82 殿下の初恋
「殿下、こんなところまで来られていて驚きました。大丈夫ですか?」
デーヴィ様は跪き、殿下の高さに目線を合わせて話しかけている。
「……っこいい」
「ん?すみません、何と言われたのですか?」
「とっても格好良かった!」
「……は?」
「あんな恐ろしい魔物を一瞬で倒すなどすごい!デーヴィドは本当にこの国の英雄なんだな」
シャルル殿下は興奮気味にキラキラ輝いた目で見つめている。デーヴィ様は殿下のいつもと違う様子に戸惑っている。
「み……身に余るお言葉、ありがとうございます」
「僕も君みたいになりたい。もっと剣術頑張る!」
殿下は怖くて震えていたわけではなく、興奮してプルプルしていたようだ。とりあえず良かった。
「ええ……王になる殿下自ら鍛錬し、強くなられるのは素晴らしいことです。我々臣下一同も負けぬよう、更に励みます」
「デーヴィドは強いから、ミシェルのことずっと守ってあげて。僕はまだ強くないから……今まで二人の邪魔してごめんなさい」
シャルル殿下はしゅんとしながら、素直にそう謝った。デーヴィ様はふっと微笑み「必ず彼女を幸せにすると誓います」と頭を撫でた。
「ミシェル!」
殿下が私のことを呼ぶので、傍に近付いて行く。
「ミシェル、僕デーヴィドのこと好きになったよ。だから二人の結婚お祝いするね」
「まあ、ありがとうございます」
「でも、僕の初恋はミシェルだよ。結婚は諦めるけど、きっとこれからも大好きだから。そのことは覚えておいてね」
そんな大人びた台詞を言うので、小さくてもちゃんと男の子だなと思った。
「まさか殿下の初恋をいただけるとは、光栄にございます」
私が笑いかけたその時、しゃがんでいる私の頬にそっと小さい手を当て、唇にちゅっと口付けた。
私がビックリしていると「コラ……くそガキ、やっぱり許さない」とデーヴィ様が激怒したが殿下は素知らぬ顔をして「騎士団にはもう行かないけど、必ず訓練はするから。ミシェル、またね」と、ささっと王宮へ帰っていった。
「殿下は五歳なのに、なかなか大物だ。将来色男になって御令嬢方が泣くかもな」
「いや、案外剣術が強い硬派に育つかもですよ」
「本当に大人になっても、ずっとミシェルちゃん好きだったりして」
そんな話が隊員達の中で噂されていた。
♢♢♢
私達は騎士団の訓練場に戻り、汚れを落とすためシャワー室に向かう。
「ミミ、今日のシャワーは俺の宿舎部屋使って?俺は共用のとこで洗い流してから戻るから」
彼はこそっと私に話し、部屋の鍵を渡してきた。
「私が女性のシャワー室行きますけど?」
私は何故そう言われたのか分からず首を傾げて聞き返すと、デーヴィ様は頬を染め気まずそうに視線を逸らした。
「俺の我儘。少しだけ……二人になりたい。シャワー浴びたら部屋で待ってて。鍵を必ずかけるんだよ」
私は、そういうことかとやっと気が付き、ポポポっと顔が真っ赤になる。
「はい」
彼は嬉しそうによしよしと頭を撫でてくれた。