80 シャルル殿下③
「ミシェル、君はあの我儘なシャルル殿下まで手懐けたそうだな。さすが私の娘だ」
お父様は昨日の話を、第一王子(シャルルの父)から聞いたそうでケラケラと笑っている。王子は殿下を嗜めたことを感謝していたそうだ。
「娘が王妃になるのも一興だな」
「お父様……ご冗談はよしてください。シャルル殿下はまだ五歳ですよ」
「シャルル殿下は、ミシェルに王宮に来て欲しいと私にまで直接頼みに来た。幼いとはいえ、なかなか本気だぞ。まあ、とりあえずはやんわり断っておいてやったが」
そのうち殿下の熱に負けて、孫に甘い陛下から君に王宮に来いと王命が来るぞとお父様は言い、さぁ?デーヴィドはどうするかなと笑っていた。
はぁ……と私はため息をつき困っていた。
♢♢♢
「ミシェルーっ!」
「ミシェルーーっ!!」
私が王宮に行くどころか、毎日のようにシャルル殿下は第一騎士団へ来ている。そして、どこへ行っても私について来るのだ。
「あの……殿下?ここは遊び場ではありませんよ」
「わかってる。僕もこの国を守るため、剣の訓練を受けたいんだ」
五歳なのにもっともらしい理由をつけ、騎士団へ転がり込んでいる。そして実際に訓練もちゃんとしているようなので、強くは言えない。
「ミシェルちゃん……付き纏ってるあのガキ誰?君の隠し子じゃないよね?」
「隠し子って!あの方はシャルル殿下です!なんで知らないんですかっ!!」
「シャルル殿下ぁ?なんでそんな王子がこんなとこに?しかも完全に君目当てだよね」
私はハハと苦笑いをしている。
「ミシェル、今日も訓練頑張ったよ!昨日より素振りも多くしたし、動きも良くなったって言われたんだ」
ぴょんぴょんと跳ねながら、褒めて褒めてと私に近付いてくる。
「よく頑張りましたね」
私は彼の頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細めた。
「ミシェルだーい好き」
彼はそう言って、私に抱きつき頬にキスをする……後ろから凄まじい怒りの気配がして振り向くのが怖い。
「シャルル殿下?何度申し上げたらわかっていただけるのですか?ミシェルは私の婚約者です!たとえ子どもであっても貴方は男ですから、キスをしたりベタベタ触れることは許されませんよ」
デーヴィ様は子ども相手とは思えぬ程の口調で怒りをあらわにしている。
「その子どもに声を荒げるなど大人気ないな。それにまだ結婚していないのであれば、僕にも可能性はある」
シャルル殿下もベーっと舌を出して挑発している。デーヴィ様はブルブルと震えながら怒りを堪えている。
「可能性などありません。ミシェルが好きなのは私ですから!」
「こんな男より、僕の方が有望だよ。将来はこの国の王になるし、なんでも買ってあげられるし、君を大事にするから」
シャルル殿下は王子スマイルをキラキラさせながら、私を口説いてくる。私は、五歳でこれだったら将来が不安だなと思った。
「私はデーヴィド様をお慕いしているので、結婚するのですよ。それに、私は殿下より十三歳も年上です。貴方が成人なさる頃には私は結婚の適齢期を過ぎています」
「でも、デーヴィドと君は十歳差だろ?僕たちとそう変わらないじゃないか」
隊員達がみんな「確かにそう言われると殿下も無くはない話だな」「そう考えると、団長とミシェルちゃんの年の差もすごいな」とざわめきだす。
「最短で成人するとして……僕が十五歳になったと同時に結婚したらミシェルは二十八歳だろ?すぐ子ども作ればニ人くらい産めそうだよね。後継ができたら、側妃は作らないから一生ミシェルだけだよ」
これは誰の入れ知恵なのか……五歳とは思えない計画に目眩がする。子どもが子どもの話なんて。
「ガキだと思って黙ってりゃ勝手なこと言いやがって。王族でも関係ないからな!」
デーヴィ様がついにキレてしまった。その口調はいくらこの国の英雄とはいえ、不敬になりますから……はぁ。