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難攻不落

 ワタルは急いで振り返り自陣を見てみると、ゴールの中にボールが転がっていて、その手前で白組FWの田中がガッツポーズをして走り回っていた。


「忘れたのか、ワタル? 俺達の戦術は速攻カウンターだぜ。

 誰もお前一人でシュートに行くと思って無かったから、九狼達も一緒に上がったせいで中盤がガラ空きになったんだ。おかげで田中が楽に点を取れたんだぞ」


「今の点は俺のせいだと言いたいのか?」


「そうだ。結果だけ見れば今のは勝手にスタンドプレーに走ったお前がボールを奪われたせいで取られた点だ。

 そして俺は同じミスを犯さない。調子に乗ろうとするお前を試合が終わるまでピッタリとマンマークさせてもらう。

 悪いが今のが最初で最後のアピールチャンスだぜ、ワタル」



 ■


 それから20分ほど経つが、悔しい事にその後の展開は香熊の言う通りになった。


 香熊はワタルと体がくっつきそうなくらいの厳しいマンマークをして来た。マークを外そうと走り回っても、足の速い香熊がしつこく着いてきて、終わりの無い鬼ごっこをしている気分になった。


 そんな状況でも何とかチャンスを作ろうとワタルはパスを要求する。


「ヘイ九狼! パスくれ!」

「マンマークされてるのに? チッ、分かったで」


 九狼は悪態を付きながらもパスを出したが、コロコロと遅いパスが足元に転がって来ただけだった。


(クソっ、こんなパスを貰っても何も出来ない。個人技で脳筋ゴリラ(カクマ)をブチ抜けってか? イチかバチかでやってみるか?)


 ワタルはボールを足元に収めチラリと後ろを振り向くが、すかさず背後から香熊が迫り体を当ててきた。


「おっ? 仕掛けて来るか、ワタル?」


 背中を大木のような香熊の巨体に抑えつけられて前を向けないワタル。ここから仕掛けるどころか体制を維持するのも困難だ。


(チッ、俺には無理だ。ボールを奪われて、またカウンターされるのがオチだ。それが出来たらそもそもレギュラーだっつーの。それなら味方を使って抜くまでだ!)


 ワタルは速いパスで九狼に戻す。


「もっとエグいパスをくれよ! 九狼」

「コースも無いのに? ほんま吉城に無茶するで、しゃーないワシもイチかバチかやったる!」


 九狼はダイレクトで大きく蹴り上げ低い縦パスを出し、ワタルはそれに合わせてくるりと背後の香熊を躱してダッシュする。

 ワンツーパスからの素早い展開で上手く香熊のマークを振り切れたようだ。


 よし、流石パスの上手い九狼だ。ガイドラインを見るに落下地点に一番近いのはワタルだ。

 またさっきのように座標をセットして、今度こそジャンプで背面トラップをしようとした瞬間――


「なにっ! 魔眼の故障か!?」


 空を走るガイドラインが突然消えた。バウンドした後の予測もしてくれるのになぜ?

 急いで振り返るとそこには高くジャンプし、ヘディングで九狼のパスをインターセプトしてる香熊がいた。

 どうやらガイドラインは何かに触れると消えるらしい。


「残念だったな! 俺様の垂直飛びの記録は72cmだからこのくらい楽勝だぜ!

 言ったろ、ワタル。もうお前にチャンスは来ねーってな!」


 クソっ、フィジカルお化け香熊の守備はマジうぜーな! それはそうと、【ラプラスの魔眼】の能力について大分理解してきた。


 ① ボールを目で捉えると自動でその軌道を予測してくれる黄色い線――ガイドラインが表示される


 ② ガイドライン上でタッチしたいポイントを設定するとサッカーボールと同じ大きさの赤い点――座標とその座標までの時間と距離が表示される


 ③ ガイドライン及び座標は途中でボールが地面以外の何かに触れると消える


 大きく分けてこの3つだ。


「また速攻カウンターが来る! 速く戻れ!」


 紅組キーパーの叫び声で考察をしていたワタルは現実に引き戻された。

 香熊のヘディングパスを白組MFが受け前線へと流し、20秒足らずでFWの田中がシュートまで持っていく。


「ヤバい! 外してくれ田中!」


 また自分のミスで失点してしまうと思いワタルは焦ったが、幸いシュートはポストに当たり難を逃れホッとした。


「あぶねぇ……助かった……」



 ■


 その後の紅組全体は白組の速攻カウンターがトラウマになったのか、ワタルにほとんどパスを回さなくなり、九狼も無難なプレーしかしなくなった。チーム全体が攻めに行けない悪い雰囲気が出来つつある。


「おい皆! 今はビハインドだぞ! 点を取りにいかないでどうする!? ヘイパス!」


 何とかこの嫌な状況を打開しようと、ワタルはめげずに叫ぶが……


「無様だなぁワタル、いい加減気付けや。俺様がマークしてるお前にパスする奴なんかいねぇーて事によぉ!」


 背後にしつこく付いてくる香熊がニヤニヤと笑う。


 もし昨日【メッシの加護】か【韋駄天(イダテン)】を選んでいたら、こんな状況でもドリブルで香熊をブチ抜けただろう。【超人体質(ハイペリオン)】なら香熊を弾き飛ばして進めただろう。あるいは【不撓不屈(ふとうふくつ)】なら香熊のマークを振り切るまで走って体力勝負で勝てるかもしれない。


 しかし残念ながら【ラプラスの魔眼】にそんな力は無い。座標とガイドラインが見えるようになってもワタル自身の能力や技術が上がった訳ではないのだ。


 どうして【ラプラスの魔眼】なんか選んだのか。ワタルは憧れと言う訳の分からない理由だけで選んでしまった昨日の自分を殴りたくなった。

困難から立ち上がるところってよいよね?

だからちょっとくらい挫折させても良いよね?


ここまで読んで面白かったら是非ブクマと評価をお願い致します

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