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86 ヘンリーさんの送別会①

 ――ヘンリーさんが来ない。


 次の日も、その翌日もヘンリーさんは来なかった。私はあんなにお世話になったのに、ろくに話も出来ずに何年も会えなくなるなんて哀しい。


「甘えすぎてたのかな」


 私は彼を振ったのに、その後も先輩として仲良くしてくれて困ったら助けてくれた。彼が傷付いていないはずないのに。そんな彼に無神経にも結婚式に来て欲しいとか言って……私ってどれだけ酷いことしたんだろう。


「……そりゃ私に会いたくないよね」


 でも、出発前にきちんと無事を祈りたい。ヘンリーさんなら大丈夫だろうが、北の要塞は魔物が多く危ない場所らしい。そして、嫌がられたとしても今までの感謝を伝えたいのだ。


「ミミ……」


 デーヴィド様が心配した顔で私に声をかけてくれる。凹んでいるところを、見られてしまった。私が執務室で勝手に怒ってから、何となく彼を避けてしまっていた。デーヴィ様は私が、ヘンリーさんのことを考えている姿を見たくないだろうから。彼を見送るまでは……ごめんなさい。


「大丈夫です。今は一人になりたくて」


 私は仕事が終わると足早に家に帰った。明日は送別会の日。デーヴィ様には参加すると伝えていない。

 お父様には男だらけの騎士団の飲み会など参加するなと怒られたが、お兄様がなんとか説得してくれた。


 私は明日ヘンリーさんに渡すため、保存食を作った。お酒やパンに合うサラミや干し肉、ジャムも作った。私のご飯が好きで、一人でご飯を食べるのが苦手な彼が少しでも……寂しくないように。


 そして寒い場所で耐えられるように中は暖かくふかふかになっている黒の革手袋を用意し、イニシャルを刺繍した。


「受け取ってくれるかしら」


 私は不安な気持ちのまま、ベッドに横になりあまり眠れないまま朝を迎えた。


♢♢♢


 ヘンリーさんは昼の訓練には顔を出さず、夜の送別会だけの参加となった。


 送別会は広めの居酒屋を貸切にしており、今夜は飲み明かすらしい。デーヴィ様は仕事で遅刻するそうなのでヘンリーさんと話す絶好の機会だ。だが、ヘンリーさんもまだ来ていない。


 お兄様は「ここまで来たんだから、ちゃんと後悔なく話せよ」と頭を撫でてくれた。


「やほー!みんな、今日はありがと!なんか久しぶりな気がする」


「おお、やっと主役の登場だ」

「遅ぇじゃねぇか!」


 みんなの歓迎の声と、ヘンリーさんの相変わらずの軽い感じの声が聞こえたので私はお兄様の後ろからぴょこっと顔を出した。


 そこでバッチリとヘンリーさんと目が合う。


「な……んで、ミシェルちゃんがこんなとこいるの?」


 彼は目を見開き驚いている。そして、すぐに低い声で不機嫌そうに怒った声を出す。


「誰が彼女呼んだの?夜にこんな男だらけの場所に結婚前の大事な御令嬢がいていいわけねぇだろ」


 居酒屋がシーンと静まり返る。


「俺ですよ。ミシェルが貴方と話したいそうでね。妹の願いは叶えてあげたいんです、シスコンなもんでね」


 ヘンリーさんはチッと舌打ちをする。


「ミシェルちゃん、団長は君がここにいること知ってんの?」


「言ってません」


 はぁ、とあからさまに重いため息をつく。


「俺は話すことはないよ。おい!ルーカスが責任持って連れて帰れ。じゃーね!今までありがとう。バイバイ、ミシェルちゃん」


 そんなあからさまに嫌そうにするなんて……彼はそんなこと言う人じゃない。だって悪態をついた今も、私を心配そうに見つめている。


 グビッグビグビ……ダンっ!


 ――私は、お兄様が飲んでいたお酒を一気に飲み干しテーブルにグラスを強く置いた。

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