メンバー発表
「イテテ……流石に疲れたなぁ……インターハイ・デスゲームに向けてもっと体力を付けなければ……」
紅白戦後、ワタルはエアサロンパスをピクピク痙攣している太モモにシューとかけ、度重なるオーバヘッドキックや鉄山靠によってアザが出来た背中にシップを貼る。毎試合こんなに背中にダメージがいくなら柔道部にお邪魔して受け身の練習もせねば……
試合中は特に何も感じ無かったが、終わった瞬間アドレナリンが切れてドッと疲れが来たワタル。それでも――
「凄い楽しかった……やっぱアクロバットなシュートを決めると最高に気持ち良い!」
あの敵味方も問わず皆が大声で盛り上がる感じ、そんなゴールをこの足で創ったと言う実感が好きなんだ。
だからこそもっと大きな舞台で、多くの人達に魅せつけてやりたい。
その為には九狼とワタルのツートップが必要だ。
ワタルは監督の部屋を見据えながら祈った。今安宅監督は部屋の中で他のコーチ陣と話し合い、試合の結果を元にレギュラーを決めているそうだ。
「やれる事はやった……結果も出した。
俺中心のチームで行くのか、はたまたこれまで通りフィジカル主義で行くのか……後は監督の選択を待とう……」
■
「安宅監督! CW吉城のトリッキーなプレーとそれを囮にした九狼シャドウストライカーのツートップで行くべきですよ。あの香熊と岩倉が対応しきれない攻撃力には可能性しか感じないですよ!」
監督の部屋では激論が繰り広げられている。
「イヤイヤ、だからといってインハイまでたった一ヶ月ですよ! 一年かけて香熊中心のフィジカルカウンターサッカーを作り上げて来たのに今更それを捨てて別の道に行くなんてあり得ないですよ!
それに今回の様なマグレプレーが何回も続くとは思えない。今まで通り、安定感のあるカウンターサッカーで行くべきです!」
監督の安宅直人38歳は悩んでいる。コーチ陣の意見が真っ二つに別れているからだ。どちらの言う事にも一理ある。しかし今一番引っ掛かっているのはプレー中に聞いた、ワタル君の一言である。
『俺は優勝以外興味が無い! もしお前の目標がベスト4入りとか言うつまらない物なら、俺が全部ブチ壊して優勝出来るチームに作り変えてやる!』
「私の目標がつまらない物……か」
ベスト4と言う目標は客観的な現実を見て決めたつもりではあるのだが、いつから優勝を目指す等と嘘でも言えなくなったのかと安宅は振り返る。
8年前、安宅はプロサッカー選手を引退し仙台育米の監督に就任した。しかしプロと言っても、スタメン定着に精一杯で、大した成績残せなかった。ゴール王争いにも絡めず、日本代表にも選ばれず引退してしまった事を未だに悔いている。
だからこの手で自分の無念を晴らし、日本を代表するサッカー選手を育てようと、未来ある若者に夢を託す為に監督の道を選んだのだ。
だが未だに結果は出ていない。全国優勝は出来ず、J1選手は一人も輩出出来ていない。そしていつしか託すべき夢を忘れ、守りに入っているとさっき気付かされた。
とりあえず県大会に優勝して、インターハイにさえ出ておけば、監督を解任され路頭に迷う事は無いからだろう。
そんな中、監督席から聞こえたワタル君の宣言に安宅は耳が痛くなった。
「優勝出来るチームか……」
いつからだろう? チームが勝ってもそんなに嬉しく感じずに、ホッと一安心するだけになったのは……
いつからだろう? チームが負けても涙が出る程悔しく感じずに、負けて当然だと思うようになったのは……
そしていつぶりだろう? たった一つのゴールに胸がこんなにもときめき、涙が出る程の感動を覚えたのは……
全く……本当に全部ブチ壊された気分だよ。今だにあの美しい芸術のようなオーバヘッドシュートが脳裏に焼きついて離れない。テレビで見るようなシュートを間近で見れて未だに興奮から冷める事が出来ない。
インターハイで優勝する難しさはよく理解出来ている。全国の壁の分厚さは知っている。残り一ヶ月でワタル君を中心とした急造チームを作っても、噛み合わずあっさり負けるかもしれない。
しかしそんな反面、優勝出来るならそんなチームを見せてくれと、インターハイでまたあの美しいシュートを見せてくれと心から渇望している自分に気付いた。
「「安宅監督!! どっちにしますか!?」」
■
「一同整列!
これよりインターハイのスターティングメンバー発表を行う!
1番 GK 高柳 蓮
2番 右CB 和泉 大和
3番 右SB 久保西 慎二
4番 左SB 香熊 信広
5番 左CB 岩倉 和樹
6番 左DMF 永見 智
7番 左SMF 田中 彼方
8番 右DMF 河北 浩一郎……」
ここまでは従来のチームとほとんど変わらない顔ぶれだ。さぁここからだ! ワタルと九狼の名前を呼んでくれ!
「そして……
9番 ST 九狼 瞬也
10番 CW 吉城 渡
11番 右SMF クリストファー・ゴンサレス
この11人を中心に優勝を目指して頑張るぞ!!」
「「「ハイ!!」」」




