ラプラスの魔眼
神様は退屈そうに大きなアクビをした。
「えっ、他の人!? 何それ聞いてない!」
『そういえば言っとらんかったの。今他の人も同時に選んどるんじゃ。同じスキルは選べんから早い者勝ちじゃな……』
「いやそれ先言えよ!」
――なんてこった。時間制限無しだと思ったからゆっくり選んだのに……これをどこかで一緒に選んでる人がいるのか? 7つのスキルと言う事は最大で7人か? やっぱりそいつらとデスゲームするのか?
『すまん忘れておったわい。
――おっ、速報じゃ。今確認したら【メッシの加護】と【黄金回転】と【第三の目】が取られておったぞい。急げ急げ、他のも取られるぞい』
「は?」
第一候補の【黄金回転】が先に取られてしまった。
クソッ、怒ってる暇も余計な事を考える暇もない。急いで決めろ。ワタルは爪を噛みながら考えた。
後考えてないので残ってるのは【ラプラスの魔眼】だけだ。さっきまで選ぼうとしたスキルはドリブルだったり筋力だったり直接何かの能力が上がる効果だが、【ラプラスの魔眼】は分かりやすく何かの能力が変わる訳ではない。
だからこれと【第三の目】を選ぶのは無しだと思っていた。
あらかじめボールの来るポイントとタイミングを把握出来ると言うことは、ワタルの得意のトラップとダイレクトプレーが更に上手くなりそうではあるが……
他のスキルに比べて些か地味に感じる。
その時、ワタルはさっき屋上で思い出した小二の頃にテレビで見た憧れの選手が頭をよぎった。そう言えば彼のアクロバティックなシュートを見て大興奮したのをキッカケにサッカーを始めたんだっけか……
その人の名前はズラタン・イブラヒモビッチ。ワタルが一番好きなサッカー選手だ。
ゴールから30m以上も離れた位置から、背中を向けたまま飛び上がり豪快なオーバヘッドシュートを決めるシーンを見てサッカーに夢中になった。何度もそれを試合で真似して、擦り傷だらけになったのが懐かしい。
ワタルは思いだした。オーバーヘッドシュートを決めた時に上がる大歓声、空中でドンピシャにボールを当てた時に残る心地よい足の感触、反転する景色に大興奮するチームメイト達を。それだけでまた涙が出そうになった。
長らくシュートを打つ機会が無くなったせいで幼い頃に抱いた原初の憧れを忘れていた。過酷な現実の分厚い壁に押し戻されるように段々ゴールから離れた場所に下げられたせいで初心を忘れていた。
でも今思い出した、ワタルのやりたいプレーはあれだ。憧れのイブラヒモビッチのようにド派手なアクロバットシュートを決め、見る人の度肝を抜きたい。小さい頃の自分のような人を熱狂させたい。それがワタルの原点にして頂点だ。
【ラプラスの魔願】にワタルの得意のダイレクトプレーが組み合わされば彼のようなピンポイントでシュートが打てる筈だ。
もし二つ選ぶことを許されるなら二つ目のスキルは自分の短所を補う意味で身体強化系から選びたかったが仕方ない。色々な可能性を考えたけど、結局この胸の憧れは止められないのだ。
「【ラプラスの魔眼】でお願いします」
ワタルは和製ズラタン・イブラヒモビッチを目指すと決意した。
『よろしい。【ラプラスの魔眼】じゃな。
……これで7人全員スキルを選び終えたな』
※ズラタン・イブラヒモビッチ
・スウェーデン代表の197cmの長身FW。4つのリーグで優勝を経験し、5度の得点王を獲得したストライカー。リーグ優勝請負人
・身体能力が高いことからアクロバティックなシュートを得意としており、相手ゴールに背を向けた姿勢からもシュートを放つことができる。また自ら点を取るだけでなく、アシスト役もこなすことが可能で、トリッキーなプレーを見せる。
ウィキペディアより一部抜粋