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20/35

新生仙台育米

「クソっ、これ以上点を取られる訳にはいかない!

 10番だ! 10番にボールを触らせるな!」


 総和の監督は必死に叫ぶ。そんなに大声出したら聞こえるっつーの。


 2-0で後半戦が始まるが、展開は一方的だ。

 これ以上点差を開けない為に総和は全員で守備をしてるおかげで何とか失点は防がれている。しかし、守るのに精一杯で未だにまともなシュート一本も打てていない。

 一方仙台育米側は特に焦らず、自陣でゆっくりパスを回してボールを支配してる。そんな光景を前線で孤立してるワタルはつまらなそうに見ている。


「やっぱあんだけ点を取ると俺はマークされるよな……

 なぁ、あんたら攻めなくていいのか? 2点のビハインドだぞ?」


 ワタルはピッタリとついて来る相手マークの二人に暇つぶしに話しかけた。


「うるさい、これ以上アンタに点を取らせる訳にはいかないんだよぉ!」

「まぁ、それが普通の反応だよな……」


 別にワタルが行動しなくても、このまま時間が経てば勝ちは決まるが、それだと面白くない。


「さて、舞台は整った。そろそろ俺の()に働いて貰うか……」


 こんな状況は想定済みだ。そのために彼が居るのだ。

 ワタルは目でボールホルダーのゴンさんに合図を出し、中央から左に斜め移動(ダイアナゴルラン)をする。右サイドのゴンさんはそれに合わせてサイドチェンジのパスをワタルに出した。


「「ま、まて」」


 ワタルに釣られてマークしてた二人の選手が付いて来る。それでもまだ足りないと思ったのか、前に行く道を塞ごうと最終ラインからDFが一人下りてきた。


「3人も釣れれば十分かな? 座標セット」

【前方:2.658m 左方:3.564m 高さ1.356m 4.236秒】


 ワタルはゴンさんからのパスを鉄山靠で左サイドラインに流し、下からオーバーラップして来る九狼が足元に収めて、前にドリブルしていく。


「何っ!? 背中でパスぅ!?」


 すかさず背中に受けたボールの勢いを利用して方向転換し、今度は反対の右に斜め移動(ダイアナゴルラン)をする。

 ワタルに釣られた3人の選手は突然上がって来た九狼と中央へと逃げるワタルの二人、どっちに付くべきか迷い動きが止まった。


「10番だ、10番を潰せ!」


 榊原は慌てて指示を飛ばし、中央を走る吉城に狙いを絞らせた。


「ええんか? ワシをフリーにしてええんか?

 このシャドウストライカー九狼様を無視したら痛い目見るでぇ!」


 相手DF達の視線が逆サイドのワタルに向いた瞬間、九狼は急加速で中央にカットインした。

 長距離でのトップスピードのチーム最速は香熊だが、一瞬の加速力だけで言えば身軽な九狼のが速い。


「しまった!」


 九狼の一番近くにいた相手DFは急いで振り返るが、もうそこに彼の姿は無かった。


 ワタルのダイアナゴルランと鉄山靠によってズタズタに引き裂かれたDFラインを九狼は悠々と突破し、フリーでペナルティエリアに侵入。そのままゴールを決め3-0と引き離した。


「よっしゃぁ! これでヒーローインタビューはワシに決まりや! カーモンベイビー女子アナ!」

「いや、MVPは流石に全得点に絡んだ俺だろう?」


 九狼とハイタッチしながら冷静にツッコミを入れるワタル。


「だから調子乗んなや、お前ら! 試合が終わるまで何が起こるか分からねーだろ」


 キャプテンの香熊はそんな彼らを注意するが……


「約束の3点差だぞ、ホラ香熊」


 ワタルは手をあげ、今度こそはとハイタッチを香熊に求めた。


「……チッ、わかったよ……」


 ――バチン!


 しぶしぶながらも、香熊はワタルと大きな音で熱いハイタッチを交わした。


「ハハハ、香熊も素直やないなぁ。本当は新チームが上手く機能してくれて一番安心してるクセに」


 そんな光景をニヤニヤしながら九狼は後ろから見ている。


「あ? ぶっ潰すぞ、豆チビ九狼」

「おー怖い怖い……」


 ■


「あーあ、初めて出るインターハイ。一勝だけでもしたかったなぁ……」


 誰にも聞こえなように、小さい声で榊原は呟いた。

 残り15分で3点差、ここから逆転するのは流石に不可能だ。榊原は目尻に涙を溜めながら、少し早い敗北を悟る。

 でも不思議と悔しくない。


 仙台育米10番――吉城 渡。【三本の矢】の他にもこんなバケモノがいるんだなぁと、3人のマークに囲まれて退屈そうにアクビをしている彼を見ながらしみじみ思う。


 この涙も悔恨(かいこん)の涙では無く、感動の涙だ。彼のアクロバットなシュートに心を奪われた。予測不可能な美しい数々のプレーにもう目が離せない。

 是非とも来年から自分が贔屓(ひいき)するJ1チームの東京インパルスに入って欲しいと思っているくらいだ。この試合が終わったらこっそりサインを貰いに行こう。


 しかし、このまま手も足も出ずに終わってしまうと私を信じて付いてきた生徒達の自信が無くなってしまう。

 私はこのチームの監督だ。皆、難関大学の受験勉強で忙しい合間をぬって、私の趣味のサッカー研究に付き合ってくれた。


 例え負けだとしても、このままでは終われない。一矢(いっし)報いたと言う事実が、我々のやって来た努力は決して無駄では無かったんだと言う自覚が、この成功体験こそが彼らのその後の人生の(かて)となるのだ。


「今だ、全員で攻め上がれ!!

 1点でも良い! もうデータとか関係ない! 泥臭くて良い、なりふり構うなっ! 点を取れぇ!!!」


「「ハイッ!!」」

「なにっ!?」


 総和の背番号8番が永見のパスをカットしたのをスイッチに、キーパーを除く10人が一斉に突撃して来た。

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