【デーヴィド視点】警告
「四枚も!描かれているのに全く気が付きませんでした」
俺は友人に絶対にバレないように描いてくれと頼んだが、本当に約束を守ってくれていたようだ。
「これから肖像画描く時は言ってくださいね?お洒落しますから」
そう言って彼女はケラケラと笑ってくれた。
「ありがとう……その友人に結婚の記念として二人で描いてもらおうか?」
「ふふ、いいですね。私、知らぬ間に四枚も描いていただいているからお礼を言わないと」
彼女は勝手なことをした俺を許してくれるようだ。この彼女の肖像画四枚は……俺の大事な宝物だ。絵の中の彼女に何度キスをして、何度話しかけ、何度励まされたか。
しかし、これからは絵ではなく直接彼女と過ごしていけると思うと嬉しくて胸が熱くなる。
「ミミ、愛してるよ。俺は君に出逢えて本当に幸せだ」
俺は彼女を優しく抱きしめた。
「私も愛しております」
最近は俺から一方的ではなく、彼女からも愛の言葉が返ってくるのが嬉しくて堪らない。
「ああ、君を家に帰したくないな」
「あと少しで一緒に住めますよ」
「もう少しの我慢だな。俺、何が何でも結婚休暇を一週間は勝ち取るから!旅行も行きたいが……日程的に遠出はできないかもしれない」
反発は覚悟しているが、俺は何としてでもそうすると決めている。ずっと恋焦がれて結婚するのに、数日の休みでは色々できないからだ。そう、色々と……ね。
「新婚旅行ですか?いいですね。私温泉に入ってみたいんですよね」
「温泉……?二人で?」
まさかの温泉と聞いて頬が染まる。これは二人一緒に入るということで良いのだろうか。俺は大歓迎だけど。彼女は俺の反応に何か気が付いたようで、急に焦りだした。
「その、違うんです。そういう意味で言ったわけではなく……その温泉が気持ち良さそうだと思っただけで!もう忘れてくださいっ!」
「いや、貸切にできる温泉がないか探してみよう。夫として妻の要望は全て叶えたいから」
頬にキスをし、俺はたっぷりの下心を隠して爽やかにそう告げた。新婚旅行がとっても楽しみでしょうがなくなってきた。
「君は休みは大丈夫そう?」
「ええ、私は家族内の調整だけですから。ありがたいことにお兄様が全てサポートして下さるそうです」
「ルーカスは優しいな」
「ええ、自慢の兄です」
楽しみな約束もできたので、離れるのは哀しいが暗くなる前にミミを家に帰した。
♢♢♢
夜、俺はフェリクスの部屋をドンドン叩く。
「怖い顔して……何か用?」
賢いこいつはもう何を言われるか気が付いている。
「警告だよ。お前……ミミにこれ以上近付くな。昼間のようなこと二度とするな。彼女は俺の妻だ。実の弟であっても邪魔するなら容赦しねぇからな」
弟を本気でギロっと睨みつける。
「やめてくれよ……本気で兄上と喧嘩する気はない。あんないい女に初めて会ったから、ちょっと近付きたくなっただけだ」
「諦めろ」
「とっくに諦めてるよ。でも反応が新鮮だからからかいたくなって……兄上よりも前に彼女に逢いたかった」
「舐めんなよ。お前と早く逢ってたとしても、結局選ばれるのは俺だ」
「ふっ、すごい自信だね。わかった、本当にもう彼女への恋慕は捨てる」
「そうしてくれ」
「兄上、ずっと好きだった人と結ばれてよかったね。幸せになりなよ」
「ああ、ありがとう」
弟と一度しっかりと話さねばと思っていたので、良かった。彼女にどうしても惹かれる気持ちはわかるが恋愛感情を持たれるのは困る。フェリクスの気持ちが早く家族愛に変化するように願った。