((2))
今回、情報量が多くなっております。
「んん……」
――――意識が覚醒する。
同時に体の感覚が次第に蘇り始め、周囲の状況が全身を通して伝わってくる。
……どうやらベッドで眠りについていたようだ。
「――」
襲い来る巨大な黒い影の事を思い出す。
昨日の出来事のようにも思えるが、つい先ほどの出来事のようにも思える刹那の如き記憶。
こうして振り返ると恐怖よりも、疑問の気持ちが勝る。
アレの正体は一体何なのか、何故だれも反応を示さなかったのか、どうして……いや、少なくとも今はこの件について、これ以上頭を使っても答えは出ないはずだ。
さて、そろそろ動くとしよう。
掛け布をめくり、上半身を起こす。
ゆっくりと目を開けると、未だ、ぼやける視界に馴染み深い自室と――――
「おはようございます♪」
「ああ、どうも……」
自分の椅子に腰かけた素足の、馴染みの無い、麗しい少女がこちらに微笑みながら語り掛ける姿が映り込む。
――――彼女を照らす月の光がより一層その美貌を引き立たせている……
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「ガイドさん……ですか」
「はい そのような認識で問題はありませんよ」
ベッドに腰掛けながら、ガイド?らしい人物から自己紹介を受ける。
…改めて確認してみるが、その容貌……エメラルドグリーンの長髪に青い目、その身に纏うは白と水色を基調としたドレスに近い服。一般観念に基づく『美しさ』そのものにストライクで当てはまっているのではないだろうか。
「――」
まあ、なんにせよ『ガイド』という名を彼女は名乗ってくれている。
情報を得る機会を求めていた自分にとって今の状況は願ったり叶ったりなので、出来る限り多くの事を彼女に尋ねてみるべきだ。
「差し支えなければ、お尋ねしたいことが多々あるのですが……」
「はい、どうぞ。私はその為に貴方様の元へと送られてきたのです」
――――送られた?
「……ですが、その前に是非とも貴方様の目で確認して頂きたいものがございますので、どうぞこちらに」
ガイドの手に招かれ、彼女と入れ替わるようにして自分の椅子に座る、そのまま促されるがままにPCを起動する。……その際、意識していたわけでは無いのだが、彼女の香りが鼻孔をくすぐった。
すると、部屋から連れ出される直前まで見ていた中心に人の形を取り囲む円とともに、幾つかのポップアップの表示が画面に映る。
『最大残機数 :3
現残機数 :2
回復まで残り : 05:51:22』
『総取得点数 :352500』
『目標 ▽ 5&$(")#88の残滅 残り時間 : 14:35:21
▽ 地点 D37ー99への到達 残り時間 : 78:22:13
▽ フレア・クラスターの回収 残り時間 : 無し
ぱっと見て、目に付くのはこれくらいだろうか。
これらだけでも、恐らくという注釈は付くが分かることが多い。……間違いなく自分はあの黒い巨体に一度やられている。
画面を見ながら、報酬が3000ポイントのミッション?に勝手に挑戦させられていたことも思い出す。
成功か失敗かどちらなのか、と問われるならば答えは失敗であると思うのだが、どうやら生存した時間分のポイントは頂けるようだ。……だからと言ってこのゲームらしいものが親切設計であると、縦に首を振ることは断じて出来ないのだが。
「どうです? これだけでもご理解いただける点が多いと存じます。私はこれらの補足に加えて他の機能の説明をこれからさせて頂きますね」
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「――」
途中、こちらからも質問を投げかけながら説明を聞きつつ、室内にあった用紙に知らない情報を簡潔に書き残していく。
・初期状態で、最大残機数は3つ、減った残機は60時間で1つ回復、復活には6時間を要する
・復活場所は自室
・残機0でのロストした者との連絡が取れていない
・PC上で異世界?における装備、服装の選択が可能。
・レーダーチャートの詳細は不明
・レベルの存在は不明
・特殊能力の詳細は不明
・目標の達成により、ポイント・特殊能力・アイテム等の報酬を入手
・目標の達成後、自室に転移するかどうかの選択が可能
・目標のみ異世界?での受注が可能
・ポイントはオンラインショップ?で利用できる
・ショップでは生活用品、アイテム等の購入が可能
・(転移先指定)の画面で異世界?やお手洗い、洗面所等に移動可能
・ネットの掲示板に近い場所にアクセスが出来る
・ガイドは説明終了後も画面から呼べる
「一通りのご説明は以上になりますね」
「……僕以外にもやはり巻き込まれた方がいらっしゃるんですね」
「はい、そうなりますね。決して一人ではないのですよ?」
…ガイドの温かい言葉がに孤独だった身に染みる。
こういった未曽有の危機に陥った時にこそ、互いに助け合うことを忘れてはならないのだ。
説明の後、すぐさま掲示板に張り付くとしよう。
「ご不便な思いをなされませんよう、私どもは貴方様と同じく皆様方が外出なさる前にこうして説明をいたしております♪」
「え?」
「はい?」
「あぁ……いや何でもないです」
「?」
――――何でもないわけではない。
事実、この説明を受ける以前に自分は1回分の残機を失う目に遭ったわけなのだが……
とりあえず、黒いデカブツについて話を聞いてみよう。
特にあのデカブツを相手にするとなると、現在の自分のスペックでは戦闘どころか、逃げきることすらままならないはずだ。
……アレがいる場所に転移などすれば直ぐに消し飛ばされてしまう。それに、街の人間がまるで気が付かなかった点も気掛かりと言えば気掛かりだ。
「巨大な……? 大変申し訳ございませんが私ではお答えできないようです」
「そうなんですか……」
ガイドですらアレの正体は分からないらしい。
ついでに説明前に転移した件も聞き出しておこう。
「あと、ガイドさんの今までの説明と転移についての質問なのですが」
「はい、只今までの私どもは貴方様方が転移する前にこうして説明をいたしております」
「ああ……そういう話ではなくて、僕は説明を受ける前に転移をしてしまったという話でして」
「はい、私どもはこうして貴方様方がご不便なされませんよう説明をいたしております」
「あの、ガイドさん?」
「私どもは、貴方様がたが転移なされる前に、ご不便なされないようこうして説明をする使命を担っております」
「いや。ですので……!」
話が明らかに嚙み合っていない。
彼女は何か勘違いしているのだろうか。
もしくは、自分の説明力が足りていないのかもしれない、そのためにも話に説明力、説得力を持たせるためにPCのスクリーンに残機数を表示する。
「ほら、ガイドさん。やっぱり僕の残機が一つ減っているじゃないですか」
「はい、確かに減っておられますね」
「ご説明の際、LOSTの可能性は転移先の世界だけで、室内で残機が減るような事は無いとのことでしたよね?」
「はい、そう御説明致しました」
「つまり、既に僕は一度転移してからそこでLOSTしたってことですね」
「はい、そうなりますね」
少々回りくどかったかもしれないが彼女も同意してくれた。
これならば齟齬無く話が伝わるはずだ。
「ですので、僕は説明の前に先に転移してしまった。という事になりますよね……?」
「はい、私どもはこうして貴方様方がご不便なされないよう説明をいたしております」
「――」
……彼女は依然としてこちらに微笑んでいる。
「他にご質問はありますか?」
「……いえ、他には何も」
「左様でございますか、ではご説明を終了させて頂きます。何かまた質問がございましたら、気兼ねなくお呼びくださいね♪」
そう言い残して彼女は光の粒子となって消えていった。
形容しがたい違和感を残しながら……




