87 ヘンリーさんの送別会②
私がグビグビとお酒を飲み干した様を真正面から見ていたヘンリーさんは、驚いている。
ダンっという音に気が付き、お兄様が後ろを振り向く。
「馬鹿っ!お前、これ俺のウィスキー……まさか全部飲んだのか?」
喉が燃えるように熱い……でもアルコールを入れないと今ヘンリーさんと話すことはできなさそうだ。
「ヘンリーさんが私に話すことなくても、私がヘンリーさんに話したいことはたーくさんありますからっ!」
私は大きな声でそう叫んだ。
「うっ、うっ、私にだけ行くこと秘密にしてるなんて酷いじゃないですかぁ……酷い……」
お酒のせいか情緒が不安定で、ポロポロと涙が出てくる。ヘンリーさんがとても困った顔をしている。
「ヘンリー、ちゃんと彼女と話して区切りつけてやれ。どんな理由であれ男が好きな女泣かすもんじゃねぇよ」
「……先輩」
「それにこれ以上彼女泣かしたら、俺らがたぶんお前許せねぇし?なあ、みんな」
「そうだぞー!」「俺らの天使泣かすな」「でも泣いてても、酔ってても可愛いよな」「同感!」
あははと隊員のみんなが笑っている。
「……はい、ありがとうございます。ミシェルちゃん、大丈夫?ほら、とりあえず水をたくさん飲みな」
ヘンリーさんは私を支えて水を飲ませてくれる。
「ふふふ、いつものヘンリーさんだぁ。やっぱり優しいねぇ」
私はふにゃーっと笑う。ヘンリーさんは頬を赤く染め視線を逸らした。
「おい、ルーカス。ミシェルちゃんって酒……」
「弱いですね。しかもいつもの倍くらい素直で可愛くなります」
ヘンリーさんは天を仰いで「それって最悪じゃねぇか」と呟いた。
「貴方がミシェルを避け続けた罰ですよ。いいじゃないですか?ある意味役得だし」
お兄様がはん、と鼻で笑った。ヘンリーさんは恨めしそうにグッとお兄様を睨む。
「ヘンリーさん!お兄様ばかり見ちゃだめ!わざわざここまで会いにきたのに……私とだけ話してくだしゃい」
さっき泣いた名残でうるっと目を潤ませたまま、ヘンリー様の腕を掴む。なんか酔っていて呂律が回らない……
「酔ってるとはいえ、そんな可愛いこと言ったら食っちまうぞ?」
ヘンリーさんは私の鼻をギュッと摘んだ。
(ゔー……痛いです……)
「ひゅー!いいぞ」「別れの前だし盛り上がるな」「奪っちまえーっ!」
隊員達は無責任なことを言い盛り上がっていたが、その時にバンと扉が開き……そこにはデーヴィ様が立っていた。
その瞬間、囃し立てていた隊員達がビクッと驚きシーンと静まりかえった。
「だ、だ、団長早かったっすね」
「そうか?もうみんな始めてるんだろ、遅いくらいじゃないか?」
そして、私は一瞬でデーヴィ様に見つかった。
「ミミ?……なんとなく予想はしていたが、やはり君も来ていたんだな。なんで事前に俺に来ると言わないんだ」
彼は少し不機嫌そうな顔をしている。そして、私が酔っていることに気がつき、さらに顔をしかめた。
「しかも酒を飲んだのか?俺がいない時は飲んではいけないと約束しただろ」
私の頬に手を添え、強引にデーヴィ様の方に顔を向かされながら「約束守れない悪い子は後でお仕置きだからね」と冷たく言われた。
みんなが「怖っ」と団長を震えながら見ているが、私はそんな彼をぼやーっと眺めた。
「えへへ、デーヴィ様大好きっ」
「知ってる」
私は急に彼とこの一週間触れ合えなかった寂しさでいっぱいになり、ぎゅーっと抱きついた。彼も腕を回してポンポンと抱き返してくれる。
「ヘンリーさんとちゃんと話したくてぇ……ここまで来ちゃいましたぁ!あはははは、黙っててごめんなさい」
「ミミ、しっかり酔ってるな……ヘンリー、今から十五分だけやるから二人きりで話して来い。それ以上は俺が許せないから」
「はい、ありがとうございます」
デーヴィ様は私をヘンリーさんの方へグッと押し付けた。