81 魔物討伐
「デーヴィ様っ!待ってください、相手は殿下で、しかもまだ五歳ですから」
私は掴みかかろうとしている彼を必死で止める。
「ミミ、止めるな。ガキだろうが男には変わりないんだから君にあんなことをするなど許さない。俺が仕えてるのは陛下であってシャルル殿下ではないからな!」
「ふん、いい歳して余裕のない男だな」
シャルル殿下もわざと悪口を言っている。はあ、これはどうしたらいいものか。
そんな時、近くの森で魔物が出たと連絡が入り、空気がピリッと変わる。
その瞬間に、デーヴィ様は仕事モードに変わりテキパキと指示を出す。先程と同じ人とは思えない変わりようだ。
「俺が右の前線に出るから、お前らはその後に続け。ヘンリーは逆方向から挟み撃ち、ニコラは後方で情報集めて指示、ミシェルもそこで待機だ」
「はいっ!」
無駄のない指示のもと、討伐の支度をする。
「ミシェル……行っちゃうの?大丈夫?」
シャルル殿下は私を心配し、不安な顔をしている。
「大丈夫ですよ。みんなを守るのが騎士のお仕事で、その騎士を守るのが私の仕事ですから」
私は微笑みシャルル殿下の頭を撫でた。
「……いい機会です。殿下を連れて行きましょう、社会見学です」
副団長がとんでもないことを言い出すので「危ないです」と止めたが「行く」と殿下が聞かないので仕方なく同行させることになった。
そして、騎士団とは離れた場所で、従者の皆さんに囲まれることを条件にシャルル殿下も森に来ることになった。
ギェーッ ギェーッ
森の中からけたたましい声と共に、数カ所にドーンドーンと雷が落ちる。これはサンダーバード!
現れた瞬間に、副団長は指示を出される。
「団長、これは上から叩くのが一番早い。サンダーバードから斜めに雷落ちるので気をつけて下さい。あと、サンダーバードの近くにワーウルフも三匹いる」
「了解!チッ、雷が鬱陶しいな。俺はサンダーバードを狩るからワーウルフはお前たちに任せたぞ」
「はいっ」
「団長、上から叩くなら俺踏み台に飛んでください」
「さすがヘンリー、ナイスタイミング」
そう言って、デーヴィ様はヘンリーさんの肩を踏み台に飛び上がりサンダーバードを上から真っ二つに叩き切った。
(デーヴィ様、やっぱりカッコいい)
その後、ワーウルフもなんとか倒し討伐は終わった。
「みんな!よくやった。討伐完了だ」
デーヴィ様の声で隊員達はうぉーと声をあげる。
私も闘いで怪我をした隊員を治すため、血だらけになりながら治癒魔法をかけ続けた。なんとか全員の怪我を治せたことにほっとする。
「ミミ、治療ありがとう。怪我はないか?最初に雷が落ちたから君に当たっていないか心配してた」
デーヴィ様が私に優しく聞いてくれる。
「ええ、大丈夫です。デーヴィ様も……それは返り血だけですか」
「ああ、無傷だ。みんなよくやってくれた」
私はにっこりと微笑んだ。そして、後ろを振り返りしゃがんでプルプル震えているシャルル殿下に気が付き心配になった。
「は?なんで殿下がこんなとこに……」
「団長、お疲れ様でした。貴方の勇姿を見てもらおうと思いまして殿下は僕がお連れしました」
「ニコラ!相変わらずお前の指示的確だったな、って……そうじゃなくて殿下をこんなとこに来さすなんて危ないだろ?いくら護衛がいるとはいえ、なんかあったらどうするんだ」
ポカっとニコラさんの肩を殴り、彼は殿下のところへ歩いて行った。