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この小説が初の投稿する作品となります。
それ故に未熟な点も多々あると思いますので、表現の問題や誤字、疑問点等ございましたらご指摘いただけますと幸いです。
出入口のドアの正面に窓が一つ、同じく正面にPCやその付属品、教科書などが大きめの机の上に乱雑に置かれており、その左にはベッドとバルコニーにへとつながる窓、右には衣装棚で構成されたいたって普通の一室。
そんな何の変哲もないその一室の中、一人の少年がただならぬ様相を呈し、ドアノブを握りしめている。
「どうすれば……」
そう言い残すと暫く自分の部屋のドアノブと格闘していた彼は力なく対戦相手を掴んでいた手を放す。そして、そのまま体を重力に任せその場に倒れ込んだ。
今、現在彼は危機的な状況にある……危機的な状況とはいっても、自身の部屋の中に盗っ人などが侵入して来た…などという事ではないのだ。仮に盗っ人が侵入してこようものなら、彼は狂喜乱舞することだろう。
「もう、二時間は経ったか…?」
自室の床に倒れ込んでいた彼、神崎清吾は力なくその場から上半身を起こし時計を見やりながら、そう呟く。――――17時半だ。
「――」
――彼はいたって普通の実家暮らしの高校生であり、本日は授業、生徒会活動を終えて来た身である。今現在彼が異常事態に巻き込まれる前まで久々に時間に余裕があることもあり、家で着替え等を済ませるや否や自室にあるPCで娯楽に興じていた。
そんな彼が異変に気が付いたのは彼の言った通りに今から丁度二時間前の事である。
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「はぁ…」
デスクトップの前で空き缶を片手にため息をつきながらも椅子から立ち上がる。彼の表情はどこか落胆した表情である。それもそのはず趣味に熱中し盛り上がりが最高潮の時に限って丁度、無線が切れてしまったのだ。仕方なく無線を再起動しに行くために座りっぱなしで痺れた足のまま、ドアを開けようとするが――――
「……あれ?」
いつも通りの無意識下でドアを開けようとするも、開かない。
「んん? なんだ?」
ドアの隙間を確認するもこれといって原因らしいものは見当たらない。どうやら、開かない理由は何かが挟まっているからという訳ではないらしい。
であるのならば、ドアノブの経年劣化やそのあたりが原因になるのだろうと彼は当たりをつけ、両手でドアノブを握り、渾身の力を込めて力技でこの開かずのドアを攻略しようとする……!!
『――』
……なにもおこらなかった。帰宅した際はこうもドアノブが堅い事は無かったはずだ。
他にドアを攻略する手段は思いつかないので仕方なくバルコニーを経由して一階に降りることとする。が、左手にある窓に手を掛けるものの、こちらもまたビクともしない。内側から掛けていたロックは外したはずだ。こちらも持てる力を全て使い力技でねじ伏せようとするも。またもや微動だにしない。
「な……どうしてだ!?」
多少、窓が開けにくい時はあるだろう。だが、ここまで強固なのは一体どういうことなのか。同じくドア正面の窓を試してみるも同様に開かずじまいだ。
とどのつまり、この部屋に閉じ込められてしまった。そういう認識でいいだろう。
「母さん!! いるか!?」
声が届くよう大声でドアを力強く叩きながら助けを求める。……返事が無い。
「まて、落ち着け……落ち着け……」
悪い方向に頭が、思考が傾きかけるので、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。急いては事を仕損じるという。今、置かれたこの状況を冷静に分析することに思考を割くべきだ。
「…」
まずは、現在の時刻だ…17時半。窓から夕陽が部屋に差し込んで来る。そろそろ日が沈む頃だろう。
いやいやいやいや、そうじゃない。問題点だ。問題点を炙り出そう。そう、問題点はこの部屋から出られないってことだ。自分の力じゃ窓もドアを開けることもぶち破ることも出来やしない。第三者の助けが必要だ。
だが、恐らくリビングにいる母親に助けを求めるもまるで反応がない。いつもならあんまりにも騒いでいれば、すぐに文句を言いに駆け付けるはずなのだが……。
「いや、待て。電話すればいいだけの話だ……」
至極単純な答えに至る。やはり冷静さを失うことは窮地の時こそ、出来得る限り避けたいものだ。
一先ずは気持ちが落ち着き、いくらか安堵した気持ちで息子の危機を母親に知らせようとスマホを起動するも――――
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「どうしたもんかな…」
圏外だったのだ。住いは市内の中心。特別に電波の届きにくくなった。などということは有り得ないはずだ。
「……眩しいな」
異常はそれだけにとどまらない。……スマホの時刻表示の異常だ。
塗り潰されたかのような表示が起動すると映り込む。PCも確認したが同様の表示が映る。原因は不明だが同じ原因に由来すると考えていいだろう。
そして太陽だ。……まるで沈む気配がない。
異常に初めて気が付いた際、確認した時刻は17時半であったはずだ。もうじき季節は冬に差し掛かるという頃。日の入りの時刻も当然早まる。
彼の体感時間として、かなりの時間が経過したはずである。にもかかわらず未だ夕日が部屋に立てかけてある止まった時計を優しく照らし続けている。
「――」
動かぬ秒針。
未だ沈まぬ太陽。
届かぬ声。
まるで自分と、この自分の部屋が元居た世界と隔絶された場所に放り込まれてしまったかのような感覚が彼を包み込む。
あまりに浮世離れした状況であるが故か、既に嘆きや焦燥感といった段階は通り越してしまい、このまま朽ち果ててゆくのだろうと、一種の達観した心持ちになっていたその時――――
『――!! ――!!』
「今度は何だ!?」
空気が揺さぶられるかのような大きな音とともに電源を落としていたはずのPCが勝手に起動したのだった。




