表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/49

第8話【奴隷のゴブリン】

◇◇◇◇第八話【奴隷のゴブリン】◇◇◇◇


「おぉヴィクシア連合王国の方にお助けいただけるとはなんという幸運、このエドアルド・ハロなんとお礼申し上げればよいか……」


護衛の一番腕が立つと思われる方と、馬車隊の主らしき商人、あと老師の三人で今後のことも含めて話し合うようですわ。


ですがわたくしは……


「オオキイオトコワイ……

 オオキコエコワイ……

 ハラヘッタタスケテ、

 サムイタスケテ…」



燃えくすぶる馬車の火災を護衛の生き残りと商人の配下の方が、厚手の布で叩いたりして消火作業をしています。


そのうちの一台の馬車の燃え残った荷台、幌の中からから呟くような声がかすかに聞こえてきます。

気になりますわね……

わたくしが近づこうとすると生き残りの護衛の一人が立ちふさがります。


「おおっとここから先は行かないで欲しいなぁ。

 助けられた身で大層なことは言いたかないが、それでも目にしてほしくないことの一つや二つあるもんだ」


わたくしに手を伸ばしてきましたので、手首をつかんで外に回すようにするとストンと一回転しました。

体と一緒に目も回したのかバランスを崩された護衛はふらふらしています。


そうしている間に呟き声のする馬車の幌をつかむと力を込めて引きはがします。

そこには雑多な荷物と一緒に鉄の檻に入れられた小さなゴブリンが泣きはらした顔で格子にすがっていました。


「まぁ、なんてことでしょう」


老師がいつの間にかこちらに来て檻に入った小さなゴブリンを見つめます。


「ゴブリンとはいえどう見ても子供だな…

 おぉい商人、これは何だ?

 何で檻に入れてゴブリンを運んでいる。

 戦後条約で異人種の奴隷売買は違法になったんだがぁ、知らないとは言わないよなぁ?」


老師なんだかガラが悪い人みたいですわ……

眉間を揉みながらいかにも「しまった!」という顔をしながら護衛の隊長の方を眺め、彼が横に首を振って否定の意を示すとどもりながら弁明し始めます。


「こ、これはですね、何と言いますか我々の商品として古くからのなじみにどうしてもと頼まれたものでして、はい。

 いやもう、禁制の品ということは十分に承知なのですがやむにやまれず……

 はい、あの子供のゴブリンの肝がですね強壮にですね、なるというかなんというか、 なんといいますかそういうものでして。

 あの、どうかお目こぼしいただけないでしょうか…?」


「ほぅ……護衛の兄ちゃんらはさっきの様子だと積み荷にこれがあるって知っていたようだったなぁ?

 加担したぁでも厳罰は免れないぜ?

 ヲイ、どう始末付けたもんだと思うよ?」


やっぱり老師のガラが悪いですわ、でも様になってますのね。

無頼な生き方でもなさっておいでの時があったのでしょうか。


「いやもう俺たちは積み荷のことは他言無用詮索無用で契約受けちまったから、もうどうしようもないんでさぁ。

 俺の隊も半分かそこら殺られるし、護衛も次の宿場までだなぁ」


「あ、そんな隊長ひどいじゃないですか、ここまで来たら仲良くお縄につきましょうよ」


「誰がひどいだ、なにが仲良くだ。

 こっちは違法な(ブツ)の運びを知らずに巻き込まれたんだ、アンタが縛り首になろうと、俺の知ったことじゃあねぇよ」


「そんなぁ…」


膝から泣き崩れる商人を眺めつつ老師がこちらに向き直りました。


「ピピル、お前ならこの騒動どう始末をつける?

 コラード殿からはなかなかのセンスを見せる時があるって聞いているぞ。


わたくしがこの事態を収めるのですか!?

ム……難しい?

いいえ。

まぁ襲ってきた賊は全滅してますし。

そうですね。


「商人さん、エドアルド・ハロさまと申したかしら?

 私ピピルと申しますの、お見知りおきを。

 違法な運搬物も含めて馬車と荷物といろいろ合わせて、お幾らくらいになるのでしょうか」


「ハッ女騎士様とは存じ上げず失礼いたしました。

 馬車と積荷合わせて大金貨で三十枚ほどかと存じます」


女騎士様ねぇ……

まぁよろしいですわ。


「老師、左様見積もりますか?」


「そうだなぁちょっと割高かと思うが、燃えちまったものも含めるなら妥当なところじゃねぇか?」


「わかりましたわ、それでは商人エドアルドさま、ここにあるあなたの荷物、全部、全部ですわ。

 大金貨三十枚でこのピピルが買い取りますわ、あなたが言い出したあなたも(・・・・)含めた値段です。

 文句はございませんね」


なっ!声を出しそうになる商人はとっさに老師が突き付けた杖で喉を抑えられ、全身が硬直してしまっているようでした。


護衛の隊長さんも老師の視線で抑えられ、わたくしたちの馬車の屋根の上からエーリュシエルが矢をつがえた弓で小さな動きも漏らさぬように目を光らせています。


「親方、お手数おかけいたしますが、証書を一枚作っていただけますか。

 文面はこうです。

 一つ、商人エドアルドは馬車三台分のすべての物品を大金貨三十枚で売り渡す。

 なおこれにはエドアルド自身及び護衛の生き残りすべて、えー何人ですか隊長さん」


老師に睨まれながらそっと四本の指を上げる隊長さんを見て、続けます。


「ごほん、護衛の生き残り四人を含むものとする。」


「一つ、商人エドアルドはピピルの所有物となるが、次の宿場町は。えーとエドアルドさん?」


「ベマヌ、次の宿場町はベマヌといいますよぅ……旦那ぁ……」


老師の視界は広い、何も見ていないようで何もかも見通しているような眼をなさる時がある。

商人は世のすべてをあきらめてしまったかのようにうなだれている。


「続けます、宿場町ベマヌで自らの所持金で自らを含めた財産を買い取れるものとする」


「以上ですわ」


「え?つまりどういうことです?」


最後の一言をわたくしが告げると希望に満ちた顔でエドアルドさんがこちらににじり寄ってくる。


「これはゲーム、ゲームですのよエドアルドさん。

 あなたが今現金をどれだけ所持しているかはわたくし存じません。

 もちろん一番にはご自分をお買い上げいただくと思いますが、あんまり高値を付けてしまうと他の荷物が買い戻せなくなりますわねぇ?

 まぁ荷物だけ買い戻せてもご自分が奴隷鉱山行きになっても仕方ないですしねぇ」


「さて所持金は大金貨三十枚、足すことのできる手持ちの財産はどのくらいあるのかしら?

 ご自分とお仲間、積み荷をすべて取り戻すことができるかしら?

 すべてを見捨てて逃げ出してもよろしいですが、そのあとがどうなるか楽しみですわねぇ」


「ただし、ただしですよ。

 このゴブリンの子供は賭け物にすることかないません。

 わたくしがエドアルドさんへの援軍の謝礼としていただきます」


「老師、こういった駆け引きわたくしは得意ではございませんの、精々ふんだくっておやりなさいませ」


わたくしをどうからめとってやろうか商売人の顔をしてぶつぶつと荷物の目録を思い出しているエドアルドさんが、老師が胴元だと知って、


「のぉぉぉぉぉぉ!」


と叫んで両手を地面につけて嘆いおります。

あら、交渉の実力は分かるのですね有能ですこと。

まぁ少々頭が回る方だから、こっそり禁制品を商おうなどと考えるのでしょう。



「りょーかい、上等だよ、賭け事なんて久しぶりだ。

 いいねいいね、楽しみだ」


ニヤニヤ笑いの老師は油断ない博徒の顔つきになりました。

一層ガラが悪いですわ。

本当に底知れないお方。


「姫さん書類が出来たぜ、ドワーフの署名つきの一品だ。

 この約定違えたらえらい目見るぜ商人さん」


観念したのか、わたくしの後で証書に署名したエドアルドさんは


「わかっています、しかしリザードマンにエルフにドワーフ、どんな一行ですかこれは」


こうわたくしたちについて尋ねます。


え、ただの学園入学者とおつきのものですが何か?


さて商人さんの散らばった荷物を集めたり、集めた物品を馬車に積み直して荷馬車三台増えた隊列を整えました。

それから可能な限り死体の処理をしたりと出発の準備を始めました。


わたくしはエドアルドから取り上げた鍵で檻を開けると小さなゴブリンに話しかけます。


「こんにちは、ゴブリンさん、私はピピル。

 あなたのお名前はなんていうのかしら」


「アダ、アダ、名前ナイ、ゴメンサイ。

 アダ、マタ、ブタレル?」

「あらまぁ殴ったりなんかしないわ。

 そう、名前がないのね、ではわたくしが名付けてもよろしくて?」


「アーダダレ?アタラシ、ゴスジン?」

「そうよ、わたくしがあなたの新しいご主人様よ。

 あなたは何かできることはあるのかしら?

 それを聞いてからお名前つけるわね」


「アタラシ、ゴスジン、名前クレル、ウレシイ

 アダ、手先チョット器用。

 チャントメシクエバ足モ速イ。

 アダ、背ガ低イ。

 ゴスジン、背ガ高イ。

 アダ、ゴスジンノ足マモル!ギィ!

 アダノ敵、足ブタタク、ギィ!」


アダ、というのは自分のことを指しているようですわね。


「そうすごいのね、いっぱいできることがあるのね。

 それならば名前を付けましょう。

 あなたの名前は『ヴェルガ』よ。

 以後胸を張って名乗りなさい」


「あなたはわたくし付きと命じられていない私だけの家来よ。

 その一番目。

 誇ってよくてよ。」


キョトンとした目を見開いて、一瞬後には喜びのあまり舞うように手を叩き、


「ギィ!、ゴスジン名前クレタ。

 ヴェルガ、アダ、ヴェルガ!

 ゴスジン イチノ家来!

 ギィ!」


こうしてわたくしは、生涯わたくしに忠実な部下を得たのですわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ