84 肖像画
「デザイン決まった?今日は一緒にドレスを選べなくて残念だったよ」
「はい。お義母様に手伝っていただいてやっと決まりました。いいえ、デーヴィ様には当日まで秘密にしたいので楽しみにしていてください」
会議で呼び出されていた彼はウェディングドレス選びを一緒にできなかったことを悔やんでいるようだ。
「本当に可愛かったんだから。デーヴィドが当日見たら驚きと感動で動けないかもしれないわ」
お義母様……そんなにハードルを上げないで欲しい。
「はは、それは楽しみだ。早くミミと結婚したいな」
そんな話をしていると、フェリクス様がまだ眠そうに欠伸をしながら降りてこられた。
「おい、フェリクス気を抜きすぎだ。もう少し身なりを整えてから降りてこい」
「デーヴィ様、私はもう家族ですからそんなこと気にされないでください。昨日お仕事大変だったのでしょう?」
「ああ……腹減ったから降りてきただけ。また寝るから。ねえ、シェルちゃんが持ってるのちょうだい」
私が持っている……このショコラのことだろうか?触ったのではなく、新しいのを取ってあげようとした時フェリクス様は私の指ごとパクッと食べた。
「ん……美味しいけど甘いね」
彼はもぐもぐしてペロッと唇を舌で舐めた。
「フェリクス!お前ふざけるなよ!」
デーヴィ様はフェリクス様を睨みつけながら、私の指をゴシゴシとハンカチで拭っている。
「ちょっと甘えただけだろ。そうだ!兄上、ドレスのデザインちゃんと聞いておいた方がいいよ。とーってもセクシーなのも試着してたから」
「お前、まさかドレス姿見たのか?」
「……じゃあもう一回寝る。シェルちゃんまたね」
ひらひらと手を振りながら彼は部屋に帰っていった。彼は何をしに来たんだろうか?
「はあ、しょうがないない子ね。デーヴィド気にしないで。たまたまあの子が帰ってきた時にドレス合わせしてただけよ」
「はい!ドレスもあのAラインに決めたので、セクシーではないです!セクシーなのは似合わないってフェリクス様にはっきり言われました」
デーヴィ様は複雑な顔をしたままだ。
「つまり、あいつはセクシーなドレスを着た君を見たってことだよね」
「大丈夫です。見られたのは似合わないやつです!一番似合うのは当日デーヴィ様に見ていただきますね」
私は当日彼にドレスを見てもらうのを想像して照れてしまいヘラッと緩む頬をおさえる。
「全く……君には敵わないな。当日楽しみにしてるね」
彼はニッコリと笑い「セクシーなのは二人きりの時に着てね」と耳元で爆弾発言をされた。
その後、初めて彼の部屋に入れてもらう。キッチリ整頓され、シックなアンティーク家具が並んでいる。
「お茶だけ用意してくるから、待ってて。部屋好きに見ててくれていいから」
本棚には難しげな本が沢山並んでいる。あ!これは私が小さい頃に読んだ大好きな騎士の絵本だ……私はそっと引き出しペラペラとめくる。
その時パサっと何かが落ちた。いけないと思い、すぐ落ちた紙を拾ったが、それを見て私は驚いた。
これは……私の肖像画?少し若い気がする。
「お待たせ」
彼は紅茶のティーカップを持って部屋に戻ってきた。
「何見てる……んだ」
彼は私の手の中にある肖像画に気が付き、彼は焦ってそれをパッと取って本に挟み直し閉じた。
「……ご、ごめん」
彼は耳まで真っ赤にして俯いた。