START
『――! ――! ――!』
最初の鼓膜を破るかのような爆音は鳴りを潜め、軽快な音楽が部屋を満たす。
少年……セイゴが恐る恐る、勝手に起動したPCを確認すると、画面内に黒い背景に赤い砂嵐が吹き荒れているようだ。
吹き荒れる赤い砂嵐が次第に画面上に固定され、次第に形を成し始める。
「こいつは……」
驚くことは、今に限った話ではないものの、現状に対する脳の理解が追い付かず、彼は放心状態になりかける。が、そんな彼に勿論説明をしてくれる訳でもなく画面は、PCは勝手に動作し続ける。
コンピュータウイルスか何かだろうか。生憎だが、そういったリスクは犯さないよう注意は払っているはずだが……もう、勘弁してもらいたい。彼の内心はただそれだけだ。
一体どれだけ、自分の身にこうも異常事態が押し寄せてくるのだろうか。閉じ込めるだけじゃ飽きたらないとでも言いたいのだろうか……
――――やがて、黒と赤で構成された目に悪い暗い画面とは反して馬鹿みたいに明るい音楽とともに、その赤い形がはっきりと浮かび上がる。
『Wえlcome !! SEイゴ!!』
表記の異常は見られるが歓迎の文字が表示され、その下には真顔のマークと笑顔のマークのようなものが赤く、交互に切り替わりながら表示される。
自分の名らしき文字が表示され、セイゴは多少驚きはしたがもはや彼は動じない。異常が度重なり、彼の感覚がマヒし始めていると言っても過言ではないだろう。
歓迎は終わったのか、文字と2種類のマークは消え、黒と赤の世界から一変し、白い背景に黒いソースコードのようなものが下から上へと次々に画面に現れる。
立ちっぱなしであった彼はここで思い出したようにゆっくりと目の前の椅子に腰かける。
十中八九今からもまた、ろくでもないことが起こるのだろう。どうせならば、態度だけでもドンと構えてやろうじゃないかと、そんな気持ちでのことだ。
「ん?」
暫く座りながら待っているとゲームのスタート画面のようなものが映り始めた。背景には大きな黄金の樹木のらしきものが一つ、右下に『 02:45 』の表示、そして白い空間が広がっている。
「妙に洒落ているな……」
ただ、スタート画面としては妙でゲームの題名らしきものが見受けられない。代わりと言ってはなんだが大きく、でかでかと自分の名前が表示されている。
また、名前の下には『start』の5文字が点滅している。……何と言うべきか先ほどからまるでこちらにゲームが語り掛けて来るかのような印象だ。
『神崎 清吾クン』
「……まあ、やるしかないか」
どのみちこの部屋に囚われの身だ。自分の名を冠するのであろう底気味悪いゲームだが、他にやることもない。
意を決した彼はスタートボタンをクリックする。すると『ザッ ザザッ』と擦れた音とともに背景にあった黄金の木が拡大し、中心に人の形を囲む円が現れ、その円の周りにモノクロでトランプの裏面のようにも見える柄が浮かび上がる。
そして、右下の時間表記は恐らくタイマーだろう。今は『 01:57 』となっている。
「なんだこれ……」
警戒しても現状が良い方向に変わるとは考えられない。その様な理由付けをし、彼は特に躊躇すること無く中心部の円の中の人の形らしきものをクリックする。
すると、ポップアップで八角形のレーダーチャートらしきものが表示されるではないか。しかしながら図が示す10の要素が表記の文字化けが原因でまるで分からない。とんだ欠陥である。
「他には……よく分からないな」
無論、この不親切なゲームの丁寧な説明書など持ってはいない。
手当たり次第に反応がありそうな場所をクリックしてはみたが、これ以上の収穫はなさそうだ。
『 00:13 』
右下のタイマーを見やる。
「――」
これから自分はどのような出来事に遭遇するのだろうか――――
それともそのまま何もなく自分は孤独のまま終わるのか――――
『 00:06 』
ただ、幸いと言うべきか今現在自分にはそういった漠然とした不安よりも別の問題が頭を占めている。
『 00:03 』
「そろそろ探さないとな……」
リミットが近いのはタイマーのみではない。
『 00:00 』
「便所をうぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!?」
――――今まで散々押しても引いても開かなかったはずのドアが気分でも変わったかのように突如として開かれる。
同時に開いたドアが凄まじい引力で引き込み始め、ドアの外にへと彼を連れ出したのだった。
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部屋主が消えた室内。
沈まぬ夕日が未だ差し込む、無人の部屋。
PCの稼働音が部屋を満たす。
『接続開始III…… 接ッ続完了WOO 89-%%-Q』
『……ALLCLEARRRらららら』
『目標: 2時間の生存 』
『最大獲得値: 3000 』




