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31/35

 後半戦の残り時間は僅か4分、3-3の同点のまま紙一重の攻防が続く。

 香熊のマンマークを中心にして何とか飯山にボールが渡るのを防いでる。オフザボールの動きは【メッシの加護】の対象外で助かった。もしオフザボールもメッシの身のこなしだったら、いくら香熊でも抑えきれなかっただろう。

 

 ワタル以外皆守備に徹してるせいで得意のカウンターは中々出来ない。

 おかげでワタルにボールがほとんど回ってこず、攻撃も出来てない。このまま後半を終わらせて良いのかとワタルは考えを張り巡らせる――


(いや、大丈夫だ。同点のまま終わると延長戦に入る。確かに飯山は強力だが、流石に一時間以上もあんなプレーを続けてるからかなり疲れてるハズだ)


 幸い、フィジカル主義だった仙台育米(ウチ)にはスタミナが多い河北や香熊を始めとした選手が多数揃ってる。だから延長戦に入ってもコッチが有利だろう。今は得点よりも失点しない事の方が大事だ。

 無理して攻めた結果ボールを奪われ、飯山にボールが渡りブザービートを決められて負けるのが最悪のシナリオだ。


(俺はここで味方を信じてチャンスを待つ。前線に居る事で相手DFにプレッシャーをかけて攻撃参加を防ぐ。

 それが今の俺の役割だ)


「よし、こい! メッシ発動!!」


 愛媛古田11番は速いスルーパスでパスコースを塞ぐ香熊を抜いてマークを振り切って走る飯山に渡そうとするが――


「だからやらせねぇーよ!」

「ぐわぁっ、くっそぉ!! しつこいなお前!」


 香熊は全力ダッシュで追いつき、飯山がトラップすると同時にチャージをしてボールこぼさせた。


「よし、速攻カウンターのチャンスだ! 上がれ!」


 こぼれ球を拾った岩倉がすかさず前線へと大きな縦パスをだす。


「よし、ナイスだ岩倉! カウンター行くぞ!」


 ワタルはガイドラインに沿って走りながら考える。時間的にこれが後半戦最後の攻撃チャンスだろうが、無理して決める必要はない。


「とは言え俺、しばらく活躍してない気がするからそろそろ見せ場作らないとな!

 座標セット」

【前方:6.342m 左方:1.563m 高さ:0.942m 4.253秒】


 ワタルはハードルを飛び越えるような体勢でボールを前に弾いて得意の背面トラップしようとする――


「ヘイ、吉城!」


 横を走る九狼が見えた。


「今日の九狼は調子が良さそうだな……よし任せてみるか」


 ワタルは予定より優しくジャンプトラップしてボールの勢いを止めて、着地と同時に九狼にパスを出した。


「サンキュ吉城、って今回は結構キツくマークされてるな……」

「さっきは油断したけど、もうリオンの猿真似なんかにはやられない! コッチは練習で何回もリオンのドリブルを受けて来てるんだよぉ!」


 九狼がボールを収めるとすぐに迫平が迫り、一騎打ちになる。


「ヘイパス、九狼! 俺フリーだ! 今は一人だけしか付いてない!」

「悪い、吉城……今回はお前が影をやってくれや」

「へっ?」


 九狼はワタルにパスを出すフリをして、迫平に素早いダブルタッチで勝負を挑む。


「リオンの方がもっと上手いぞ!」

「くっ、どけ!」


 九狼は外側からドリブル突破して得意の加速力で抜き去ろうとするが、迫平が横から食らいついてきて抜ききれずに、二人は競り合いながら斜め外に並走している。


「だぁ!」

「フンっ!」


 このまま外に走り続けるとシュートする角度が無くなるので、九狼は迫平と競りながら無理矢理シュートする。しかし迫平の伸ばした足に当たり、ボールはゴールラインを割る。

 九狼の攻撃は失敗したが、コーナーキックを得る事が出来た。


 とは言えなんか九狼の様子もおかしいな。普段こう言う時は超絶ナントカパスとか言ってワタルに出すが、今回は九狼のスタンドプレーが目立つ。


「どうした、九狼? 今俺に出したら決めれたぞ」


 シュートして倒れた九狼に駆け寄り、ワタルは手を差し伸べながら言う。


「分かっとる……でもずっとお前に頼っているとこれ以上前に進めん気がしたんや……

 悪いとは思ってるが謝らへんで、ワシも強くなりたいんじゃあ。お前らと同じ景色を見たいんじゃあ!

 飯山のドリブルを間近で喰らった今だからこそ、なんかを掴めそうなんや……」

「九狼……」


 コイツは思った以上に図太いなぁ。後半残り僅かで値千金のゴールがどうしても欲しい場面なのに、思い切って己のエゴを優先するとは……

 今のドリブル突破も最初のよりキレは良かった。ただ迫平が飯山のドリブルに慣れていたから失敗したけど、そのまま決まってもおかしくなかった。


(そう言うところは俺も見習わなければなぁ……)


「なんや? せっかくレギュラーに引っ張り上げてやったワシが恩を忘れて、協力せずにやりたいプレーをしたのが不満か?

 悪いがワシは不器用だから自分のやりたい事しか出来ん。そうやって地元の大阪梢院オオサカショウイン中学を追放されて、ここに来たんやけどなんも後悔しとらん!」


 九狼は悪びれずそう宣言した。コイツもクセの強い人だから思い通りに動いてくれるとは思ってなかったが、ここまで強く言われると逆に清々しいなぁ……


「いや、好きにやれよ九狼……

 確かにお前を引き上げる手助けはした。俺の影になれとも言った。

 でもそれを与えたのは安宅監督でお前のポジションはお前の物だ。

 俺は優勝出来るチームを作る為にここの王には成ったが、独裁者に成るつもりはない。だから好きにやれ!

 そんで気が向いたらまた得意の超絶なパスをくれよ……」


 そうだとも。これから続くインターハイ・デスゲームではどんな強敵が相手になるのか最早想像もつかない。飯山のように一人でゴール出来る選手では無いワタルには味方の協力が必要だ。

 だからこそ思い通りに動くだけじゃ駄目だ。ワタルの築いた王国には九狼や香熊のような想像を越えて勝手に動いてくれる選手が一人でも多く必要なんだ。


「ああ、器の大きな王様で助かったわ……

 ありがとさんな――相棒」

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