絶対に負けられない戦い
「みんな、コイツを止めるぞ! 最後まで油断するな!」
暴走するリオンの前に、先頭の吉城が立ちはだかる。
「どけ、ラプラス! お前の守備力じゃ相手にならねぇ!」
リオンはワンタッチで吉城を抜き、スピードを緩めずに中央から駆け上がる。
「ああそうだ。どうせ俺じゃあ止められない。だからあえて通してあげたのさ。行け九狼!」
「ナイス囮、吉城! 影っていうのは後ろからやってくるもんだぜぇ!」
リオンが吉城を抜くと同時に、背後に隠れていた九狼が死角からスライディングをして来た。どうやらワザと中央側に誘われたようだ。
「なるほど二段構えか、よく考えたな……
で? だから?
そんなんでこの英雄が止めれる訳ねぇーだろうがァ!!」
想定外の出来事だがリオンは慌てない。いや、慌てる必要がない。
高速ドリブルをしようと【メッシの加護】により、ボールは足元を離れる事は無い。
リオンは九狼の不意打ちスライディングがボールに届くよりも先にボールを踏んで戻し、素早いV字ターンでスライディング体勢のまま動けない九狼の後ろから抜いて行った。
「はっ? 今のは完全に取ったやろ? なんで躱せるんや!? ホンマ学ぶ物が多過ぎるで……
クソっ待てや!」
「クッ、これでもダメか……
すまん。永見、河北! そいつを足止めしてくれ。俺達の戻る時間を稼いでくれ」
吉城が後ろから追ってきながら、味方に指示を飛ばす。コイツもちゃんとエースしてやがるな……
「りょ、了解 吉城先輩!」
「こい! 今度こそ止めてやる」
吉城と九狼の渾身の連携プレーを難なく攻略したリオンの前に今度は二人のボランチが立ちはだかった。
ゆっくり仕掛ければ攻略する方法はいくつもあるだろうが、モタモタしてると戻って来た吉城達に囲まれてしまう。だから――
「俺は無敵! この力は俺のもんだァ!! 絶対誰にも渡さねぇ!!」
一瞬右側でスピードを緩めて止まると思わせて永見を釣り出し、ワンタッチ目で永見を、ツータッチ目で河北を強引にブチ抜き、二人を間をジグザグに突破した。
「はっ? 今何をされたんだ?」
「嘘だろ……なんでまだそんなキレで動けるんだ……」
スタートしてから20秒足らず、リオンは圧倒的技術で4人をゴボウ抜きし、バイタルエリアに突入する。
――ああ、【メッシの加護】……最強で最高過ぎる!!! ずっと夢見ていた憧れが……テレビでしか見る事が出来なかった理想が現実になったような心地だ。
俺は子供の頃からずっとこんなプレーがしたかった。こんな英雄みたいな選手になりたかった。
でも現実は残酷だ。一生懸命理想に近づく練習をしても結局、理想の猿真似しか身に付かなかった。故に俺はずっと日の目を見る事は出来なかった。
昨日の試合だって【メッシの加護】がなければ負けていただろう。
だからこそ、負けれない。【メッシの加護】を失いたくない。俺は英雄になる為に、今この試合を勝つために生まれてきたのだから……
「――ヒャハッ! ようやく捕まえたぜ! ワシの目標ッ!」
しかしその刹那、リオンは急激に後ろに引っ張られてバランスを崩してしまった。その拍子にドリブルが乱れ足元のボールがコロコロ転がって行く。
「なっ……! ちくしょう!」
どうやらさっき抜いたはずの仙台育米9番の九狼と言う選手が、カード覚悟で服を引っ張って来たようだ。この野郎、追いついて来るとは中々足が速い。
しかしどういう訳か、中断の笛は鳴らない。審判はまだインプレー、すなわち続行の判断を下したようだ。
「――ナイス九狼!」
そして無情にもこぼれたボールを、近くにいた敵CBの岩倉がすかさずクリアしようとする。
――ああ、やめてくれ! ラストチャンスを潰さないでくれ! 俺から【憧れ】を奪わないでくれ!
「ウオォォ!!」
「ぐわぁっ! いつの間に!?」
岩倉がクリアする寸前の所で、味方CBでキャプテンの迫平がチャージを仕掛けて空振りさせた。
「ゴメンリオンちゃん。俺、さっき諦めちゃったんだ。勝つのを諦めてしまったんだ!
リオンちゃんが最後の一秒まで一生懸命頑張っているのに、俺達は負けを受け入れてしまったんだ……!
だと言うのにリオンちゃんはスゲェよ! お前は俺達の誇りだ! リオンこそ俺達の英雄だ!」
涙で顔がグチャグチャに成っている迫平は、岩倉と競り合いながらも何とかヨロヨロのパスをリオンに戻す。
――ああ、助かったよ迫平。俺は孤独じゃないんだな。
感謝の意を無言で伝えながらリオンはボールを足元に収め、トラップ際を狩りに来た敵SBの和泉をワンタッチで抜き、ゴールを見据える。
「そういえばまだお前をコケさせていなかったな。今こそ決着を付けよう香熊君」
ゴールまでは後一人。後半戦になって散々俺の邪魔をして来た香熊がペナルティエリア前に陣取っている。
「英雄は負けない!
英雄は諦めない!
故に俺は無敵だァァァ!!!」
■
――ああ、タダでは終わらせてくれないのか……
香熊 信広は無敵の突撃を繰り返し、とうとう目の前まで迫ってきた飯山を見ながら全身で震えていた。
香熊が一騎打ちで飯山を止めないと、延長戦にもつれ込むのは確実だ。
『お前、図体はデカいクセにノロマだな。跳び箱に丁度いいぜ!!』
最も恐れていた事態と共に、最も恐れていた現象が当たり前のように発生する。
――ああ、また思い出してしまった……幟君の憎たらしい声、奴に頭を撫でられた屈辱的な感触……
そして足が底なし沼にハマっていくような感覚……息が出来なくて苦しい……またイップスだ。
イップスで動けない香熊を無視して飯山は一歩、また一歩と香熊に迫って来る。このままではゴールを奪われる。
僕は中学生の時みたいに大事な局面で地蔵になる欠陥品のままなのか?
やっぱり僕は【三本の矢】や飯山には敵わない負け犬のままなのか?
「頑張れ香熊!! 無理せず時間を稼げ!
一緒にコイツを倒すぞ!!」
しかしその時、嫌いなワタルの声が届き香熊は我に返る。
「ふっっざけるなァァァァァァ!!!!!!」
――違う! 断じて違う。俺はあの頃の俺じゃない。俺の夢は4年後のワールドカップに出る事だ! その時は本物のメッシとだって戦う可能性すらあるのに、偽物に負けていられるものか!
さぁ動け俺の足!! 何故なら――
「俺は――跳び箱じゃねぇぇぇぇ!!!!!!」




