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それぞれの思い

 ■


 九狼 瞬也は未だに興奮から冷められなかった。それはインターハイに出場が決まり、憧れの女子アナとあえる……からだけではなく新しい自分の可能性が見つかったからだ。


 九狼は目立つのが好きだ。超絶パスとド派手に相手を抜くドリブルが好きだ。だからそれらを磨いてきたが、全く通じず二軍で燻ぶっていた。

 それでも自分を曲げて違うボジションや違うプレースタイルで試合に出るくらいなら、このまま淘汰されて引退した方がマシだと思っていた。


 なので、さっき吉城に影になれと言われた時には正直イラッと来た。

 お前のやり方じゃ通じないから、俺専用の影になってプレーをしろ! と言っているように聞こえ、自分のこれまでの努力を否定された気がしたからだ。


 何よりピッチ上で目立つのが好きなのに、わざと目立たなくする影になるのは嫌だった。それでも自分と同じ立場だった吉城に置いていかれるのはもっと嫌だと思ったから、さっきはしぶしぶ協力した。しかし……


「影……か……」


 吉城の生み出した光に紛れ、闇に忍び、相手の死角を()く必殺仕事人……


「カッケェ……」


 恍惚な表情を浮かべ、自分がゴールを奪った瞬間の感触を幾度となく思いだす。

 プライドが高そうで意外と単純な九狼なのであった。


 ■


 一方本当にプライドの高い香熊 信広は混乱していた。


「クソっ、どうしてこうなった!? もう俺のイップスは治ったはずなのに……なぜワタルなんかに負けた……」


 今日はあのヒョロガリ、ノロマな無能ワタルにとどめを刺して、意気揚々(いきようよう)とチームの主役に君臨する予定だった。

 しかし蓋を開けてみれば、香熊がマークしておきながら2ゴール1アシストの大活躍されて白組は負け、チームの主役を奪われると言う始末だ。


「こんなはずじゃなかったのに……」


 正直めちゃくちゃ悔しい。こんな現実を認めたくない。だが、ワタルは結果を出し安宅監督にも認められた以上、仕方がないと香熊は無理矢理自分に言い聞かせ納得させる。

 

 プレー中は昔の事を思い出して迷ってしまった。自分もインハイに出るのでそれ以上余計な()()の事を出来るだけ考えないようにしよう。


 そんな時、寮に帰ろうとするワタルを見かけた。


「おい、ワタル! ちょっと待てよ」

「な、なんだ?」


 喧嘩腰の香熊に呼び止められ、ワタルはビクッとした。


「一つだけ訂正しといてやる。俺を出し抜けたお前は無能なんかじゃねぇ。だが、俺はまだお前を認めた訳じゃねぇ……

 もしインハイでお前が不甲斐ないプレーをしたら俺が攻め上がり、お前からチームの中心を奪い返してやるぜ!」


 ビシッとワタルに指差し香熊は言い放った。


「あぁ、インターハイは頼りにしてるぞ香熊!」


 しかし、なぜか嬉しそうにキラキラとした目でワタルは香熊を見てきた。


「チッ、お前と話してると調子狂うぜ……」


 そんなワタルのキラキラとした目を直視できず、香熊は逃げるように去って行った。夢に向かってひたすら突き進む子供のような無垢な瞳は、過去の挫折に囚われ続けている今の香熊には眩しすぎたのかもしれない。


「――夢……か……

 俺の夢ってなんだっけ?」


 ■


「今日の吉城先輩キレッキレでしたね! マジで感動しました。ねぇ高柳先輩」


 ワタル達のいなくなった後の部室で部員達は仲良い者通しで談笑している。話題はある人物の事で持ち切りだった。


「い、いや、俺はトラウマになったよ、永見。守備力が売の俺達なのに3点も取られるなんてな……しばらく吉城のシュートを受けたくねぇわ……

 まぁ、味方で良かったよ……」


 ゴールネットを散々揺らされた苦い記憶を思い出し、嫌な顔をするキーパーの高柳。そんな高柳とは一変、永見はニコニコしていた。


「そうですか? 僕は楽しかったですよ。

 ほら僕ってパス下手じゃないですか? パスミスする度申し訳なくなるんで、強いパスを出すが嫌いなんですよ。

 でも吉城先輩は僕が出した変なパスも変な体勢で上手く繋いでくれるから、パス出すのが楽しくなりました! ドサクサに紛れてアシスト一個貰いましたし、もう万々歳です!」


 勝者は笑い敗者は(うれ)う一方で、部室の反対側でCBの岩倉は黒い肌を持つ友達と話しをしていた。


「それにしても安宅監督は思い切った事をしたよなぁ。このタイミングで攻撃陣を入れ替えて吉城を中心にしたチームに作り変えるなんて……

 大丈夫かゴンさん? 元々FWだったけど、ポジション奪われてサイドハーフに下げられちゃって」


「ダイジョーブ。ボク、サイドハーフ、のケイケン、ある」


 セネガルからのスポーツ留学生のゴンさん事クリストファー・ゴンサレスはカタコトの(つたな)い日本語で答える。


「そうか。でもこれで本当に良かったのかな……?

 吉城がスゴかったのは認める。だがたった一試合の出来栄えで、チームを任せるのは正直どうかと俺は思う。

 それに俺は今まで通りの、俺達が作り上げて来た速攻カウンターチームの方が好きだ」


「イワクラ、ボクの国ニハこんなコトワザがある。

 バッファローに追われて木のてっぺんに登るはめになったら――景色を楽しみなさい」


「ゴンさん……つまり……どゆこと?」


 なんか深そうな事が分かったようで、特に何も分からなかった岩倉であった。

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