決着
雄叫びを上げる香熊は重い一歩を踏み出した。
イップスは治ってないし、膝上までぬかるみにハマっているままの気分だ。
しかしそれでも香熊は無理矢理体を動かす。体力と気力が通常の数倍の早さで消耗していくが関係ない。
「くッ、速い……思ったより堅いな」
突然の香熊の鋭い動きに、飯山は無理に正面突破を選ばず斜め左に切り返し、外から突破しようとする。ラストチャンスで後がないので慎重にいくようだ。
「通すかよ!」
香熊は飯山の急な方向転換に歯を食いしばってくらいつく。イップスにより足の力が穴の空いた風船のように抜けてくが、それでも自分に喝を入れて食らいつく。
そうだとも。俺はノロマじゃない、跳び箱じゃないんだ。
確かに中一の頃は急激に背が伸びた影響もあって、動きが鈍くてノロマだったかもしれない。
だがノボリスペシャルをやられた事が死ぬ程悔しくて、あれから毎日走り込みをするように成ったんだ。
おかげで仙台育米一番の速度とスタミナを手に入れた。全ての努力は今、コイツを止める為だ!
「どけ! 俺は無敵だ!」
前後左右に揺さぶりをかけるが、必死の抵抗をして中々スキが出来ずに抜けない香熊に飯山は焦り始めた。せっかく抜いた敵が守備に戻って来てしまう事を恐れてるようだ。
「ハァハァ……しつこい……」
それに流石の飯山も疲れて、最初のような圧倒的なキレが無くなって来た気がする。リスタートしてから休み無しで、ここまでほとんど一人でドリブルして来たのだから無理もないかもしれない。
「あっ、しまっ……」
「スキあり!」
その時飯山がドリブルを乱し、いついかなる時もずっと足元にピッタリとくっついていた筈のボールが少し離れた。その一瞬のスキを逃さず香熊はボールをクリアしようとするが……
「――フッ、ようやく俺に股を開いてくれたなぁ!!!」
「なに! 罠だとぉ!!!」
飯山はボールを奪おうと伸ばした香熊の足がボールに触れる直前に、ボールに素早くタッチして香熊の開いた股下を抜くパスを自分に出すと共に駆け抜けた。
「くっ、クッソォ! ハメられたぁ!」
「俺の勝ちだ! 中々楽しめたぜ、香熊君」
急激な重心移動に耐えきれず、香熊は重心崩壊を起こされてコケた。
この抜けるスピードを見るに、疲れてるフリをして誘われたのか? それとも香熊を抜くフリだけして仕掛けずに、そのスキに体力回復したのか?
分からない。ただ分かるのは俺が一騎打ちに負けたと言う事だけだ。
やっとイップスを克服出来る光明が見えたと思ったのに……
やっとノロマな跳び箱じゃないと証明出来たと思ったのに……
これでもまだ届かないのか?
「さぁ、勝負はまだまだこれからだ! 延長戦で勝ち越して、そのまま優勝まで突き進む! そうさ俺が英雄だァァ!!!!」
抜けたボールはペナルティーエリアに入り、それに飯山が追いつきシュートする刹那――
「いや、これで終わりだ。座標セット」
【前方:2.468m 右方:0.632m 高さ:0.012m 1.896秒】
■
ワタルは彼らの一騎打ちを追いかけながらスキを伺っていた。今無理矢理突入しても香熊の邪魔になるか、飯山に壁として使われるだけだろう。やはり香熊の作ったスキを獲るべきだ。
本家メッシもそうだが、飯山がボールを全くロストしない理由は常に足元にボールが収まっているからだ。厄介な事にどんなに速くドリブルしても、どんな凄いフェイントをかけてもボールが足元を離れない。
ボールとの距離が近いから、仕掛けようとしても先に触られて後出しジャンケンのように躱される。
さっき九狼と連携して死角からのスライディングをした時も、結局先にボールに触られる事で避けられた。
だから仕掛けるなら、足元からボールが大きく離れた瞬間だ。そのスキを香熊が作ってくれると信じて待とう。
そして時が来た。
「さぁ、勝負はまだまだこれからだ! 延長戦で勝ち越してそのまま優勝まで突き進む! 俺が英雄だァァ!!!!」
飯山は香熊の股を抜いて、走りながらシュートモーションに移行する。
「いや、これで終わりだ。座標セット」
【前方:2.468m 右方:0.632m 高さ:0.012m 1.896秒】
飯山の出したボールの転がる軌道は瞬時に【ラプラスの魔眼】によって示される。ガイドラインに沿って素早く座標を設定したワタルは最短距離を駆け抜けた。
「なっ、速い! ま、まさか【ラプラスの魔眼】によるショートカット……お前その力を守備に転用したのか!?」
飯山がシュートする寸前に、ワタルはボールとの間に割り込みシュートは失敗に終わる。
「まぁ、俺も今【ラプラスの魔眼】を使ったパスカットによる守備力向上の可能性に気付いたんだがな……」
すかさず手で飯山を抑えつけて、キーパーの高柳に優しいパスを出した。
今までずっと前線にいたから、【ラプラスの魔眼】を守備に使う発想は無かった。どうやらワタルはまだ【ラプラスの魔眼】の能力を十分に引き出せてないみたいだ。
「や、やめろぉ!!!! 待ってくれぇぇぇ!! 行かないでくれぇぇぇ!!! 俺、英雄、憧れ、メッシィィ!!!!」
飯山は必死に叫びながらワタルの抑えた手を振り解こうともがくが、その力は何故か驚く程弱かった。
フィジカルがそんなに強くないワタルが抑えつけても、本来ならあっさり弾かれるが、きっと飯山はかなり体力を消耗して力が入らないのだろう。
九狼にゴンさん、永見に河北、岩倉、和泉そして香熊。全員コイツに抜かれはしたが、しっかりとその体力を削り、戻る時間を稼げた事でワタルは勝てたのだ。
「悪いな、飯山 理音。この勝負は俺達の勝ちだ!」
「やめろォォォォォ!!!」
高柳は転がるボールを大きくクリアする。ボールは悲痛な叫びを上げる飯山を無視するかのように大きな放物線を描いて、タッチラインを割った。
――ピー、ピー、ピーーーー!!!
そして長かった試合の終了を告げるホイッスルが鳴った。
インターハイ二回戦
仙台育米 4-3 愛媛古田
仙台育米:
11分 吉城 渡
19分 吉城 渡 (九狼 瞬也)
51分 九狼 瞬也 (吉城 渡)
70分 香熊 信広 (吉城 渡)
※九狼 瞬也 イエローカード1枚
愛媛古田:
0分 飯山 理音 (島田 隆文)
15分 飯山 理音
34分 飯山 理音 (迫平 勇斗)
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仙台育米【ラプラスの魔眼】 吉城 渡:二回戦突破
愛媛古田【メッシの加護】 飯山 理音:二回戦敗退によりインターハイ・デスゲーム失格
【メッシの加護】没収
ここまで読んでくれてありがとうございます。
回想含め約10話と、これまでで一番長い激戦になりました。vs【メッシの加護】はこれにて決着です。
やり切ったと思う反面、後こんな試合を4回も書かなければいけないのかと少しビビっています。でもたくさん読んで評価してくれる人がいる以上頑張りたいと思います。
後、読んでくれてる人に質問です。
もう少し彼らの日常を書いてキャラの掘り下げをしてから試合に望もうかと思う反面、
そんな事より試合だ。インターハイ・デスゲームを早く進めよう! とも考えています。
皆様は試合を多めに読みたい派ですか? それとも数話くらいの日常編も読みたい派ですか?
良ければ今後の指針に、感想等で教えて下さい。




