紅白戦 開幕
ピー!!
甲高いホイッスルと共にワタル達の運命を賭けた紅白戦が始まった。
紅組CWのワタルは味方の左SHの九狼に小さなパスを出し、定位置の前線へと移動してチャンスを待った。ワタル達の紅組はまず後方でパスを回して攻撃の起点を作っている。
「おい、サンアローズの恥! 【三本の矢】の金魚の糞。
オメーは守備に参加してアピールしなくてもいいのか?
オレ様がマークしている以上こんな高い位置にいてもオメーの出番ねーぞ、ワタル」
そんな中後ろから白いビブスを着たサイドバックの香熊が俺にくっついてきた。事前に聞いていたけどやはり厄介だな。188cmの長身にチーム一番のフィジカルを持つ香熊にマークされると物凄いプレッシャーを感じる。
「問題ない。目に物を魅せてやるよ!」
「何ッ!?」
大丈夫だ。俺には昨日貰ったチートスキル【ラプラスの魔眼】がある。お前なんて怖くない。
その時中盤で九狼がボールを持ち、前線のワタルと目が合った。
(来た! チャンスだ)
九狼はワタルに目で合図すると大きく蹴り上げボールは空に舞い、ワタルは同時に香熊のマークを外して裏のスペースへと駆け抜けた。
そのボールの飛ぶ延長線上に軌道予測のように延びる黄色い線が現れた。ボールは黄色い線をなぞるように飛んでいく。
他の人が全く反応してないのを見るに、空を走る黄色い線――ガイドラインはワタルだけにしか見えてないようだ。
(スゲェ、これが【ラプラスの魔眼】の力ってやつか?)
突如としてサッカーゲームの世界に飛び込んだような不思議な気分になったが、浮かれてる暇はない。ガイドラインに沿って移動を続ける。
風の影響を受けてか途中でガイドラインが少し右にそれている事がボールを直接目で捉えてなくてもハッキリわかった。
「クソっ、待て、ワタル!」
おかげでだいぶ後ろに悪態を付きながら慌てて追いかけて来る香熊の姿がチラリと見えた。
ワタルは宙に舞うボールを一顧だにせず、ガイドラインの落下地点へとダッシュした。
(後ろの香熊を振り切るために、ボールの勢いを止めずにトラップしたい。だからタッチポイントは地面から30cmくらいにセットしようか)
心の中でそう思うと、ガイドラインの線上にサッカーボールと同じ大きさの赤い点が現れた。それと同時に視界の左端に黄色い半透明な文字が出てきた。
【前方:3.564m 右方:1.235m 高さ:0.293m 1.935秒】
これは俺がセットした座標までの距離か? そしてボールがその座標に到達するまでの時間か?
その証拠にワタルが点に近づくにつれ、前方と右方のm数は0に向かって減っていき、秒もカウントダウンしてく中、高さの0.293mは変わらない。
なるほど。頭の中でボールにタッチしたいポイントを決めると、それに至るまでの距離をミリ単位で、ボールが到着する時間を0.001秒単位まで正確に教えてくれるのか。こいつは凄い便利だ。
ワタルはカウントダウンが0秒になる瞬間に合わせて、右足首を赤い点――座標の真下に優しく置いた。刹那、上から勢い良く降ってきたボールは音を立てずにピタリと吸い付くようにワタルの足元に収まった。
「スゲェ! あんなキレイな背面トラップ、Jリーグでも滅多に見れねぇぞ」
「吉城そんな事も出来んのかよ! 超高難易度な技だぞあれ」
突然出たスーパープレーに敵味方構わず大きな歓声が響いた。
しかし実際に一番驚いていたのはワタル本人だった。
(初めてダッシュ背面トラップをした……ぶっつけ本番なのに出来た!)
今まではこんなロングパスが来たらヘディングでパスをするか、ゴールに背を向けて胸トラップするかしてポストプレーに徹していただろう。実際ワタルをマークする香熊もパスを出した九狼もポストプレーすると思っていたようだ。
その二択しか無かった選択肢が今【ラプラスの魔眼】によって無限に広がって行く。
(行ける!)
後1歩でペナルティエリア、他のDFはまだ間に合ってない。前にはキーパーだけ。絶好のチャンス、シュートだ。
「――させるかぁ! 遅いんだよノロマァ!」
ワタルがシュートを打とうとした瞬間、突然脇から手が入ってきてワタルを抑えつけた。大きく減速させられたワタルはシュートを空振りさせられた。
「なにっ! 香熊か!?」
そのまま横からチャージをくらい、ワタルは車にはねられたように飛ばされ地面に手をついた。
(痛ってぇなぁ! この脳筋ゴリラが……)
持ち主を失ったボールはそのままコロコロと流れていき、白組キーパーの高柳に大きく前線に弾きかえされた。
「なんでお前が二軍にいるのか忘れたのかワタル?
FWの癖に足は遅いし、ヒョロガリでキープ力がないからだぜ!
50m走6.9秒のお前が5.9秒の俺に足で敵うわけないだろ。たまたま上手くトラップ出来たからって調子に乗るんじゃねぇぞ」
倒れたワタルに手を差し伸べるが、見下しながら香熊は言った。
クソっ、この野郎あんなに後ろにいたのにもう追いついて来たのか。50m走チーム最速は伊達じゃない。
初めてのダッシュ背面トラップだから容量が分からず優しくトラップし過ぎた。そのせいで勢いを殺してしまったから追いつかれたのか。
反省せねば――次同じ状況が来たら座標を高さ80cmくらいにセットして、ジャンピングトラップでそのまま前に弾こう。そうすればスピードに乗ったまま行ける。
まだ試合は始まったばかりだ、チャンスはまだまだ来るはずだ。
「いや、今日は凄い調子が良いんだ。だから調子に乗らせてもらう!
次こそは点をとってやるよ!」
ワタルは香熊の手を取って立ち上がり、負けじと睨み返した。
「フン、おめでたい奴だぜ。まだお前に次があると思っているのか?」
ピーーー
――ゴール!
「何ッ!? いつの間に点を取られたのか!」
以降【ラプラスの魔眼】の能力によってワタルだけが見えるようになった軌道予測の黄色い線を『ガイドライン』。タッチすると決めた時に現れるガイドライン上のサッカーボール大の赤い点を『座標』と呼びます。




