((6))
「おーいセイゴ君」
「うん? おお、良かった!!」
昨晩、初めて出会った二人が再び相まみえる。
出会えたこと自体は偶然であるのだが、これはお互いに会おうという気が合っての事だ。本当の意味で偶然会ったのは昨日の事である。
「昨日の情報交換は目標の事だけだったしな」
そう、セイゴは苦笑いをしながら話を切り出す。
それに対し、テルアキもまた頬を掻きながら苦笑いで答えた。
「はは……そうだね、そっちに集中しすぎちゃったからね」
まだまだ、このゲームのような世界から解放されるとは到底思えない。昨日まさにチュートリアルでも終えたというべきかもしれない。
「いや、でも頼りっぱなしだったからな……」
本当なら一人で完遂させるべきだったのかもしれない。
そんな気持ちがあるが、それに負けないくらい自分と同じ境遇であろう人物に出会えたことが彼、神崎清吾にとって嬉しい事なのだ。
ここでは有力な他者との情報通信手段である掲示板は家では全くその効果を発揮してくれなかった。
そのため昨日、帰還した後、このゲームのようなもの関する根本的な情報交流をしなかったことに気が付いた時、思わず頭を抱えてしまったものだ。
そうだ、まずは掲示板のことについて聞いてみよう。
そう、思い立ちテルアキに尋ねると、彼は掛けている眼鏡を光らせながら、何の事やらと不思議そうな反応を示す。
――――掲示板など聞いたことが無いと……
「まぁ、それは置いておこうよ。ちょっと今日は君にどうしても会って欲しい人がいるんだ」
「会って欲しい人?」
「昨日はたまたま僕一人だけだったし……会って欲しいというか……向こうから来たというか……」
テルアキの表情は少し申し訳なさそうに見える。歯切れの悪い言い方もそれに拍車を掛ける。
だが、ほぼ間違いなく自分たちと同じ境遇の人物という事だろう。
仮にそういう事ならば、会わないという選択肢はまず、選ぶべきでない。
そう、結論付けてテルアキに了承の旨を伝えると……
「よう!! 君がセイゴ君だな?」
「うおッ!?」
セイゴの背後に突としてベージュのつばの広い帽子を被った40台くらいの男が現れる。
満面の笑みで、つばを人差し指でなぞりながら、会話を強行し始める。
「おっさんは、秋月高秀っていうんだ。よろしく!! じゃあさっそく行こうか!!」
「え?」
「ああ、やっぱり……」
中々に強引な男、秋月高秀。
理由も分からず彼に連れられ、大通りを進むセイゴ。
その二人の後を、半ば呆れた表情で後を追うテルアキ。
暫くの間、『君もこの世界の人間じゃないだろ?』、『他にも転移先を増やせるぞ』、『俺はダンディだ』、『掲示板は知らないが、連絡手段はみんなあるぞ』、『俺はダンディだ』、『向こうにも仲間たちが――――』、『俺はダンディだ』、などと会話をしながら、道を進んでいくと……やがて街を出る。セイゴにとってしてみれば街の外は初めての事だ。その場所は木々はあるにはあるが、あまり多くなく、大きく開けた景色がセイゴの視界に広がる。
「ふーむ、この辺りでいいな」
「えーっと、何がです?」
「直ぐに分かるよ」
周囲を見渡したタカヒデが一人で納得をする。よく分からないがテルアキの反応を見る限りでは、何か面白いことでもしてくれそうな雰囲気だ。
何かの確認をしたタカヒデが自身のポケットから鍵に見える物を取り出す。
その取り出した鍵は彼の手のひらの上で急にバラバラになる。その様にセイゴは表情にはあまり出さなかったものの、内心で驚く。
次第に鍵がバラバラになった物が光の粒子のように変化し、三人の目の前の地面で粒子のようなものが結合し始める。
「これは――――」
「ああ、俺のお気に入りでな。カッコいいだろ? 勿論俺もだけどな!!」
そうして、明らかに光の量が増大し、集まり……軍用車両のようにも見える巨体の車両がセイゴの目前に出現する。
自分のSHOPでも似た車両は確認しているがこんなにも早くはお目にかかれるとは思っていなかった。いつかは自分の車両を購入したいとも思っていたので、実物を確認できるのは非常に有難いだろう。ただ、運転をしたことは勿論無いのだが……
「高秀さん、つまり車でそのD55-81地点までに連れて行って貰えるってわけですね?」
「おう! 他の街っぽいとこを経由していけば歩きでも行けるんだが、お前さんとしても早く、行ける場所やできるミッションが増えるのは悪いことじゃないだろ?」
「……そうですね」
「よし! そうと決まれば、後ろに乗った乗った!! おっさんは向こうにいる仲間に連絡を入れるから中でちょっと待っててくれ」
そう、言い残し少し離れた木陰に入るのを何気なく見た後に、二人は彼の愛車の後部座席に乗り込む。……お世辞でも綺麗とは言えない車内だ。何かの用紙が少しばかり散乱しており、枕……いや、クッションのようなもの等々転がり落ちている。車中泊でもしていたのかもしれない。
助手席にはシートベルトを丁寧にした人形が置かれている。……これに関してよく分からないがあまり、突っ込まない方がいいのかもしれない。
「連絡か……」
車内の件は一旦は置いておくとしてだ、一体何の連絡をしているのだろうか。
「まぁ、誰か迎えにでも来てくれるように手配してるかもしれないね」
「そうか。……そういえばお前はどこで高秀さん達と知り合ったんだ?」
「ああ……実は会ったのは最近なんだ。僕も君と同じように最初の転移先がA23-42地点でね……そういえば、まだこの話はしていなかったよ」
テルアキは自分と同様にA23-42地点でたった一人、コツコツミッションをこなしていたらしい。そこを偶然通りかかった。タカヒデ達に遭遇して拾われたという訳だ。――――しかし、テルアキといい、自分と言い、こうもタカヒデ達に拾われるとなると彼らはもともと目を着けていたかのようにも思える。
「おーっと、遅くなっちまった。準備はどうだ? お前さんら?」
丁度テルアキとの会話の区切りが良いタイミングで自称ダンディなおじさんが木陰から戻り、話と車内に乗り込んでくる。
二人は、問題無いとの返事をし、それに了承したタカヒデが運転席で座り直し、出発の合図を掛ける。
「言い忘れてたが、車内がちょっとばかり芸術になってるが、ヤバイ物は置いてないから安心しろよ!!」
「「……」」
……苦笑いしかできない。




