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優勝出来るチーム

「吉城ハンパないってもう!

 後ろ向きのボールめっちゃトラップするもん! そんなんできひんやん普通、そんなんできる? 言っといてや、できるんやったら……」


 2回もゴールを奪われ項垂(うなだ)れたままの高柳は、悔しいそうにグローブで地面を殴った。


「オイ! 切替ろ、これ以上俺達のチームをアイツにめちゃくちゃにされてたまるか」


 そんな高柳の腕を引っ張りあげ、白組キャプテンの香熊は立たせた。


「仙台育米の主役は俺だ。お前には渡さないぞ、ワタル」


 ■


 九狼クロウ 瞬也シュンヤは焦っていた。正直昨日までは紅白戦によるレギュラー入りは半分諦めていた。でも強気なルームメイトに影響されて火がついてしまった。


 吉城と一緒にインターハイに出たい。そこでテレビに出て、派手なプレーをしてチヤホヤされたい。あわよくばヒーローインタビューに来た女子アナと連絡先を交換したい。

 そんな思いが試合が進むに連れて段々強くなっていったが、現実は厳しい。


「クソっ、早く点を取ってアピールせえへんとレギュラーに入れん……」


 後半35分、九狼の自慢の高速ドリブルはここまでことごとく仙台育米DF陣(ゴリラ軍団)に塞がれている。守備力を売りにしている仙台育米は伊達じゃない。


「上がれ、九狼」


 吉城は背中に香熊を背負いながらも、永見から足元に来た速いパスをノールックのまま右ヒールでダイレクトに左サイドにスルーで出して来た。


(だから普通空振(からぶ)るやろそれ……)


 この試合で吉城は何度もこんな難易度の高いプレーを成功させ、2点を上げた。もうレギュラーは確実だろう。

 ならばワシも多少()の悪い賭けをしてでも点をもぎ取るんや。

 この試合を最後にサッカーを辞めたら、死んでも死にきれん。


 強引で少し乱れたパスを、持ち前の技術でキレイに足元収めた九狼はスピードに乗りドリブルで左サイドを上がっていく。

 パスを受けてからのドリブルが速過ぎるせいで味方はまだ上がれていないが、敵もほとんど戻れていない。前には中央への道を塞いでる岩倉しかいない。


「今度こそワシがブチ抜いたる!」


 九狼は素早いシザース(跨ぎフェイント)で岩倉に迫り、体重が右足に乗ったのを確認してから左へとカットインして抜き去ろうとするが……


「残念だったな、豆チビ九狼!」

「ぐわぁっ!」


 岩倉は長い足でスライディングカットし、九狼はそれに(つまづ)きコケた。


 白組CBの岩倉はチームで一番身長が高くて191cmもある。同じ三年生だが164cmの九狼とは大人と子供のような体格差があので、失敗するのは仕方ないのかも知れない。


「速攻カウンターだ、岩倉!」

「了解だ、香熊!」


 ボールを奪った岩倉はすかさず香熊に大きな縦パスを出した。


 ■


「なに!?」


 ワタルは驚いた。香熊はさっきまでずっと隣に着いて回っていた筈だ。しかし九狼がパスを選択せずにカットインした瞬間、ワタルの側を離れて一早く上がって行った。


 九狼が失敗するのを最初から予想していたのか、あるいは岩倉の守備力を信頼しているのかは分からないが、どっちにしろ思い切った判断だとワタルは思った。

 ガイドラインはワタルの遥か頭上を走っているので、さっきのようにインターセプトは出来ない。


 香熊はチーム最速の足で前線に上がって行き、岩倉のロングボールをヘディングでバイタルエリアの田中に繋げる。田中はそれをワントラップしてからシュートするが、紅組キーパーが何とかジャンプして弾く。

 しかし弾いた先にポジションを取っていた香熊がダイレクトシュートを決め、2-2の同点に追いつかれた。


「ウォォラァァ!!! 見たかぁ! ワタルゥ!

 仙台育米の主役はお前じゃない! この俺様だぁぁ!」


 点を取った香熊はワタルに向かって力の限り吠える。


「香熊……!」


 コイツは使えるぞ! 仙台育米の攻守の要と言われるだけはある。

 鉄壁の防御力とマーク力だけでなくチャンスと見るや一目散に駆け上がるバイタリティ。後半35分の現在までずっとワタルのマークをしてかなり走り回って体力を消耗してる筈なのに、疲れを全く感じさせないダッシュとシュート。前線に上がった後も強力なフィジカルで攻撃参加する能力もある。


 インターハイ・デスゲームで優勝するにはコイツの守備力と攻撃力が必要だ。マワル君達に勝つ希望が見えてきた気がした。

 そんなキラキラとした目で香熊を見つめるワタルの前に、彼はズカズカと大股で歩いて来た。


「分かったか、ワタル! 俺は去年先輩達が引退して新チームになってからずっと仙台育米のキャプテンを任されて来たんだ。お前に主役の座は渡さん。

 インターハイで目標のベスト4に入るのにお前はいらないんだよぉ!」


 しかし、ワタルは最後の一言だけは受け入れる事が出来なかった。


「何言ってんだ香熊? ベスト4で良いわけないだろ!?

 優勝を目指さないでどうすんだよ!?」

「なん……だと!」


 そうだ、ベスト4じゃダメなんだ。優勝しなければワタルは【ラプラスの魔眼】を失ってしまう。


「俺は優勝以外興味が無い! もしお前の目標がベスト4入りとか言うつまらない物なら俺が全部ブチ壊して優勝出来るチームに作り変えてやるよ!!!」

「な、な、なに言ってるんだ……お、お前……優勝……?

 お、俺達なんかが優勝出来る訳……」


 香熊は急にしどろもどろになり、いつもの高飛車な彼とは想像もつかないくらい弱気な声で言う。


「出来るかどうかじゃない! やるんだよぉ!」


 ワタルはそう叫び、呆然と立ち尽くす香熊に背を向けてボールを拾いセンターサークルへと歩いて行く。


 俺はインターハイが終わった後も憧れを目指して頑張りたいんだ。和製ズラタン・イブラヒモビッチに成りたいんだ。そして夢のバロンドールを取るんだ。

 そのためにはインターハイ・デスゲームに優勝するしかない。


 そしてもう一つ、ワタル中心の新チームに足りない者に気づいた。


「さて、最後のピースをレギュラーに迎えに行くか……」


 ■


 香熊は自信に溢れた足取りでセンターサークルへと向かうワタルをただじっと見る事しか出来なかった。小さいはずの彼の背中が何故か異様に大きく見えてしまう。


 ワタル……何でよりにもよってお前がそんな自信に満ちた事を俺に言うんだ? そんなキラキラとした目で、希望に満ち目で俺を見ないでくれ……惨めな自分を、思い出したく無い過去を思い出してしまうんだ……


 俺達は共に【三本の矢】に自信も誇りも全てズタズタにされて古巣(ふるす)のジュニアユースを追放されたじゃないか。お前は俺と同じ屈辱を味わった筈なのに、どうして現実の壁を無視して、そんな事が言えるんだ?


 お前だけは挫折した俺の気持ちを理解していると思っていた。共に間近であの()()()()()の恐ろしさ体験した来たお前だけは……


トラウマを抱えて曇る人って美しいよね?

苦しみ、もがきながらもそのトラウマに立ち向かってなんとか前に進もうとする人はもっと美しいよね?


面白かったら感想と評価ブクマお願い致します。して頂けると作者も前に進めそうです

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