺すように睨むデーヴィ様の目がギラギラしてるが、彼はその視線を無視した。
そんな時お兄様が「これ渡すんだろ?ちゃんとお礼言えよ」と小声で言い、ラッピングした袋を渡してくれた。お兄様、ありがとうございます。
手を繋いだままのヘンリーさんと夜の街を足早に歩き、誰もいない庭園のベンチに腰掛けた。
頬にあたる風が気持ち良く、少し酔いも覚めてきた。
「今まで直接言えなくてごめんね、俺明後日から北の要塞に行くんだ。数年は帰れないらしいけど、頑張ってくる」
「わ、私のせいですよね。私が騎士団にいるから、ヘンリーさん居づらくなっちゃったのかなって……思って」
「ミシェルちゃんのせいじゃないよ、俺が弱いだけ」
「違います!私が無神経で……ヘンリーさんと仲のいい先輩後輩でいたいと我儘なことを思ったから……ひっく、ひっく、傷付けて……ごめんなさい」
彼は穏やかに微笑み、「泣かないで」と指で私の涙を拭ってくれた。
「最初はさ、俺もできると思ったんだ。君の傍にいて、今まで通り優しい先輩でいるの。でも、実際団長と君の幸せそうな姿を見たら胸が苦しくて耐えられなくなった……そんで俺は北の要塞に逃げる決意をしたってわけ。はは、格好悪いよね」
私は横に首を振る。
「君と会って話すと、決意がぶれそうになるのが怖くて黙ってた、ごめん。もしミシェルちゃんに行かないで!って言われたら……本当に行きたくなくなるからさ」
「あまりに避けるから、私のこと嫌いなっちゃったのかと思ってました」
「ははは、逆だよ。好きすぎてどう諦めたらいいのかわからない。悪いけど、俺の気が済むまでミシェルちゃんを好きでいさせて?」
「……はい」
「ありがとう。好きだけど、君に迷惑はかけないから」
「迷惑なんて……むしろ今まで沢山助けて貰って感謝しかありません。ヘンリーさんが私の傍にいてくださってとても嬉しかったんです。ありがとうございました」
私は素直に感謝の気持ちを言うことができた。ふと、気がつくと彼の腕には私があげたブレスレットが付いている。
「あの、ブレスレット少し貸してください」
手の中にブレスレットを入れ、両手で包みその上からふーっと息を吹きかけヘンリーさんの無事を願い祈りを込めた。
「それ、治癒士のおまじないだね」
「ご存知でしたか。願掛けのようなものです。本当に自分が願う時しかしてはいけないと父に教わりました」
私はブレスレットを彼の腕につけ直した。
「ありがとう」
「どうか、ご無事で任務をなさってください。北には……私もいないし、怪我しても誰も治して……くれないから」
うん、気をつけるねと彼は泣いてる私を優しく慰めてくれる。
「ここから離れたいってゆう不純な動機ではあるけど、北で活躍して戻れば出世間違いなしだし?前向きではあるよ。俺も将来は騎士団長目指すからさ」
「素晴らしいです」
「君が俺に夢をくれたからね。出世してこっち戻った時ミシェルちゃんは俺がいい男になりすぎてて、きっと振ったこと後悔するよ」
彼は自信満々にそう言うので、私はふふふと笑ってしまった。
「今でも充分いい男ですよっ!ヘンリーさんのように優しくて強い男前はそうそういませんよぉ、大好きな自慢の先輩ですから……うふふふふ」
なんだかまた酔いが回ってきてふわふわ気持ち良くなっている。ヘンリーさんは真っ赤になり「酔ってるね。その発言が男を勘違いさせるんだよね」と困った顔をした。