吉城 渡:オリジン
――ピッピーー!
そしてあれから何も出来ないまま、時間だけが過ぎ0-1のまま前半45分が終わった。
あれからこれと言った活躍はしてないが、これと言ったミスもしていない。
そんなプレーを心がけたおかげで、何とか点差は開かずにいる。だがこのままではジリ貧と言う事をワタルは理解していた。
「クソっ……今の俺にはスキルがあるのに……何故いつも思うように行ってくれないんだ……何故誰もパスをくれないんだ……」
香熊に封じられたまま、何も出来ず試合が終わればレギュラー落ち確定だろう。インターハイ・デスゲームが始まる前から終わってしまう。せっかく手に入れた【ラプラスの魔眼】を失ってしまう。そんなのは絶対に嫌だ。
その時、昨日夢の中で神様に言われた事を思い出した。
お主が無能でない限り……
(こんなチートスキルを貰っても、結局何も出来ない俺は無能なんじゃないのか?)
その呪いの言葉は壊れかけのラジオのように脳内で繰り返し反響し回った。
「ハッハッハ! イライラしてるな、ワタル」
そんな中、呆然と立ち尽くすワタルに真後ろにいる香熊が話しかけてきた。
「どうせ今日が最後だから、何故俺がお前の事が嫌いなのか教えてやるよ!
お前もいつも上手くいかない理由を何かのせいにしてるからだ!
中学時代は【三本の矢】のせいでろくな活躍が出来なくて、高校時代はチームがフィジカル主義になったせいで試合に出れない。
そう思っているだろう?」
香熊は乱暴に言うが、図星をつかれた気がしたワタルは無言になってしまう。
「今日だって本当はこんなキレイな背面トラップが出来るくらい上手いのに、俺のマークのせいで何も出来ない。そして頼りの味方もやりたい事に協力してくれない。
俺は何も悪くねぇ! 何もかも時代や環境が悪い!
そう思ってるだろォ!?」
香熊の言葉は痛い程胸に響いた。現に今だってままならない現状を【ラプラスの魔眼】のせいにしようとしていたし、パスをくれない味方達のせいにしようとしていた。
「そう言う悲劇のヒーローぶってる所が見てて腹立つんだよぉ!
お前が上手く行かないのは時代や環境のせいじゃない。全てお前が無能だからだぁ!!!」
――そうか、俺はやっぱり無能なのか……才能が無かったのか……
それならそれで諦めがつく。ここで夢を――憧れていたサッカー選手を目指すのは終わりだ……
――待て、憧れのサッカー選手?
昨日夢の中で自分の原点を思い出したはずだ!
俺は一体誰に憧れているんだ? こんな時彼ならどうした?
俺の憧れるズラタン・イブラヒモビッチはまさしく王様のような選手だ。どんな国のリーグに行っても、どんな名門クラブに入団しても、そのド派手なゴールで己の価値を示して結果を出し、チームを自分中心に作り変え、何度も優勝に導いて来た。
そんな彼を目指すために【ラプラスの魔眼】を選んだのだろう?
そんな彼に憧れたからサッカーを初めたのだろう?
あんなゴールを量産して見る人を釘付けにしたいと思ったから、チームを追放されてもなお、二軍に燻り続けてもなお現在までサッカーを続けているのだろう?
こんな場所で諦めてたまるかぁ!!
「俺様のチームに無能なお前の席はねぇ!!」
ずっと無言のワタルに追い打ちをかけるように香熊は続けるが、その言葉にワタルは引っかかった。
俺様のチーム? そういえばそうだった。
ワタルが仙台育米に入学した時は別にそれほどフィジカル主義では無かった。ちゃんと足元の上手い選手も活躍していた。
安宅監督が本格的にフィジカル主義に目覚めたのは香熊を始めとした身長と筋肉のある選手が台頭してきたからでもある。
悔しいがこのチームは攻守の要である香熊を中心に回っている。それは彼が有能だからだ。
ならば香熊がその実力で仙台育米を自分色のチームに染め上げたと同じように、俺の力でこのチームを俺色に染め直してやるんだ!
環境が悪いなら、全てブチ壊して俺に合う環境に作り変えれば良い!
時代が俺に合わないのなら、力を示して俺の時代を築き上げれば良い!
俺の憧れる彼はそれを世界レベルのクラブでやったぞ。【ラプラスの魔眼】を手に入れた俺がしないでどうする?
そうだとも!! 今の俺がすべき事はチームに合わせて無難に立ち回るプレーじゃない。チームを俺中心に振り回すプレーだ。
ワタルは確固たる決意を胸に香熊を睨んだ。
「香熊、お前の言う通りだ……
確かに俺は今まで全てを何かのせいにして来たかもしれない……」
「ほぅ? どうした? えらく素直だな」
自分のやるべき事が分かった。今なら自信をもってあの問にハッキリと答えられる。
「ただ一つだけ訂正しろ! 俺は……
俺は無能じゃねぇ!!
今からそれを証明してやるッ!!!!」




