入部対決!
「どうした、柴村部員。そんな大きな声を出して。今の説明になにか問題点でもあったか?」
着替えながら、何事もなかったかの ように聞いてくる女装変人イケメン部長。
「おおありですよ! 騙しましたねっ! よくも俺の純情をっ!」
「なんだ、名前のことか? 名前ぐらい、いいじゃないか」
「嘘つけ、あんた性別も騙してたでしょ!」
「俺は別に一言も女だとは言ってないぞ」
「確かに言ってないですけど。女装してる男だなんて思うわけないじゃないですか!」
「こらこら偏見はいかんぞ。偏見は視界を狭めるからな。今の時代、男だから女だからと勝手に縛り付けるのは良くない」
俺も別に男が女装したりすることを別に否定はしない。そういうのは個人の自由だと思うし、悪いことだは思わない。自分が正しいと思う恰好をすればいいと思う。
でも、騙されてたなら話は別だ。こんな展開を俺は絶対に認めない!
「じゃあ先輩は好きで女装してたっていうんですか」
「いいや、もちろん柴村部員を騙すためだ」
今、騙すためっていったよね! ぶっちゃけやがったよ、この人っ!
わかってた、わかってたんだよ。そんなご都合展開あるわけないって。でも、誰が俺の妄想を責められようか。いや、あるはずがない。健全な男子高校生なんだ、美人な彼女ができて――なんて夢を見ったていいじゃないか!
「じゃあ俺、退部させてもらいます」
「悪いが拒否しよう」
「何様ですか!」
「部長だが」
「横暴だ!」
こうなったら、無理やりにでも帰らせてもらおう。そう思って出ようとするが、部長(仮)によって進路を防がれてしまう。意地でも通さない気かこの人。
「まあ、そう慌てるな。もう一人、声を掛けている」
どうせ、男なんでしょ。俺と同じで部長に騙されたんでしょ。何が楽しくて男三人で変な部活動をしないといけないんだ。
「おっ、来たようだ」
部長が鍵を開け、ガラガラと扉を開いた。
「入りたまえ」
案の定そこにいたのは女子の制服に身を包んだ長い髪をなびかせた男が……あれ、ちょっと待って、普通に女の子じゃね? ダメだ、さっきまで部長がなんでもなかったかのように女装していたせいでこんがらがってきたぞ。
落ち着け、俺。決めつけるのは良くないぞ。部長(仮)も言っていたじゃないか。もしかしたら女装をしている男かもしれない。そう思い少女(?)をまじまじと見る。背は俺と同じぐらいだ。目鼻立ちは整っていて、仏頂面。いわゆるクール系美少女と言った感じだ。胸は……あるような、ないような……うーん、どっちとも言えない。ってことは、たぶん男だと思う。というかどっかで見たような……。
「えーと、男ですよね?」
「何を言っているんだ柴村部員。女性に対してそんなこと言うは失礼だろう」
「いや、だってどうせ男なんでしょ」
「いや彼女は正真正銘、女性だぞ」
「……え? ほんとですか?」
「本当だ」
「りありぃ?」
「リアリィだ。見ればわかるだろう。頭大丈夫か?」
あんたのせいでわからなくなったんだよ! これじゃあ俺はただの失礼な男じゃないか。せっかくの美少女と同じ部活になれたのに嫌われてしまう。いや、落ち着け、落ち着くんだ柴村謙一! まだこれからじゃないか。これから好感度を上げていけば問題はない。 諦めたらそこで終了だっ! 目指せラブコメ主人公!
と、俺が心の中でひとり勝手に盛り上がっている中、部長が現れた女子生徒を紹介する。
「紹介しよう、海原渚部員だ。で、海原部員、こちらが柴村謙一部員だ」
海原渚——思い出した、同じクラスの女子だ。決して、忘れていたわけではない。ただ男子とも仲良くないのに女子と関わろうなんて思ってないのでまだクラスの女子を憶えられてないだけだ。つまり忘れていました、すいません。
それでも、記憶に残っていたのは彼女がクラスで噂になっていたからだ。容姿端麗でなんでも入試の成績はトップ、この前の五十メートル走は学年二位と身体能力も高いというハイスッペク美少女。加えて、男女構わず冷たい態度をとっているらしい。
「……話が違う。こんな普通の奴が私と同じような人間とは思えない」
なんか、いきなりナチュラルに人間以下扱いされたんだけど。いや確かにね、俺、失礼なこと言ったし、クラスメートなのに全然気づかなかったけど。でも、いきなりそこまでの扱いをする必要ないと思う。あれ、待てよ……美少女に罵倒されるって最高じゃね……?
「いや、こう見えて柴村部員は君と対等だ」
「……こんな犬面した奴が?」
前言撤回、いくら美少女でもこいつだけにはなんか馬鹿にされたくない。
「まぁ、確かに見てくれは君に比べて劣っているがな」
余計なお世話だっ!
「だが、柴村部員が君に引けをとらないというのは保証しよう。根拠は俺の目だ」
なんて不安な判断材料だ。
「……」
「納得いってないような顔だな」
「こんな犬面した奴が私と対等だと思えない」
「なんだと! 俺のどこが犬面だ!」
「……私は事実を言っただけ。鏡を見れば一目瞭然
」
ぐぬぬぬ、と互いに睨めつけ合う。
「仲良がよさそうで結構だ」
「「誰がっ!」」
「ほら、息もぴったりじゃないか」
再び始まる、ガンのくれ合い。まさに犬と猫とはこういうこと。こいつとだけは仲良くなれない気がする。
「……私はこんな奴と同じ部活になんて入れない」
「それはこっちの台詞だ!」
俺と海原がバチバチとしている中、部長は取り持つように間に割って入ってきた。
「そう結論を急ぐな。それは俺の話が終わってからだ。ということで、これから二人には勝負をしてもらう」
どういうことか説明してほしい。部長の言ってることが支離滅裂すぎてわからない。
そんな俺の心を読んだかのように部長は続ける。
「まず、ふたりに足りないのはお互いに相手のことを知ろうとすることだ。相手にどう接するかは勝手だが、相手のことを知ってからでも遅くはない。勝手に決めつけるのは良くないと言っただろう?」
「一理ありますけど……なんで勝負なんですか?」
「それはその方が断然面白いからに決まっているだろ」
「おいっ!」
「そもそも俺が自己紹介しろと言ったとこでお前らしないだろう?」
まったくもってその通りなので何も言えない。
「あとは、ぶつかることでわかることもある、ということだ」
なんだろ、この人メチャクチャなこと言ってるくせに筋が通ってる気がする。
「勝負の内容は俺が決める。安心しろ、ちゃんとメリットもある」
「メリットって……?」
「海原部員はこの勝負に勝てば退部してもらっても結構だ。約束しよう。だが、負けたら我が部に入部してもらう。海原部員、異論はないな?」
「……わかりました」
「柴村部員も負けたら残念ながら我が部の部員だ。勝ったのなら——」
「……勝ったのなら?」
「——晴れて我が部の部員だ!」
いや待て、絶対おかしい! なんで俺は入部すること確定なんだ⁉
「もちろん、異論は認めない」
「ひどっ!」
「では勝負内容を発表する」
さっき部長、俺と海原が同等と言ったけど、圧倒的に俺が不利だと思う。
自分で言うのもなんだが俺は超が付くぐらい超普通なのに対し海原は噂では相当なハイスペック美少女、普通に考えても勝てる気がしない。勝てることといったら最近人一倍強くなった性欲ぐらいしかない。
「勝負は派遣部オリジナル野球拳対決だ!」
なに⁉ 野球拳、だと……っ⁉ よしきた、燃え上がれ俺のリビドー!。
「マジですか部長!」
「マジだが? どうかしたか?」
「負けたら服脱ぐやつですよね?」
「脱がないが」
「え?」
「派遣部オリジナルと言っただろう。そもそも本来の野球拳はそんなやましいものではないぞ、柴村部員。とは言っても派遣部オリジナルは柴村部員の知っている野球拳をベースにしてるがな。当然恥ずかしいおもいをする」
「じょあ結局、なにが違うんですか?」
「うむ、いまからそれを説明する」
そう言うと部長はどこからか箱を取り出した。よくくじ引きとかに使われるサイズだ。
「ルールを説明する。ルールは簡単まずはジャンケンだ。合図は俺がする。そして、負けた方にはこいつの中から一枚カードを引いてもらう。紙には様々なお題が書いてある。負けた方はそのお題をこなしてもらう」
「意外と普通ですね」
「シンプルイズベストだ。勝敗の決め方は先程言った通りお題をこなさなせなかったら負けだ。つまり、相手を先に降参させれば勝ちだ。どちらかが降参するまでこの勝負は終わらない!」
「ふたりとも準備はいいか?」
こぶしを握り、頷く。準備万端だ。この勝負、絶対に負けられない……!
「勝負開始ィッ‼」
部長の合図を皮切りに互いのプライドをかけた勝負が始まった。