表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/35

勝利の美酒

「よっし!!!

 ノブヒロ、シュンヤ、ワタル、そして皆! よくやってくれた! お前達のおかげで勝てた!」


 終了の笛が鳴ると同時に仙台育米の安宅監督は大きなガッツポーズをした。


「愛媛古田――特に飯山君はかなり強敵だった。恐らく以前のカウンターサッカーでは勝てなかったかもしれない」


 カウンターをする為にはまず相手の攻撃耐える必要がある。しかし、自慢の守備は飯山の圧倒的技術の前には手も足も出なかった。

 旧体制のまま愛媛古田と戦っていたら、カウンターする前に点を取られて負けていただろう。


「ワタル君……君を選んで――チームの王様にしてホントに良かったよ」


 久しぶりかもしれない。たった一つの勝利にここまで胸が踊り、感動の涙を流したのは……


「そうだ、この感情だ……」


 勝てば全力で狂喜乱舞し、負ければ腹わたが煮え返るくらい怒り狂う。長らく安定して来たせいで、真剣勝負たるその本質を忘れていた。


「君が私に思い出させてくれたんだ、ワタル君……

 私はこの感動をまた味わいたかったから、選手を引退しても尚、サッカーにしがみついたんだ」


 このチームは強い。もしかしたら、本当にインターハイを優勝出来るかもしれない。そんな期待を込めて今回の立役者達を見る。


「しゃあァァァ!! 女子アナはワシのもんじゃ!!

 ――え、カード?

 ……まぁ、しゃーないか……」


 激戦を制して大喜びしている最中に、飯山君の服を掴んだ事によりイエローカードを貰い一気に落ち込むシュンヤ。


「クソっ……まだだ。まだ壁の向こう側は見えてねぇ。まだ俺は変われてねぇ。次こそは……」


 試合には勝ったが、最後の一騎打ちに負けて納得がいかない表情を浮かべるノブヒロ。


「飯山……悪く思うなよ。俺達は先に進むぜ……」


 そして、放心状態になりチームメイトに介抱される飯山を、いつくしむようにじっと見つめるワタル。


 三者三様の反応を見せる中、安宅は3年前に彼らを取った時の事を思い出した。




『広島サンアローズで【三本の矢】専門のパスマシンをしていた吉城 渡。

 身長が低い癖にやりたいプレーしかなくてチームにあわず、大阪梢院中学を追放された九狼 瞬也。

 そして、イップスが原因で鳥取ワイマーレを追放された香熊 信広。

 どうして推薦枠をこの三人に使ったんですか? 三人とも敗れて追放された選手じゃないですか?』


 面接終了直後に隣で聞いていたコーチは安宅に疑問をぶつけた。


『三人とも負けてここに流れて来たのに、まだ諦めてない目をしていたからだ。

 私の経験上、そう言う選手が土壇場(どたんば)で強い力を発揮してくれる』

『つまりハングリー精神って奴ですか?』


 コーチの要約に安宅はそうだと小さくうなずいて続ける。


『ああ、敗北の苦渋くじゅう不味まずさを味わった事がない人に、勝利の美酒のあの格別な美味(うま)さは分からんよ』




 きっと過去の敗北した経験が彼らを強くして、今日の勝利に結びついたのだろう。

 この時の為に彼らを取ったのかも知れない。安宅はそうしみじみと思った。


「さぁ、極上な勝利の美酒だ。お前らとくと味わって、成長の糧にして次に進むんだぞ。

 そして明日も勝利の美酒を飲ませてくれ! これからも浴びるほどの美酒を飲ませてくれ!!」


 ■


 勝利を手にして次に進む人がいる一方、敗北して全てを失って終わる人もいる。それは全てのスポーツから決して切り離せない残酷な一面なのだろう。


 飯山 理音(リオン)の頭は全く働かず、ボーっとしていた。


(俺は負けたのか……【メッシの加護】を失うのか……)


「リオンちゃん! 惜しかった。もう少しだった……

 でもこれだけはハッキリと言える――

 リオンと一緒にサッカー出来てホントに良かった!!」


 泣きじゃくる顔で幼馴染みの迫平が抱きついて来た。本来なら嬉しくて恥ずかしいはずなんだが、頭が働かない。目の前が真っ白になっていく。


「大丈夫か、リオン? リオン!? リオン!!」


 そう揺らすなよ迫平。ちゃんと聞こえてる。ただ頭が働かなくて上手く喋れないだけなんだ……

 もしかして、【メッシの加護】とインターハイ・デスゲームに関する記憶を取り立てられている最中の副作用か? 

 はたまた、ただ単に度重なる無理矢理なドリブル突破で疲れた影響なのかは分からない。


「――メッシ……」


 薄れていく意識の中、憧れの人の幻が見えた気がした。携帯の待ち受けやテレビで何度も見たその英雄の勇姿にリオンは弱く呟いた。


「行かないでくれ……」


 メッシの幻はこちらに一瞥いちべつすると、リオンの想いを無視して背を向けて歩いて行き露となって消えた。

 それと同時にずっとこの胸を支配していた全能感が消えた。


(そうか俺はもうメッシじゃないのか……全てを失った俺の夢はここで終わったのか……)


「大丈夫だよ、リオンちゃん!

 また0からやり直そう。大学でも一緒にサッカーやってプロになろうよ!

 だってリオンは俺の中では永遠の英雄メッシだから!!!!」


 いや、俺はまだ何も失っていない。そうだ、元の夢を追う少年に戻っただけだ。


「迫……平……」


 だからこそ誓うよ、俺の英雄。どんなに辛くても、どんなに遠回りしても必ずまたそこに辿り着いてみせる。

【メッシの加護】が無くても、プロになってあなたと同じピッチに立つその日まで、進み続けるんだ。


 だが――


「せめてこの敗北の苦渋の味だけは、忘れたくないなぁ……」


 そう言い残し、リオンの意識は途絶えた。

宣言が解除されてから、リアルが忙しくなってきて投稿頻度が落ちてすいません。


そんな作者の執筆の糧になりますので、面白かったら評価ブクマ感想をお願い致しますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ