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13. 臨海学校


 それから三日後。

 夏らしく照りつける日差しの中、ルシンダはミアと並んで海岸沿いを歩いていた。


 去年の同じ時期は林間学校があり、学年全体で山林に出かけて二泊三日の課外活動を行ったが、二年生に進級した今年は海に行くらしい。いわゆる臨海学校だ。


 前世では海辺での宿泊は経験したことがなかったので、楽しみで仕方ない。


 ちなみに、班はくじ引きで決められ、ルシンダはミア、アーロン、エリアスと同じ班だった。


 潮風の匂いを吸いこんで顔を綻ばせるルシンダに、ミアたちが気遣わしげに尋ねる。


「ねえ、具合はもう大丈夫なの?」

「ルシンダ、心配しましたよ」

「辛いときは言って」


「みんな、ありがとう。もうすっかり大丈夫です」


 数日前、野草の毒で体調を崩したルシンダは、昨日まで学院を休んでいた。


 あの日はダウンしてからすぐに帰宅し、医者に診てもらって安静にしていたが、うっすらと気分の悪い状態がなかなか治らなかった。


 でも、エリアスがすぐに対処してくれたことと、心配したクリスが夜遅くまで看病してくれたおかげで、翌日にはほぼ回復した。

 念のため、もう一日自宅療養し、こうして臨海学校までに完全回復することができたのだった。


「これから二泊三日、よろしくお願いしますね」


 微笑むルシンダに、アーロンが真っ先に返事をかえす。


「こちらこそ。それに、今年はルシンダと一緒の班になれて本当によかったです。1か月間、ずっと願掛けしていた甲斐がありました」

「願掛け……?」

「はい。最近くじ運が思わしくないので、今回は少しでも運を上げるために願掛けをしてみました。どうしてもルシンダと同じ班になりたかったので」


 そういえば、卒業パーティーでのファーストダンスの相手を決めるくじ引きでは、結局ユージーンが当たりを引いたのだった。


 ガッツポーズをして大喜びのユージーンの周りで、他の人たちが溜め息を吐いたり頭を抱えたりしていたのを覚えている。


 たしかアーロンは3番目の順番になり、「どうせなら最後のほうがずっと良かったです……」と嘆いていた気がする。ちなみに最後の4番目はクリスだった。


 とはいえ、今回同じ班になるために願掛けまでするなんて驚きだ。でも、親友とはそういうものなのかもしれない。


(私だって、絶対またミアと一緒の班になりたかったもの)


 だから、アーロンもそんな風に思ってくれていたのだろう。

 温かな友情が嬉しくて思わず口元を綻ばせると、アーロンが麗しい笑みを浮かべた。


「二泊三日、二人の思い出をたくさん作りましょう」

「殿下、お言葉ですが、わたしもいますので」


 アーロンから握られかけていたルシンダの手を、ミアがさっと掻っさらう。


「ルシンダ、今年も一緒でよかったわ! また楽しく過ごしましょう」

「うん! 浜辺で貝殻集めとかもしてみたいな」

「いいわね。自由時間のときに探しましょ」


 ミアと楽しそうにお喋りするルシンダを、アーロンは溜め息をつきながらも穏やかな眼差しで見つめる。

 そしてそんな彼らを、エリアスがどこか面白くなさそうな表情で眺めていた。



◇◇◇



「臨海学校でもやっぱり初日の昼食は自分たちで用意するのね」


 宿泊施設に到着し、学年主任の教師からこの後の予定を聞かされた後、ミアがうんざりした様子で嘆いた。


 去年の林間学校では施設に到着早々、スープ作りをさせられたが、今年も調理をしなければならないらしい。しかも、自分たちで食材となる魚介類を調達して。


 去年の林間学校では食材は用意されていた。学年とともに難易度も上がるシステムなのだろうか。


「去年のスープは本当に最悪でしたが、今年はルシンダと一緒だから安心ですね」


 アーロンが一瞬遠い目をしながら言う。

 去年、アーロンの班ではとにかくセロリ臭い野菜生煮えスープを食す羽目になったのだった。


「えっと、頑張りますね。その前にちゃんと魚を釣らないとダメですけど」

「釣りですね。多少の心得はありますので安心してください。必ず釣り上げます」

「ありがとうございます。私は釣りは全然やったことがなくて……。ミアはどう?」


 ルシンダが尋ねると、ミアは苦笑いしながら肩をすくめた。つまり、ミアも釣りはできないらしい。


「エリアス殿下は……?」

「故郷ではよく釣りをしてたから自信はあるよ」


 エリアスの故郷であるマレ王国にも海岸があり、魚がたくさん釣れるらしい。


「アーロンよりたくさん釣ってあげるから安心して」


 エリアスの挑発的なセリフに、アーロンの笑みが深まる。


「……なるほど、それがあなたの本性ですか」

「この間、ルシンダ嬢と二人きりのときに『ありのままの殿下でいて』って涙目で言われちゃってさ。そんな風に懇願されたら応えるしかないよね」

「は……?」


 アーロンが呆然とした表情で立ち尽くす。


「エリアス殿下……ちょっと語弊が……」


 ルシンダが慌ててフォローしようとすると、エリアスが儚げな笑顔を浮かべながら、こてんと首を傾けた。


「ルシンダ嬢は、こういう僕は嫌い?」

「い、いえっ、嫌いだなんてことはありませんけど……!」

「そう、よかった。最初からこうしてれば楽だったな。じゃあ、早く魚を釣ってしまおう」


 どこかすっきりした表情のエリアスと、笑顔が怖いアーロンと、「やだぁ、なーに、このバチバチ展開〜」と妙に楽しそうなミア。

 その後ろで、ルシンダは「どうしてこうなったんだろう?」と頭を抱えるのだった。


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