第7話【襲撃の賊徒】
◇◇◇◇第七話【襲撃の賊徒】◇◇◇◇
宿場町で宿をとりつつ進み、ヴィクシア連合王国の勢力圏を抜けるとだんだんと人間族の比率が上がってきます。
そんな中エルフとドワーフが同行し、御者台にはリザードマンが乗る六頭立ての馬車は大変に目立ちます。
まぁ目立つ分賊に狙われることもないのか、ここまで順調に旅を進めています。
学園で生徒は制服を着なくてはならないのですが、各国の風習に合わせた変形制服を学園から許可されれば着用しても良いようです。
なのでわたくしはサーコートを制服仕様にして、姫鎧の上に着用することにしています。
今は親方とエーリュシエルが共同で仕立てたサーコートの具合を確かめている最中です。
しかし旅にはトラブルが付き物でしょうか。
老師が御者台からキャビンのわたくしたちにに向けて警告を発します。
「ちょっと先で何かが燃えているにおいがする。
どうする?」
「あらぁ、ここまで無事でしたがついに来ましたか」
そう言うとエーリュシエルが厚手の手袋をはめ弓の弦の具合を確かめております。
熟練の狩人でもある彼女は走っている最中の馬車のキャビンの扉から外へスルリと抜けると、見事な体さばきで屋根の上に上がります。
「確かににおいますね、どうなさいますか姫様」
老師が大きな声を上げます。
「俺と姫さんは先行して現場確認、エーリュシエルはそこで監視、親方は俺と代わって御者台へ!」
「え~、姫様が前に出るのですか!?」
エーリュシエルは驚き、
「老師も一緒ならば大丈夫だろ。
まぁ姫さんはこれ一応かぶっていくといいぜ」
と、親方から渡されたのは顔をすっぽり覆う兜。
「わかりましたわ、親方。
これで存分に戦えますの」
これでわたくしの準備は終了。
「老師準備は?」
「いつでもいけるぜ、俺は本気で走ったら馬より早く行けるからな」
そう聞いてわたくしは窓からダブーに声を掛けます。
「ダブー、わたくしを運んでくださいますか?」
ぷぎっ、と声を上げるダブーに馬車から飛び移ります。
ダブー用の兜も今度作ってもらえるよう親方に頼んでみましょう。
手綱を取り、鐙に足を通して騎乗完了です。
「では老師参りましょう」
「おう、行こうか」
馬車の手綱を親方に渡すと、老師は馬車から飛び降りると前傾してつま先で走り始めました。
遅れてはなりません、わたくしたちも参りましょう。
「エーリュシエル、親方、馬車を頼みます!
何かあったら鏑矢を撃ってください!」
「任せておけ」
「姫様もお気をつけて」
「ハッ!」
声をかけるとダブーも勢いよく走りだし
老師を追いかけます。腿で鞍を締め付けるように乗りながら、ダブーを駆けさせ老師に付いてきます。
「すごい、本当に馬より早い」
まあわたくしの騎獣は馬ではないですが。
感嘆する速さで街道を風上に向かいながら走ると、そこでは三両の商人仕立ての馬車が襲われている真っ最中でした。
商人側は護衛も戦っていますが旗色が悪く、今助けに入らないと負けてしまいそうです。
一番腕の立つのは護衛側の人のようですが、だんだん人数差が付き始めています。
「ピピル、どうする?
街道の強盗襲撃はよくあることだから、やり過ごすことはできるだろうが?」
わたくしが追いついた時、老師が尋ねられました。
「いえ、助けに入ります。
襲われているのは商人のようですし、他国とはいえ貴族は街道の守護者でなくてはいけない、とコラードから教わっておりますし」
「ほう……」
「街道の安全が確保されないとその先の町や村に必要なものが行きわたらなくて生き物でいう病気のようになるとか」
「なるほどな、よく勉強しているな、えらいぞピピル。
まぁ今回は人間同士の争いだ、はっきり味方しなきゃならないのは商人の方だな」
「では参りましょう」
突撃です!
走るダブーを賊にぶつけてやると二人ほどまとまって吹っとばされます。
「なんだァ、こいつらァ」
「豚とトカゲの応援?なにどうなっているの?」
賊も商人も、双方戸惑っているうちに粗方倒してしまいましょう。
ダブーから降りるとそこにはあれこれと賊方に指示を出している頭目らしい男を見つけました。
ボーンイーターを抜き放ち一撃を加えます。
カイィィン!
賊にしては良い剣を使っていらっしゃいますわね。
まぁ元は良い剣だったのでしょうが、手入がなっていませんわ。
これは老師から授かった技の実戦訓練の機会ですわね。
技の名は『弾き』といいます。
この技を教わったとき老師はおっしゃいました。
「ピピル、物が壊れるということはな、壊れる場所に壊せるものを壊せる力でぶつけるということだ。
そうすれば木の棒でも鉄の剣を折ることだってできるだろう。
これが『弾き』の基本的な考え方。
俺の流派の一つ目にして最高の奥義になりえる技だ」
修練を続ければ遥かな無双の境地へ行きつく一歩と信じましょう。
「なんだァ、この豚野郎ァ」
大上段に振りかぶった剣をまっすぐわたくしの頭に打ち落としてくる賊の頭目。
腕はそれなりに立つか……
「な、言っただろう?腕の立つ奴の方が『弾き』が決めやすいって」
老師の言葉を思い出しながら
切りかかってくる賊の剣に打ち合わせるようにしてボーンイーターには最小のダメージで相手の剣には最大のダメージを!
パキィィーン!
狙ったのは手入れが行き届いていないとはいえ鋼の剣の根元にあるひときわ大きな刃こぼれ。
そこに狙った通りの力で差し込んでいくと、ボーンイーターと打ち合わせた薄汚れた盗賊の剣は信じられないほど澄んだ音を立てて柄を残して剣身を砕かせ、くるくると回って地面に刺さりました。
やりました、老師!
老師の方を見ましたら確かに老師は微笑んでいるように見えました。
が、それも一瞬のこと、油断を戒める顔をなさいました。
「野郎ァ!!」
腰から探検を取り出し襲い掛かってくる頭目の剣をボーンイーターで払いぬけざま、のどにボーンイーターの丸まった先を突き込むと、ゴキュリと何とも言えない感触で首の骨を砕かれて頭目は倒れました。
「そうか、わたくしがこの方を殺したのですね……」
感慨はそれのみ。
今は命のやり取りの時間、隙を見せれば何があるかわかりません。
次々襲い掛かってくる賊どもを相手します。
馬車が到着し、エーリュシエルが援護を始めるころには、老師とわたくしの二人で半数は討ち取ったでしょうか、戦いに背を向け賊が逃げ出そうとします。
しかしエーリュシエルの弓に次々と射抜かれ、一人残らず屍を野にさらす羽目となりました。