79 シャルル殿下②
「先程はありがとうございました。シャルル殿下は本当はとても賢い方なのですが、その……少々周囲が甘やかしておりまして」
殿下の従者の方が私にこそっとお礼を言われる。
「不敬なことを申し上げました。こんなに可愛いのですもの、甘やかしたくもなりますわ」
私は軽く頭を下げ部屋を後にしようとした。
「ミシェル、次はいつ会えるの?」
殿下は私の服をぎゅっと掴み、首を傾げて聞いてくる。
「殿下、女性をいきなり掴んではいけませんよ。私は今日は代わりに王宮に来ただけなので、もうここには来ません」
「えっ……」
殿下は哀しそうな顔をするが、本当のことなので嘘をつくわけにはいかない。
「じゃあ、ミシェル僕のお嫁さんになって!お父様とお母様はずっと一緒に住んでるもの。これなら僕と一緒にいれるでしょ?」
まさかのプロポーズに驚いた。子どもの話だと「結婚しましょう」と頷くべきなのかもしれないが、聡明な殿下にはしっかり事実を伝えた方が良いだろう。
「殿下、そのように仰っていただいてありがとうございます。でも、私は婚約者がおりましてもうすぐ結婚するのです」
「嫌だ!僕ミシェルのことが好きになったもん」
「殿下……」
私は殿下の目線までしゃがんで、もう一度ちゃんと話そうとすると、頬にちゅーっとキスをされた。
「ミシェルは僕の!」
そう言って殿下は部屋を出て行った……うーん、スマートなキスで小さくてもちゃんと王子だな、と変に感心してしまう。可愛いけどこれは問題な気がする。従者の方を見ると「困りましたね」と苦笑いをしていた。
♢♢♢
「ミミ、迎えに来た」
デーヴィ様が怖い顔でお父様の執務室に現れた。
「王宮までどうされたのですか?」
「陛下に呼び出されたんだ。ミミを王宮付きの治癒士にする気はないかと」
「ええ?でも王宮には父がいますし、二人は必要ないかと」
「だろ?すぐに断った。しかし、シャルル殿下の希望だと言われて……意味がわからない」
ムーっと不機嫌な顔を隠さず、デーヴィ様はイライラしている。おお、さすがは殿下。王族は仕事が早いですね……
「あの実は、今日殿下にプロポーズされまして」
「ど、どういうことなんだ?」
「殿下が我儘を言っていらっしゃったので、嗜めたのです。じゃあ、なぜか好かれまして」
「知ってはいたが……君は相変わらずの人たらしだな」
彼ははぁーっとため息をつき、頭を抱えている。
「まあ、殿下は幼い。おそらく、姉を慕うような気持ちだろう」
「ええ、そう思いますわ」
私達はこの考えが甘かったことを後々知ることになる。王族というものはしつこい……その上権力もあるので、断りにくいという大問題があることを。