78 シャルル殿下①
まずい。調子に乗って年上の義弟の頭を撫でてしまった。驚かれているし不愉快に思われたかも。
「なんで……君は兄上のなんだろうな」
「え?」
私は彼の言った意味がよくわからず、聞き返したが無視された。
「フェリクス、資料見つかったか?」
その時、扉から彼と同じ法務官の方が声をかけてきた。その声に反応して、フェリクス様はスッと無表情になった。
「ええ、何冊か調べる必要がありそうですが、見つかりました。すぐに部屋に戻ります」
「ああ……っと!大声で失礼しました。どなたもいらっしゃらないと思っていたので」
彼は私に気が付き、謝ってくれた。
「いいえ、お気になさらないでくださいませ。たまたまフェリクス様とお会いしたので、私が彼の足を止めてしまいましたの。こちらこそお仕事の邪魔をして申し訳ございませんわ」
「フェリクス、この御令嬢は?」
「兄の……婚約者のミシェル様です」
「ああ、治癒士の。とてもお美しいので驚きました。私は彼の上司のポールです」
「ふふ、まぁポール様揶揄って。お口がお上手ですこと。今後ともフェリクス様のことよろしくお願い致しますわ」
ふわりと貴族令嬢らしく微笑んだ。
「ミシェル様、ではまた機会があれば。僕は業務に戻りますので」
「ええ、無理はなさらないように」
フェリクス様は公私はきちんと分けられる方の様で、お仕事中はとても誠実で真面目なようだ。まるで別の方みたい……ああしていると、団長のデーヴィド様とよく似ているなと思った。
♢♢♢
その後陛下の孫にあたるシャルル殿下が、お庭でこけられてと連絡がありそれを治しに向かった。
「痛い」
五歳の殿下はお友達と遊んでいる時に、喧嘩になりその時にこけて血が出たそうで派手に泣いている。お友達であろう、他の子ども達も泣きながら傷だらけだ。
「もう大丈夫ですよ、すぐ痛くなくなりますからね。順番に治します」
私は一番年下の女の子から治療しようと、視線を子ども達に合わせる。
「待てよ、僕は王族だぞ。僕から治せ」
シャルル殿下は初めての陛下の孫で、甘やかされて育ったのか当たり前のようにそう仰った。確かにシャルル殿下はこの国の大事な存在だし、位で言えば間違いなく一番高貴な方だ。だが……これはいけない。命がかかった怪我ではないのだから。
「シャルル殿下、貴方はこの子より年上ですね。しかも女の子を先に治すのは紳士として当たり前ではありませんか?」
私は笑顔でそう言った。
「でも……僕も痛いんだ」
「そうですね、でもみんな同じように痛いのです。貴方だけ先に治って元気になればいいのですか?弱い者を慈しみ思いやる心はこれから王として生きる殿下にとても必要だと私は思いますが」
彼は口を尖らせて俯いた。
はっ!私ったら殿下に偉そうなことを言ってしまった……間違ったことは言っていないが、不敬罪とか言われたらどうしようとチラリと殿下の従者を見ると「殿下がすみません」というように頭を下げられた。
「わかった……エミリーから治してあげて。僕は最後で大丈夫だから」
殿下は照れて、もじもじしながらそう仰った。なにこれ、可愛い!
私は順番に治癒魔法をかけていき、最後に殿下を治した。
「殿下、最後までよく頑張られましたね。とっても格好良くて偉かったです」
そう言って私は殿下の頭をわしわしと撫でた。殿下は恥ずかしそうな嬉しそうな顔で私に抱きついてきた。
殿下が先にお友達の治療を優先したことにより、子ども達は自然と仲直りもできたようでよかった。