((7))
大変申し訳ございません。内容の構想を全く練っておらず、これからは完全に不定期の更新となります。重ね重ねお詫び申し上げます。
開けた道を車が進む。
その開けた道は、全く舗装などされてはおらず時折大きめの石等々により、只の乗用車ではさぞかし揺れることだろう。
だが、その道を行くのは只の車ではない、砂利道など関係ないオフロードタイヤの装甲車だ。
そんな高性能な車の車内では三人の野郎共による会話が繰り広げられていた……
「はぁ――――ん、そんなやばそうな怪物は聞いたこと無いけどなぁ……?」
「そうですか……」
もう、10か月近くこのゲームのようなものに巻き込まれているタカヒデにも、あの黒く見えた巨大な怪物は全く知らないらしい。そうなってくると自分と同じく新しくこの世界に現れた存在なのか?
「まぁそれがガチなら、真面目に警戒しなくちゃならねぇだろうが……おっとっと、そういう話はあの子と一緒に聞くんだったな」
「あの子?」
「おうよ、カワイイ子だぞ? あの子の前じゃぁ嘘なんてとてもじゃないがつけねぇからなーっハハハ!!」
……そんなに可愛いのだろうか。
「嘘はつけないって事は間違いないよ」
「ほう」
「ああ、あの目に睨みつけられると、ひとたまりもないからな、気をつけろよ」
「はぁ……」
その子と知り合いらしい二人の話を聞くも、頭の中でイマイチ人物像が想像しにくい。実際会ってみないと分からないことだろう。
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その会話の後から4、5分ほどたった頃だろうか、タカヒデが何やら反応した後、こちらに向けて、『面白い事が始まる』、と前方を見るように促される。その声で半分寝ていたテルアキが意識を取り戻す。
タカヒデに促されるがままに前方を確認すると……ただただ、巨大な門が見える。
門は石で出来ており、如何にも古風という感じだ。今の自分には特にこれといった驚きも感動も無いのだが……
「ああ、これは確か……」
「さぁ、来るぞ!!」
「――――!?」
一方は何かを思い出しながら、もう一方は何やら嬉しそうな表情で構えている。……残り一人は突如耳鳴りに襲われて不快そうな表情をしていたが。
そして、二人の知る物、いや、光景は門を通り抜けた途端に姿を現す。
「おお!! これは凄いですね、タカヒデさん!!」
「だろう? 何でここにあるのかは意味が分からんのだが……まぁそんなことはどうでもいいな!!」
「ですよね……」
先程の門をみた時とは真逆の感想が出る。今はそう、驚きも感動もあるのだ。
心が動かされる窓から見た光景、そこには――――
「海か……!!」
果てしない海が太陽に美しく彩られている様子が広がっていた。海は左側に広がっている。また、左に車両はないのでその景色を邪魔されることなく一望できる。
今、車両は巨大な橋の上を走行している。その橋は今までいた街のように、どこかいい意味での古さを感じさせるものではない。現代の橋らしいデザインをしているのだ。
ただ、自分の知る元居た世界の新しい橋とは明確に異なる点がある。
「でけぇ……」
「ああ、てっぺんまでよ、全然見えねぇよな」
規模だ、規模が違いすぎる。
所々に立っている柱の高さが尋常ではない。今日本当なら、テルアキを誘って調べてみようとしていた、A23-42地点の巨大な建造物と真っ向勝負できるほどの高さなのだ。横幅もまた相当な広さであり、
8車線分以上はあると見た。
それに加えて、自分たちの他にも何台か車両が幾つか走行している。それと、2車線分ぐらいの間を開けて右隣を走っている白い車両の後部座席に座っている子供だろうか。表情は良く分からないが、窓に手を当てこちらを見ているような気がする。
当然のことだろう。周りの車両はどれも普通車ばかりだ。タカヒデさんのこの車は特に目立つことだろう。ただ、それよりも一つ気掛かりなことがある……
「……この橋って渡るまでにどれくらい時間がかかります?」
連絡橋であるのは確かだろう。だが、橋の渡し先が少なくともセイゴの視界には捉えることが出来ない。この先の見えない一本道を渡り切るのに一体どれほどの時間を要するというのだろうか。
「フッ……、このモンスターブリッジを渡り切るってなると結構な時間がいるんじゃねぇか? まぁ、渡り切った事がねぇから何とも言えないけどな!!」
「え?」
話を聞く限り、彼らは何度かこの橋を経験しているはずだ。にもかかわらず、かかった時間が分からないどころか、渡った経験が無さそうにも聞こえてしまう。
「ま、まぁセイゴ君。とりあえず前方の模様が少し違った柱を見てよ」
「ん? ああ、あの縞模様の……」
かなり遠いが縞模様が入った柱が2本平行に立てられているようだ。元の世界でも別に珍しいとは言えないとは思うのだが……
「おう、アレがこの橋の終わりって訳だ。今の間に景色を楽しんでおけよ」
「終わり?」
「うん、あの柱の辺りで元の平原に戻されちゃうんだ」
「ああ、だから渡り切った事が無いってことですか」
「そういうわけだ。しかしまぁ…毎度毎度、他の車が無いねぇ。せっかくのいい景色だってのに……もっと人ぐらい、居てもいいだろ!?」
「こんな世界ですしね、そういうことあるんじゃないんですか?」
「?」
二人は何を言っている? 先程から多くも少なくもない数の車両と一緒に走行しているはずだ。
さっきも、右に白い車が……ある、ようだ。それも全く同じ距離間で。
『……』
それと、先ほどこちらを見ていた後部座席の人物は……こちらをじっくり眺めている。やはり表情は伺えない。まさか、こちらを延々と眺めているのか?
『『『……』』』
いや、それだけではない、セイゴらの周りの車両は全て、最初に確認した時の距離感を保ち続けている。その上、揃いに揃って後部座席の人物が皆こちらを眺めているのだ。――――周囲の車両、今気が付いたが、これ、全部同じ車種なんじゃ……
「――」
「おいおい、どうした? とぼけた顔してよ?」
「なにかあったかい?」
嫌な予感を感じ、次第に青い顔をし始めたセイゴに二人は疑問を抱いている。そう、二人にはこの景色が見えていない。見えているのは……彼、只一人のようだ。
――――そんな彼を意に介さず後部座席の人物たちがやがて、活動をし始める。
『『『KYO……KYOMMMMM』』』
初めて声らしい声が聞こえてきたと思いきや突如風船のような膨張を始め、窓を割りながら、車外に胴体が乗り出す。
その奇行は、一つの車両のみならず全ての車両で起こり始める。――――そして散々確認できなかったその表情が露になる。
『KYOM……KYOM……』
「なんだ……それはよ……」
無茶苦茶だった。
各、顔のパーツの配置、大きさはまるで幼い子供の落書きだ。ただ、子供の落書きのように可愛げがあるわけではない。顔には金属片のようなものが所々突き刺さっているのにも関わらず……笑顔だ。こちらと顔を合わせられて歓喜の表情を皆揃って、浮かべている。
その歪さが、不気味さが、全身に駆け巡るほどの不快感を与える。そんな感覚に思わず、表情が歪んでしまう。
『K……KYOM……』
……そんな彼の反応をみてさらに喜んだのだろうか。
車内から人型を辛うじて保っている、その歪な顔、体を車内から完全に出し、車の上に次々と鎮座する。こちらに笑顔を浮かべながら。
『TYA……TYA……TYAAAA!!』
『……TYA?』
『……KYOM、KYOM……』
「――――」
子供が友達を遊びに誘うかのように手を招き始める。
無論答えない、反応などしない。したくない。
勝手にお前たちで遊んでいればいい。
それよりも、早く、早く、伝えなければこの異常事態を……!!
「タカヒデさん!! 周囲に……」
「おう、分からんが分かってる。 さっきから俺のセンサーがヤバイ雰囲気を感じ取ってんだ」
先程までの気楽そうな表情は既に消え、真剣さを帯び一種の気迫を感じさせる表情に切り替わっていた。その変貌っぷりには頼もしさを感じさせてくれる。
「テルアキ、準備しとけ。可能性があるなら懸けるべきだ」
「……分かりました…!!」
テルアキに話を伝えたタカヒデは次にこちらに話しかけてくる。
「セイゴ、何が見えた?」
「周囲に車両とその上に気味の悪い化け物がいました……!?」
再度、周囲を確認すると車の上、ルーフに乗っていた化け物共がブクブクと膨らみ、胴体が伸びる。
そして、こちらに手を伸ばしながら迫り始めた……!!
奴らが何をしようとしているのか、そんなことを考えている暇など無い!!
『KYOM……KYOM……』
「おい、どうしt「車を飛ばしてください!! 前方には居ません!!」……信じるぞ、どっかに掴まっとけ!!」
「「はい!!」」
タカヒデがアクセルを踏み込むそれと同時にエンジンの音が大きくなる。そして車両が急加速し、周囲の奴らから距離を取ることに成功する。
「……ッ!!」
「グウッ……!!」
後部座席の二人は各々、掴みやすい箇所に掴まる。初めての急加速だが、想像以上に負荷が掛かる。
それでも、見ておかなければならない、奴らの動向を。
『……KYOM、KYOM、KYOBOOOOOO!!』
急加速しなければ、居たであろう地点には既に奴らが次々に辿り着いていた。
皆、体を互いに寄せ合っており、相も変わらず笑顔でこちらを見ている。
そして、その内の一体が、こちらに車に頼らず自身による四足歩行で追いかけ始めた。体の構造からは考えられないほどのスピードが出ている!!
『TYAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!』
「一体こちらに来てます。 狙い撃ちにします」
「狙い撃ち? ああ、それがあったんだったな……よし、使っちまえ!! テルアキイ!! 支えてやれ!! あと、ダメそうなら直ぐに俺に伝えろ!!」
「りょ、了解しましたあ!!」
テルアキに自身の胴体を支えて貰い、実戦使用初のトリモチを窓から身を乗り出して放つ。
放った玉は、左足に命中し、大きく失速させることに成功した。さらに、体に粘着物質が絡まり、とうとう動けず仕舞いとなる。
「よし!!」
「そこに居やがったのか……」
バックミラーで粘着物質が空中に浮いている様から、タカヒデも奴らの存在を認知する。
動けなくなった化け物は、道路を転がり集まっていた仲間と衝突する。
『KYOMOOO‼』
『KYOBABABABA!!!』
「……」
歪な形が混ざり合い、その光景は見るに堪えない。
が幸いにも奴らとの距離もさらに取る事が出来た。このまま突き放せる事だろう。そして、もうすぐ柱の位置に到達できる。そうすれば、奴らから逃れる事ができるはずだ……多分なのだが。
「ほう、あれがセイゴお前の言う、気味の悪い化け物か?」
「……見えますか」
「ああ、肉塊みたいなのが追いかけてきてるのが見えるぜ」
「僕も、見えるよ……これは確かに気味が悪いね……」
ようやく彼らにも見えるようになったらしい、これで情報共有も簡単になる事だろう。……しかし急に何故見えるようになったのか、些細なことのようだが、少し気になる。――――ただ、些細なことでは済まない事がこれから分かるのだが。
『GYOOOOOMMMMMMM!!!!!!!』
醜い肉塊から芽が生えたかのように巨大な顔が出現し、産声を上げる。
「なんだぁ? お目覚めってことか?」
「な、なんですかアレ……」
追いかけて来る肉塊が更に膨張していく。
その増大し続ける質量に耐えられなかったが故か、橋が崩れ始める。
やがて、分かりやすく胴体、そして脚部が構成され始める様が見えてしまった。
「……今、やるしかないか……!!」
意を決した表情をしたタカヒデが前座席の中央にあるスイッチを押す。
すると、車両後部から何かが落ちる音がした。
「さぁ、火薬の馳走ってわけだ。思う存分食らっちまえ!!」
小さな円柱の物体が、奴に向かって行き……大爆発を引き起こす。
サイズからは想像できないほどの威力だ。もはや後方は巻き上がる煙で何も見えない。この威力なら倒せないにしろ多少は……
『DYAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAAAA!!!!』
煙の向こう側から笑い声にも聞こえる声が大気を、そして乗っている車をも震わせる。
突如として煙は吹き飛び、8本の足を駆使してデカブツがこちらを超スピードで追いかけ始めた。奴の体にはダメージらしいものは見受けられない。
だが、それだけにとどまらない、腕を構成ししながら、この車両に手を伸ばしている様が見えた。
「頑丈だな!! この野郎!!」
「ヒイッ!!」
テルアキが心底震えあがる。
フルスロットルで走行する車にあと少し、あと少しで奴の手が届く段階で……
「――――!!」
やっとの思いで振り切ることに成功したのだった。




