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14. 魚釣り


 そして始まった魚釣り。

 アーロンとエリアスは岩場で少し距離を取って竿を持ち、互いに目を合わせることもなく、真剣に海に向き合っている。

 班での共同作業のはずなのに、こんなにピリピリした雰囲気でいいのだろうか。


「ねえ、エリアス殿下と何かあったの? いきなりキャラ変してビックリしたんだけど」


 ミアがエリアスに目線をやりながら尋ねる。


「えっと、特に何もないけど……」

「嘘おっしゃい。さっきエリアス殿下が、ルシンダと二人きりになって、『ありのままの殿下が好きです』って涙目で抱きつかれたって言ってたじゃない」

「いや、そんなことは言ってないからね」


 ところどころ話が盛られているミアの妄想をばっさり切り捨てた後、ルシンダは一昨日の雑木林での出来事を話した。


「なるほどねぇ、あなたって本当に1人にしておくと危なっかしいんだから……」


 ミアが呆れたような顔をして頬に手を当てる。


「まあ、前のエリアス殿下は胡散臭くて嫌な感じだったから、今くらいはっきりツンツンしてるほうが、まだ好感が持てるかもしれないわね」


 そうしてミアは、ふぅと溜め息を一つ吐いた後、肘でルシンダをつつきながら、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「ところで、ルシンダはどっちを応援するの?」

「えっ、応援って?」

「釣りよ、釣り。今あそこで二人が勝負してるじゃない」


 ミアが岩場のアーロンとエリアスを指差す。ちょうどエリアスが何かを釣り上げたようで、慣れた手つきで桶に魚を移していた。


「二人とも頑張ってほしいよ。同じ班なんだから」

「も〜、それはそうなんだけどぉ」

「それにしてもエリアス殿下って多趣味なんだね。薬草に詳しいし、前はサミュエルと虫の話で盛り上がってたし、釣りも本当に上手」

「まあ、たしかにそうね。あんな儚そうな外見なのに、意外とサバイバル能力が高そうだわ」


 エリアスがまた一匹魚を釣り上げるのを感心しながら眺めていると、視線に気づいたエリアスが振り返り、釣った魚をアピールするように振ってみせる。


「エリアス殿下、すごいです、その調子です!」


 エリアスを応援したら、アーロンがなんとも言えない悲しげな眼差しを寄越してきたので、ルシンダはハッとした。


「どうしよう、真剣勝負を邪魔して気を悪くさせちゃったかな……?」


 申し訳なさそうに眉を下げるルシンダに、ミアが言う。


「……そういうのじゃないと思うわ。アーロン殿下も応援してあげれば機嫌も直るはずよ」

「えっと、じゃあ……アーロン殿下も頑張ってください!」


 ミアのアドバイスどおり、意を決してアーロンにも声を掛けてみる。すると、心無しか負のオーラをまとっていたアーロンの表情がぱっと華やいで、生き生きとした笑顔で手を振ってくれた。


「そっか、応援は平等にしないと失礼だもんね。教えてくれてありがとう、ミア」


 的外れなお礼をしてくるルシンダが本当に鈍すぎて、ミアが呆れた表情を浮かべる。

 それでも、「ミアはお魚料理、何が好き? 頑張って作るよ!」なんて言ってくれるのが嬉しくて、ミアはついついこの愛らしい鈍感少女の頭を優しく撫でるのだった。



◇◇◇



 アーロンとエリアスの釣果は、アーロンが四匹、エリアスが六匹だった。

 魚の入った桶を見比べながら、アーロンが主張する。


「数では負けましたが、大きさでは私が勝っていますから」


 たしかに、数はアーロンのほうが少ないものの、大物の数はアーロンのほうが多いし、サイズも上回っている。


「はぁ、負けず嫌いって見苦しいよね。僕は『アーロンよりたくさん釣る』って言ったことは実行できたから、勝ちは譲ってあげるよ」


 小馬鹿にしたような物言いのエリアスを、アーロンが無言で見つめる。爽やかな笑顔を浮かべているが、怒りのマークが浮かんでいるように見えるのは気のせいではないだろう。


「あ、あのっ、お二人が立派な魚をたくさん釣ってくださったおかげで、豪華な昼食にできそうです! ありがとうございます! さあ、新鮮なうちにお料理しちゃいましょうっ……!」


 ピリピリした空気を和らげたくてルシンダが間に割って入ったのだが。


「ルシンダ嬢、魚の鱗取りは僕に任せて。なんなら捌くのも手伝うよ。アーロンはそういうのはできないだろうからね」


 エリアスは親切に手伝いを申し出ながらも、抜かりなく挑発を続ける。


「……私だって、教えてもらえればそれくらいできますから」

「そうかな? 去年はスープもろくに作れなかったらしいけど」

「それとこれとは話が別です……!」


 どんどん悪化する雰囲気にルシンダが動揺していると、ゴホン! と大きな咳払いの音が聞こえた。


「殿下たち、張り合うのは結構ですけど、そんなことばかりしていて嫌われても知りませんからね。あと、ルシンダは臨海学校をとっても楽しみにしていたことをお忘れなく」


 ミアが怖い顔でそう告げると、アーロンとエリアスは気まずそうに顔を見合わせ、揃ってルシンダのほうへ顔を向けてぎょっとした。


「す、すみません、ルシンダ! もう言い争ったりしませんから……」

「……悪かったよ、僕が言い過ぎた」


 瞳を潤ませ、今にも泣き出しそうなルシンダを前にして、アーロンとエリアスが慌てて謝る。


「……約束ですよ、みんなで仲良く協力しましょうね」

「もちろんです」

「約束する」

「……じゃあ、仲直りして、お料理を始めましょう」

「はい。エリアス王子、私たちで魚を運びましょう」

「……そうだね。処理の仕方も教えるよ」


 若干のよそよそしさはあるものの、約束どおりちゃんと協力しようとする二人に、ルシンダが安堵の笑みを見せる。

 その様子にアーロンとエリアスもほっとしたように胸をなでおろすのだった。


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