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文章中で、主人公の心情と状況の説明が分かりにくい場合がございましたらお教え頂けますと幸いです。
隔絶された自室。
ガイドが消え、その中にたった一人残された少年が、身支度を済ませ、窓の外、日が落ちた元居た自分の町の光景を眺めていた。
「静かだな……」
彼の住居は元居た場所では少しだけ小高い場所にあり窓から一望することができる。
…室内の時計は既に当てにならないので正確な時間は分からないが、復活に必要な6時間を考慮すると今は真夜中になるだろう。
だが、全くと言っていいほど音が無い。
この町は大都市までとはいかなくとも、そこそこの規模を誇る。深夜帯とはいえ、車の通る音等ぐらい微かに聞こえてもおかしくはないはずだ。
まぁそれよりも、急に深夜になっても部屋から出てこなくなった息子に何も親が反応を示さないことを異常とするべきか……
「寂しい……か」
本当の意味で急に一人になるとは何と、物寂しいことだろう。
そういった理由もあり、ガイドが消えた後で掲示板に張り付いてみたのだが、どうも不調らしい。ところどころ文字化けやエラーの表示が多々確認できるのだ。人はいるようなのだが、まともに使えたものじゃない。
…一人がそんなに嫌ならば最悪の手段としてガイドを呼べばよいのだろう。ただ、どうも最後の会話が気掛かりでそんな気にもなれない。
「――」
6時間分の復活時間があったが故なのか全く眠くない。それに加えて他にやることもないので、特に理由もなく椅子に座り、おもむろにSHOP画面を開く。
まず最初に画面には食事や飲料、生活必需品や筆記用具などが表示される。次に画面を切り替えると、先とは一変、一面が物騒なものになる。
それもそのはず、ずらりと剣や刀、機関銃やその弾丸、催涙スプレーのようなものに、挙句の果てには装甲車らしきもの等々が表示される。
が、基本的に強力そうな商品は現在の彼の取得しているポイントから考えると、どれも高額なものばかりだ。生活費のこともある、迂闊には手を出せない。
更に画面を切り替えていくと、カラフルな結晶、怪しい色合いの薬品、変わった服装・装備・装飾品などが画面を彩る。
「買ってみるか」
丁度水分が欲しいと思ったので、試しにミネラルウォーターのボトルを一つ購入してみる。
必要な動作はいたって単純で、購入画面から支払いをするだけだ。
初めての事なので間違いか無いかどうか、何度も何度も確認した後に支払いを済ませる、すると依頼を受け取った合図であるのだろうか、如何にも支払いっぽい音楽が鳴る。
『♪』
「……さてさて」
一体どうやってこの部屋に届けてくれるのか。ほんの少しだが、楽しみではある。
そうして……待つこと30秒後くらいだろうか。
個人的には転移するという手段がこの世界には存在するという理由から、商品が転送でもされてくるのではと予想していたため、たとえ30秒間であってもやけに長く感じるというものだ。
『ギギギギ……』
すると、背後の例のドアが開く音がした。
……いや、そもそもうちのドアはこんな音がしただろうか。
セイゴは若干驚きながらも背後の変化を確認する。すると彼はその変貌に目を開く。
――――なるほど、確かに妙な音がするわけだ。
彼の目線の先には自室の木製ドアではなく、金属製重厚そうなドアが代わりに開いていたのだった。
そのドアが開いた先には、真っ白な空間の中にポツンと、ワゴンとその上にミネラルウォーターが置かれている様が見える。
「ここまでやるなら、直接届けてくれてもいいだろ……」
目にした光景の素直な感想として思わずそう呟いてしまう。
ぼやいても仕方がないので自分の足で商品を取りに向かう。恐る恐る空間に入ってみると出入り口からでは分からなかったが、とてつもなく広い室内に感じられる。
いや、室内というよりはもはや一つの世界と言ってもいいのではないだろうか。彼の目にはすくなくとも空間の終わりらしい終わりが見えないのだ。
目標物を手に持った彼は、一種の恐ろしさをも感じられる空間に容易く飲み込まれてしまいそうな気がして、そそくさとその場から脱出する。
足早な彼が出てくると、自ずからドアが音を立てて閉まり、元の木製ドアに瞬間的に切り替わってしまった。
「便利なのか、不便なのか……」
どんな理由があってあのような配送方法なのかはよく分からないが、一応、掲示板とは異なりちゃんとSHOPは機能するらしい。
つまるところポイントさえ確保できるならば、ここでも一先ずは暮らしていけるということだろう。
ただ、肝心な問題はそのポイントを稼ぐことなのだが……
「アレはどうする……」
前回のミッション?の失敗した原因である黒いデカブツ。出来れば遭遇したくない相手だ。
だが、そうは言ってもポイントは有限だ、結局は行くしかないのだろう。
ガイドが言うには、窓の外が夜ならば、異世界も夜というように時間は同じらしい。日の出ている内に行動すれば先に発見して先手を打てるかもしれない。その上、残機にもまだ余裕がある。今はまだ、挑戦すべき状況のはずだ。
「明日、朝一でいくか」
そう呟いてベッドの上にへと身を転がせる。
あの世界に向かうならば、少し持ち物も考えておかなければならない。他にも特殊能力について調べてたいものだ。
「――」
しかし特殊能力か……言葉の響きと言い、胸を躍らせるものがある。年を重ねたとしてもこの気持ちは無くなるような気がしない。
――――そう、期待半分不安半分の気持ちで彼は眠りについたのだった。
次回から話が漸く進む予定です。




