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第5話【剣の稽古② 】

◇◇◇◇第五話 【剣の稽古② 】◇◇◇◇


「わかった、では稽古の場所はここ、北の塔だ。

 俺がお前の稽古を見てやる」

 

わたくしは正直、老師に笑われることも覚悟しておりました。

数えで十一の子供が『古今無双』を誓ったのですよ?


しかし、老師はいつものひょうひょうとした雰囲気を消し、どこまでもまじめにわたくしの誓いを聞いて道を示そうとしてくださいました。

ところであの時両目が金色になったような……?

気のせいかしら、気のせいよね。


「練習用の木剣は?

 持って来てあるな」


わたくしが稽古のために持ってきた木剣を見つつ老師は


「だがそれではこれからの稽古に耐えられん。

 ボーンイーターを稽古で使いつぶすわけにもいくまい。

 今日は仕方ないが、親方に頼んであつらえてもらえおう。

 まずそっちから片付けようか」


と、おっしゃいました。


見たこともない雰囲気の老師と階段を降り、屋敷の敷地を歩き、ジェイコ親方の工房に到着しました。


開け放たれた扉をくぐり、老師が工房の様子を伺います。

ビアード(ヒゲ)ドワーフのジェイコ親方はお弟子さんの指導をしている最中でした。

お話が一区切りついたのか、こちらに気が付くともじゃもじゃのお髭をしごきながら手を軽く上げてこちらに来ます。

あのお髭、こんなに火の気が多い場所で引火したりはしないのかしら?


「なんだぁ、姫さんに老師じゃあねぇか!

 久しぶりに一杯やろうって顔じゃないなぁ!

 何か困りごとかい!?」


わたくしが老師の顔をうかがうと少しうなずき老師が答えます。


「いやぁ姫様に剣を教えることになってな、それ用の練習道具を作って貰いたいんだよ」


「なるほどなるほど、で!?何をこしらえればいいんだ!?」


いつも賑やかな工房にいるせいかジェイコ親方のお声は大きく、老師もそれに合わせて大きな声でやり取りしています。

ちなみに老師は他人のいるところではお兄様とわたくしたちに対して俺お前でお話しません。


「基本は鉄環をはめた木剣なんだがな、ちょっと工夫をしてもらいたいところがあるんだ。

 まずだな……」


技術的な細かいことを説明されながら老師と親方が相談を詰めていきます。

わたくしは技術関係ではあまり知識もございませんから相談はお二人にお任せしております、はい。


「おう分かった!じゃあなるべく早く仕上げないとだな、五日くれるか?」


「期日は親方を信頼してるさ。

 で、これは頼みなんだが、今日から稽古を始めるにあたって何か代わりになるようなものはあるかい?」


「あぁ、一回試しで鍛えた鉄棒がある、お前さんからもらった助言で硬い鉄と柔らかい鉄を重ねて打った鉄棒なんだがちょっと重くなりすぎでな、こいつを持って行っていいぜ!」

「あと話の限り姫さんの体のつくりを確認してぇ。

 悪ぃがあちこち寸法取らせてもらうぜ」


といろいろな場所の寸法を測っていただきました。

これでできる私のために作られた道具、楽しみですわ。


代わりとはいえこれで練習道具は手に入りました。

それでは早速鍛錬いたしましょう。


わたくしが北の塔までの道すがらその鉄の棒を持って歩いていました。

これはなかなかの重さです、ひょっとしてこれを振り回して稽古するのでしょうか?

持ち上げるのも苦労しそうな代物なのですが。

しかし、わたくしは『古今無双』を誓った身なれば、老師の教えの通り精進いたしましょう。



塔に戻ってくると老師が


「さて、俺がピピルに剣を教えるにあたっての注意事項がいくつかあるから聞いてくれ」

「まず、稽古で負った傷はなるべく薬を使って治すように。

 回復魔法は便利なものだが、それに頼り切って、すがってしまえば痛みに弱い戦士となる。

 戦う相手は目の前の敵だけじゃない、どんなに不利になっても最後に立っていれば勝ちだ。

 だから鍛えろ。

 どんな状態でも勝てるのが古今無双の第一歩だ」


「痛みに耐えて戦えるように、さらには自らの治癒力を鍛えるためにも、たとえ骨折したとしても何日かは回復魔法抜きで耐えてもらうぞ」


恐ろしいことを老師はおっしゃいます。

体を鍛えるのは大変ですわ。


「では実践に入ろう、稽古用の本格的な道具は親方の仕上がり待ちなので、しばらく代用品の鉄の棒で稽古だ。

 まぁ、やることは変らん、まずは基本のなかで出来ることをしよう」


「最初の段階は武器を持ち続けることができるかどうか。

 これはどのくらいの長さ戦えるか、それを決める戦いの最重要素だ」


「というわけで、この塔の中でできる訓練として壁に道具を押し付けて石を切ってもらう。

 まぁ最初は無理だろうがな。

 いつかできるつもりで励んでくれ。

 基礎の間は押し付けたら渾身の力で上から下までこするように動かしてみよう。

 いろいろな角度から切りつけるように道具を動かして欲しい」


「まずは朝と昼、夕食の前の稽古でやることは。

 縦の切り付けとして上から下へ、そして下から上に。

 横の切り付けとして、左から右、左から右。

 斜めの切り付けとして、右上から左下に、そして逆に左下から右上に。

 もちろん左上から右下に、右下から左上の二回もやってもらう。


合わせて八回ですわね、壁に向かって押し込むのは。


「寝る前の稽古はどのように身につけられているか確認のため俺と立ち合ってもらう」


「稽古ではあっても怪我をする立ち合いだ。

 繰り返すが傷は魔法に頼らず薬と自力で治すように」


「じゃあ手本を見せようか。

 道具を貸してくれるかい」


わたくしがお渡しした鉄の棒を、老師は手に道具をなじませるように具合を確かめると壁に向かい、八つの形を壁に刻みました。


すごくゆっくりと動きながら壁に刻み付けられた斬線はくっきりと塔の石壁に刻まれています。

なぜ鉄の棒でこするように動かしただけで石の壁に掘ったような溝が付くのでしょう。

それに上からと下からを二回同じ軌跡にしか見えないようにするというのはどういうことなのでしょう。


「今、初伝としてはかなり早く刻んでみた。

 ピピル、自分やるときはもっとゆっくりと動かしてみるといい」


「この鍛錬法は遅ければ遅いほど効果が高くなる。

 最終的には一振りで一晩かけるほどの遅さをもって完成って訳だ。

 つまり一晩ずっと戦えるってことだな」


「じゃあこの手本を頭に浮かべながら、俺よりもゆっくりと壁にこいつで跡をつけてみようか」


道具を返してもらいわたくしも先ほど老師が示した見本を思い、壁に道具をこすりつけます。

振り上げた鉄の棒は重く、振り上げたわたくしの力ではそのまま後ろに倒れるかと思いました。

それでも何とか振り下ろします、なるべくゆっくりと、そしてまっすぐに。

自分なりにに気を付けながらこすりつけると老師に


「終わりましたわ」


と声をかけました。

老師は


「近くではわかりにくいな。

 ちょっと離れようか。

 どうかな、俺の振り方と姫の違いはあるのか。

 違いがあるとすればどんな違いなのか、感じたことを言ってごらん」


わたくしがこすりつけたところはただこすっただけ、対して老師の手本と違うところはどこか……


「わたくしの方はゆっくりとこすったはずなのに老師の刻んだ跡のようにまっすぐな線になっておりませんわ……

 それに老師のような溝が彫り込まれていない……

 つまり浅い……

 そして当然棒が通った後が全く重なっていない……」


「なぜそのような結果になったのかわかるかい?」


わたくしは考えながら答えます。


「道具の重さにわたくしの力が負けてしまっていること。

 そして石壁の凹凸にも負けて、付けた線が曲がってしまったのでしょうか……」


「そうだ、よく感じたな。

 初めての道具に振り回されてうまくいかなかった。

 ではどうしようか?」


「うーん、素早く、軽く振るでしょうか」


「なるほど、普通の流派だとそうなんだ、だから正解の一つではある。

 ただ俺がお前さんに教える剣術、無斬流は道具の重さに慣れるように、重いことを念頭に置いて動きを調整する。

 これはそのための稽古だ」


「わかりましたわ。

 これができなければ次に進めないのですわね」


「ああ、励むといい、ピピルならばいけると思うぞ」


「あと最後に、五日以上連続で剣の稽古をしないこと。

 これは必ずだ。

 稽古をしない休みの日を作れ。

 休みなく毎日稽古をしても腕は上がらんぞ」


「ちょうどこの塔の階段は五段ごとに明かりがともせる。

 他の日に休みを取っていなければ、明かりのついた段に到達したら休み、としたら良いと思うぞ」


「無心に剣を振るばかりじゃなく、自分がどうすれば上達するのか、考えたりする時間も必要ってことだ」



こうして剣の稽古の目途は立ちました。


わたくしは老師の教え通りだんだんと塔を登っていきました。


どうやら本当に学園に旅立つ前に塔の最上段にはたどり着けそうです。


老師は最上段に到着したら私に合った技を一つ教えてくださるそうです。

楽しみですわ。

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